9 / 41
救急車を呼ぶ
しおりを挟む
「ここに学校の住所が書いてありますから。」
保健の先生が、学校の封筒を持ってきてくれた。私はスマホで119番通報を。
何度も頭の中でシミュレーションしてきた。電話が苦手というか、トラウマだらけな私。通報なんてできるとは思えなかった。夫が手の指を切ってしばらく血が止まらなかった時、私自身のお腹が痛くて動けなかった時、119番通報をするかも、と思っただけで心臓はバクバク、手汗はどっと出て、とてもできる気がしなかった。けれども、最初に「火災ですか、救急ですか」と聞かれるから、「救急です」と答える所から始まるのだという知識はあった。
さて、今は不思議と心臓はバクバクしていないし、手に汗も握っていないし、足もがくがくしていなかった。歳と共にあまりドキドキしなくなったのは確かだ。そうやってもろくなっていく血管と共に変化して、体を守っていくのだな、と妙に納得してしまうが、今回は歳のせいだけでもなさそうだ。妙に落ち着いている。苦しむ子供を前にして、肝が据わっていると言うか、そうだな、救急車に来てもらいたいと心から思っているからかもしれない。
119を押して電話マークを押し、耳に電話を当てるとすぐに出た。
「火災ですか?救急ですか?」
火災だったか火事だったか、そっちは覚えていないが、とにかくシミュレーション通りの問いかけが来て、
「救急です。」
と、落ち着いて答えられた。
「住所を教えてください。」
次にそう聞かれ、封筒を見ながら住所を言う。
「あなたのお名前を教えてください。」
来た。何とか、言える。私は名前を名乗るのが苦手なのだ。それからやっと、
「どなたがどのような症状ですか?」
と聞かれた。
「息子が腹痛で、のたうち回っています。嘔吐もしています。」
と答えた。のたうち回っているというのは大げさかもしれないが、まあ、似たようなものだろう。
それから、ここが学校だという事は住所の時にも伝えたので、先生は承知しているかと聞かれ、門のところで誘導をお願いしてくださいと言われた。そして、もう一度住所を聞かれた。確認の為だろうか。
電話を切って、思わず次男に、
「初めて救急車を呼んだよ!」
と言ってしまった。ほとんど反応はなかったけれど。そこへ保健の先生が現れたので、
「人生で初めて救急車を呼んでしまいました。」
と言ったら、先生も、
「私も、学校に救急車を呼ぶのは初めてです。」
と言った。あれ、学校にはよく救急車が来るものだと思っていたが、高校だとそうではないのか、と思った。この先生は若いから、それほど経験がないのかもしれないとも。だが、後で次男に聞いたところによると、この先生は今年から着任したそうで、その前にはこの学校にも救急車は来た事があるそうだ。え、私が前に次男を迎えに保健室を訪れた時の先生、この先生ではなかったの?と、後になって愕然とした。この時はてっきり初対面ではないと思っていた。
保健の先生が、外に続く扉を開けた。開けた事がないのか、片方しか開かないと言ってガタガタ言わせていたが、そのうち全部開いたようだった。寒い日ではなくてよかった。
保健の先生から、折り返しの電話が来ると言っていませんでしたか?と聞かれて、言われていないと思ったが、やっぱり電話が掛かって来た。知らない人から来たと思って一瞬躊躇してしまったが、出た。女性の救急隊員から、救急車の中から掛けていると言われ、次男の生年月日とか、前日に生ものを食べたかとか、新型ワクチンはいつ頃接種したかとか、色々と聞かれた。そうして、救急車はすぐに到着した。
保健の先生が、学校の封筒を持ってきてくれた。私はスマホで119番通報を。
何度も頭の中でシミュレーションしてきた。電話が苦手というか、トラウマだらけな私。通報なんてできるとは思えなかった。夫が手の指を切ってしばらく血が止まらなかった時、私自身のお腹が痛くて動けなかった時、119番通報をするかも、と思っただけで心臓はバクバク、手汗はどっと出て、とてもできる気がしなかった。けれども、最初に「火災ですか、救急ですか」と聞かれるから、「救急です」と答える所から始まるのだという知識はあった。
さて、今は不思議と心臓はバクバクしていないし、手に汗も握っていないし、足もがくがくしていなかった。歳と共にあまりドキドキしなくなったのは確かだ。そうやってもろくなっていく血管と共に変化して、体を守っていくのだな、と妙に納得してしまうが、今回は歳のせいだけでもなさそうだ。妙に落ち着いている。苦しむ子供を前にして、肝が据わっていると言うか、そうだな、救急車に来てもらいたいと心から思っているからかもしれない。
119を押して電話マークを押し、耳に電話を当てるとすぐに出た。
「火災ですか?救急ですか?」
火災だったか火事だったか、そっちは覚えていないが、とにかくシミュレーション通りの問いかけが来て、
「救急です。」
と、落ち着いて答えられた。
「住所を教えてください。」
次にそう聞かれ、封筒を見ながら住所を言う。
「あなたのお名前を教えてください。」
来た。何とか、言える。私は名前を名乗るのが苦手なのだ。それからやっと、
「どなたがどのような症状ですか?」
と聞かれた。
「息子が腹痛で、のたうち回っています。嘔吐もしています。」
と答えた。のたうち回っているというのは大げさかもしれないが、まあ、似たようなものだろう。
それから、ここが学校だという事は住所の時にも伝えたので、先生は承知しているかと聞かれ、門のところで誘導をお願いしてくださいと言われた。そして、もう一度住所を聞かれた。確認の為だろうか。
電話を切って、思わず次男に、
「初めて救急車を呼んだよ!」
と言ってしまった。ほとんど反応はなかったけれど。そこへ保健の先生が現れたので、
「人生で初めて救急車を呼んでしまいました。」
と言ったら、先生も、
「私も、学校に救急車を呼ぶのは初めてです。」
と言った。あれ、学校にはよく救急車が来るものだと思っていたが、高校だとそうではないのか、と思った。この先生は若いから、それほど経験がないのかもしれないとも。だが、後で次男に聞いたところによると、この先生は今年から着任したそうで、その前にはこの学校にも救急車は来た事があるそうだ。え、私が前に次男を迎えに保健室を訪れた時の先生、この先生ではなかったの?と、後になって愕然とした。この時はてっきり初対面ではないと思っていた。
保健の先生が、外に続く扉を開けた。開けた事がないのか、片方しか開かないと言ってガタガタ言わせていたが、そのうち全部開いたようだった。寒い日ではなくてよかった。
保健の先生から、折り返しの電話が来ると言っていませんでしたか?と聞かれて、言われていないと思ったが、やっぱり電話が掛かって来た。知らない人から来たと思って一瞬躊躇してしまったが、出た。女性の救急隊員から、救急車の中から掛けていると言われ、次男の生年月日とか、前日に生ものを食べたかとか、新型ワクチンはいつ頃接種したかとか、色々と聞かれた。そうして、救急車はすぐに到着した。
0
あなたにおすすめの小説
島猫たちのエピソード2025
BIRD
エッセイ・ノンフィクション
「Cat nursery Larimar 」は、ひとりでは生きられない仔猫を預かり、保護者&お世話ボランティア達が協力して育てて里親の元へ送り出す「仔猫の保育所」です。
石垣島は野良猫がとても多い島。
2021年2月22日に設立した保護団体【Cat nursery Larimar(通称ラリマー)】は、自宅では出来ない保護活動を、施設にスペースを借りて頑張るボランティアの集まりです。
「保護して下さい」と言うだけなら、誰にでも出来ます。
でもそれは丸投げで、猫のために何かした内には入りません。
もっと踏み込んで、その猫の医療費やゴハン代などを負担出来る人、譲渡会を手伝える人からの依頼のみ受け付けています。
本作は、ラリマーの保護活動や、石垣島の猫ボランティアについて書いた作品です。
スコア収益は、保護猫たちのゴハンやオヤツの購入に使っています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。
◇
🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
🔶🐶挿絵画像入りです。
🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる