第二の人生への過渡期~初めて救急車を呼んだ出来事~

夏目碧央

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着替えを届けに

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 さあ、翌朝もゆっくりしてはいられない。次男の着替えを届けに行かなければならない。入院の際に言われた持ち物は、パンツとシャツと靴下、飲んでいた薬(もう飲まないと思ったが、飲むかもしれないから一応と言われた)、マスク、スマホの充電コードだった。忘れないように、夕べの内にそれらを積んでおいたが、入れ物を探すのは今日にしようと思っていた。
 朝、夫を起こすと、開口一番、
「病院から電話、無かったよね。」
という。え!何?そういえば、私のスマホは夜中には鳴らないようになっている。固定電話だと、寝ていたら気づけないかも?と不安になったが、
「無かったよね。」
夫が更に言う。無かったはず。無かったと思いたい。
 夫も心配なのだろう。確かに、容体が急変し……いや、病院で処置してもらったのだから、前より悪くなる事はないだろう。無い、無い。
 そこへ、次男からLINEが入った。
「イヤホンも持ってきて」
良かった、無事だ。
 諸々を、次男が昨日使っていた黒いリュックに入れた。このリュックを戻してあげた方がいいだろう。あの、頼りないナイロン巾着袋では気の毒だ。それとは別に、自分の赤いバッグも用意。財布とか病院の資料などを入れる。
 なるべく早く行ってあげたかったのだが、結局到着は11時頃になりそうだった。午前中には届けた方がいいだろうと、何とか急いだ結果だ。

 最寄り駅に着いて、地図アプリで駅から病院へのルートを表示させながら進む。今はこれがあるから楽勝だ、と思ったら大間違い。
 行きつ戻りつしながらも、何とか病院の近くまでは行けた。こんなに細い道を通るのか、という事もしばしば。そして、もうこのブロックの向こう側が病院だと分かっているのだが、ナビ通りに道が無い。
 行き止まりだよな、と思って、仕方がないから道のある方へ進む。しかし、いつまで経っても向こう側に渡る道が無いではないか。これは困った。戻る。いや待てよ。ナビは本当に間違えているのか?やっぱりナビ通りに行けるのではないか。そう思って行き止まりだけれどもナビが差す方へ行ってみると……なんと、人が1人通れるだけの「隙間」があった。道ではない。家と家の間の隙間。
 荷物があるから体をよじってその「隙間」を通り抜けると、私道のような人の家の庭のような所を少し歩き、道路に出た。すると、振り返ればそこが目指している病院だった。なーんだ、ナビは合っていたのか。だが、こんな狭い所を通らなくても、少しだけ大回りすれば楽に通れるではないか。コンピューターはこれだから。融通が利かないのだ。ひたすら「最短距離」を探すから。
 さて、一応予定通り11時頃に病院に到着した。昼間見る病院は、夜とは全然違う。夜は灯りが点いている「救急入り口」しか見えていなかったが、その隣の建物が少し立派で、駐車場も思ったよりも広かった。夕べは病院の正面がどこなのかも分からずに帰ってしまったのだが。
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