沼ハマの入り口

夏目碧央

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利用していただけなら

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 ソファの上に里奈を寝かせた。落ちても大丈夫なように、下に布団をたくさん重ねて置いた。
「今日、柴田に会って来たよ。」
ダイニングで一杯飲みながら、今日柴田と話した事を朝陽に伝えた。
「そう。やっぱり認めないか。」
朝陽は視線をグラスに落とした。
「どうする?ご両親と相談するか?」
「うーん。でも、いいよ。今のままで。」
朝陽は少し微笑んでいた。
「でも、養育費はもらうべきだろう?」
「ううん。姉ちゃんが生きていても、もらってなかったと思うし。」
それはそうだろう。内緒にしていたのだから。
「むしろホッとした。里奈をよこせって言われるんじゃないかって思ってたから。」
「うん。でもお前、これからずっと、このままでいいのか?」
「ずっとこのままじゃないよ。里奈はどんどん大きくなって、あっという間に独立するよ。」
「でも、独立するのは20年後だろ。お前、その頃いくつだよ。40だぞ。それまでずっと、人の親代わりだ。」
「大丈夫だよ。手がかかるのはあと数年。お金の事はまあ、分からないけど……。」
ドキッとした。お金の事は、俺に任せろと言えばいいのだろうか。それは、俺が朝陽の思う壺の中に自らドボンと飛び込む事になるのだろうか。
「その、手のかかる数年が、お前にとって一番大事な時期じゃないのか?いろんな事にチャレンジする、貴重な時なんじゃ。」
朝陽はハッとしたように俺を見た。そして、瞳が左右に揺れた。また俯いて、そして里奈の方を見た。
「俺、どうしたら……。」
「ふう。」
俺は大きくため息をついた。
「もう一度言う。俺と結婚してくれ。一緒に暮らそう。そうしたら、今みたいに家事と育児を分担できる。家賃だって分担できる。お前がここぞという時には、里奈の面倒も俺がみる。それで何とかなるんじゃないのか?そりゃ、若いお前は色んな人と遊びたい気持ちもあるかもしれないが、里奈と2人きりよりはマシだろ?」
そして、もう一度俺はため息、いや、深呼吸をした。
「ただ、それはお前が俺の事を、本当に愛している場合の話だ。」
朝陽は顔を上げない。
「もし、俺の事を利用していただけなら……。都合の良い相手だったのなら、辞めた方がいい。他の男が見つかるまで、俺を利用すればいい。」
ここで、パッと朝陽は顔を上げた。
「そんな、違うよ。利用していた、だなんて。そりゃ、そう思われても仕方がないくらい、頼っちゃってたけど。でも、俺は祐作さんの事が好きだし、感謝しているし。ただ、祐作さんを俺なんかに縛り付けていいのかなって、不安で。決められないよ。」
感動して、気分が高まって、とりあえず朝陽をベッドの上に連れて行った。家事の見返りがこれなのか、それともお互いの愛情表現なのか、本当のところは分からない。それでも、今は朝陽の言葉を信じよう。2人は愛し合っているのだと、信じよう。
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