ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第2章 未知の世界と初めての人間

海で助けた女性3(side・サイス)

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リシアのことを知りたいのはやまやまだが、最初から詮索すると警戒が強くなる。
まずはここのことから話すことにした。

しかし、リシアはどんな話を聞いても目を丸くしており、何も知らないようだ。
意識がなかったとはいえ、イルカに囲まれていた理由もわからないと表情がものがたっている。

ラナクリードの名前も知らなかったようで、どんな国か聞いてきたが…首をかしげていた。

(…?学園で習わなかったのか?わりと初めの方で習うと思ったが…)

考えにふけっていると、リシアが紙に何かを書いた。

『あの、ここはサイスさんのへやですか?』

聞かれるとは思ってはいたが…ここまで直接的だとは思っていなかった。
ただ、ここで嘘をついても意味がない。
無駄なことはしない主義なのだ。

「ああ、そうだ」

そう答えた途端、いままで以上に目を丸くして固まった。手からペンが滑り落ちそうになっている。

(ショックを受けるだろうと思ってはいたが…助けられたことより驚いているな)

リシアの顔に内心呆れつつ、俺は口を開く。

「一応言っておくが、必要と思われること以外何もしていないからな」

するとリシアはすかさず書いてきた。

『他の部屋はなかったのですか?』

違和感をみつけられないくらい早く書いていたが、体は大丈夫なのか心配になる。
それほどショックだったということか。

「他の部屋だと人の出入りがかなりある」

『それでも構いません』

(…アホなんじゃないか?それならお前は何故そんなに傷だらけで、衰弱している)

率直な感想が口から出そうになった。
しかし、初対面の女性にいう言葉ではないと自重した。

あからさまにしかめた顔を見て、リシアは首をかしげている。
ため息のでた俺は悪くない。

「あえて何も言わなかったのだが…手の甲にある鱗は隠したいものではないのか?」

最初はキョトンとした顔をして…それから徐々に顔が青ざめていく。
どうやら鱗の存在を忘れていたらしい。

『あなたは…私を…どうしますか?』

震える手で書かれた文字。
相当ひどい扱いをされてきたのか、目に見えて震えている。
さっきまで忘れていたのが不思議だが…俺の答えは決まっている。

「結論から言えばどうもしない。リシアは俺に害を与えるのか?」

正直、片手一本で倒せてしまいそうな相手を怖がるほど、俺は肝が小さくない。
案の定、リシアは勢いよく首を横にふった。
そもそも、そんな力があるならもっとマシな姿をしているだろう。
身の危険がある時にその力を使えばいいのだから。

「なら、構える必要はないだろう」

『でも、気持ち悪くないですか?』

(俺は初見で綺麗だと思った)

気持ち悪いなんてとんでもない話だ。
そういえたらよかったのだが、俺は口がうまくない。そして、恥ずかしさもある。

俺は無難な答えを言って、リシアを納得させた。
話ついでに世話のことを言ったら、顔を真っ赤にさせた。

女は嫌いだが、彼女は素直に可愛いと思う。
無性に頭を撫でたくなったが、見守ることにした。
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