ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第3章 姫(?)からメイドになりました

初めての外国

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長い船旅は終わり、ようやくラナクリードに着いた。
私は外というものを知らない。
心底ワクワクしていた。

体の調子も整い、自分で動けるようになった。
最初は歩くという動作も慣れず、何度も転び、サイスに心配された。
だからこそ、外には出してもらえなかったのだが…。

私は用意された服に着替えて、サイズが呼びに来るのを待った。勝手に動くと怒られるのだ。

「リシア、着替えたか?」

私は声が出せないので、扉を開けて着替え終えた姿を見せた。
水色のシンプルなワンピースは肌触りが良く、軽くて動きやすい。
ところどころレースがあしらわれていて可愛らしいし、腕を覆うほど長いので傷跡も見えない。それに、通気性がいいから暑いとはちっとも思わなかった。

サイスは私の姿を一通り見ると頷いて、無言のまま頭を撫でた。
言葉はないけど『似合っている』と言っているようで嬉しい。

サイスは一つ咳払いをしてから、片手を差し出してきた。
エスコートをしてくれるらしい。
そんなことされたことないから少し顔が赤くなってしまうが、ここで断ることはできない。
私は差し出された手に自分の手を重ねた。

サイスに連れられて甲板に出ると潮風が頬を撫でる。

(風…優しい)

冷たいけど柔らかいものなのだと、少し笑みが浮かんだ。
青く澄み渡った空、ふわふわと柔らかそうな雲、眩しいくらい輝いている太陽…どれもお婆さんが物語のように語ってくれたもの。

(見たこともないものでいっぱい!)

サイスはキョロキョロと、落ち着きのない私を不思議そうに眺めている。
人間であるサイスは普通のことだと思うけど、人魚であった私にとっては全てが初めてだ。

しばらくは待っていてくれたが、さすがに時間が気になるのか無言で手を引いてきた。
もう少し周りを見ていたい気もするが、あまり迷惑をかけたくない。
すると……

「気になるなら今度案内してやる」

そう言ってくれた。思わず顔を上げると、そこには相変わらず無表情な顔がある。
それでも、気遣ってくれたことが嬉しくて笑みが浮かんだ。
私は気持ちのままに勢い良く頷く。
サイスはまた、頭を撫でてくれた。

船を降りるとアルフィリードが、知らないおじさんと話をしていた。
なんとなく服が上等で、偉い人なのかな…と思うけど、アルフィリードに頭を下げていた様子からして、わからなくなってしまった。

「サイス。ようやく来たか」

「申し訳ございません。客人の用意に手間取りました」

サイズは頭を下げてそう言った。
客人とは私のことだろう。
申し訳なくなった私は、サイスと一緒に頭を下げる。

その時になって一緒にいた知らないおじさんは、私に気づいたようだ。
一瞬だけ惚けた顔をしてからアルフィリードを見た。
そして…

「殿下。このお嬢さんはどなたですかな?」

そう、アルフィリードにたずねた。
アルフィリードは私について彼に話しているが、私は固まっている。
おじさんが言ったある単語は、人魚の国で飽きるほど聞いた言葉だ。
そして、どの国でも意味は同じだろう。

(アルフィリードが…殿下?)

金持ちか貴族か…そんな風に思っていたが、おじさんは間違いなく殿と言った。
殿下とは王族の子に付けられる敬称である。
つまり、目の前にいるのは正真正銘王子様だ。

固まっているリシアをサイスは慰めるように撫でた。
しかし、石化から復活することはしばらくなかったのだった。
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