ちょっと事故った人魚姫

第5章 お友達？になりました

太陽の笑顔と太陽の影

とっさの行動だったから、ここからどうしたらいいのかわからない。
そもそも、王族に勝手に触れるのも不敬である。
冷静になって内心冷や汗を流していると、ミリュエンヌ様は腕を伸ばして抱きしめ返してきた。

苦しいくらいの抱擁だけど、それは温かいだけじゃなくて縋られている気がする。
まるで何かに怯えているかのような…そんな危うさがあった。

しばらくするとミリュエンヌ様は顔を上げてくれた。しかしそこには先ほどのような笑みはなく、涙が浮かんでいた。

その意味がわからなくて不安になってしまう。
もしかしたら抱きしめたのが嫌だったのかもしれない。
初めてだったから力加減を間違えて苦しかったのかもしれない。

そんなことを紙に書いて伝えると、目を丸くして勢いよく首を横に振った。
それは髪型がくずれるほどで、慌てて止めていただくと頭がクラクラしているようだった。

お茶を飲んで一息ついた頃、ミリュエンヌ様はポツリポツリと話してくれた。

「私はいつも行動的すぎるって言われるの。姫君たるものお淑やかに落ち着いて行動しなさいって。でも、それができないからおかしな姫だって…」

（……確かにいきなり抱きついてきたり、お淑やかな姫君らしくはない…）

「それに、もっと姫君らしく笑いなさいって。満面の笑みなんてはしたないって…」

またもやボロボロと涙が溢れる。
その言葉にその場のみんなが顔を沈ませた。
アルフィリード殿下はそっとハンカチを取り出して涙を拭いて上げている。
だけどかける言葉がわからないようだ。

サイスもどうしたらいいのかわからず、とりあえずお茶のおかわりを淹れる。

（私にできることは……）

『ミリュエンヌ様。どうか、私のことを聞いてくださいませんか？』

涙で真っ赤に腫らしたまぶた。
お化粧も落ちてしまっているが、目の前の彼女は自分の知っている誰よりも綺麗だって私は思う。

「リシアのこと？」

コクリ

私の声は出ないけど、伝えるすべなんていっぱいある。
私の感じたこと、私の知っていること、彼女が話してくれたから、今度は自分が話そう。

ここの誰にも話したことのない私の過去。