ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第5章 お友達?になりました

二つの世界

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『私は…ここよりも遠い場所に住んでいました』

海の底から来たなんて言っても信じてもらえるはずがない。
それに、伝えたいことにそれは関係ない。

『私の周りには高貴な人がたくさんいて、誰も彼もとても美しい容姿をしていました』

「誰も彼も…か?」

『はい。醜い人は見たことありません』

そう、誰もが顔は整っていた。
可愛い人、綺麗な人、かっこいい人、妖艶な人…種類は様々だけど精巧な人形のように、または、芸術家が丹精込めて作った彫刻のように美しかった。

「何かの一族なのかしら?でも、だからリシアもそんなに美しいのね」

「誰も彼も美しい…ね。それじゃあ、そこはまるで宝石箱みたいだったのかい?」

『はい。そこは、冷たい宝石箱でした』

その表現がぴったりだ。
血の通わない宝石。
ただキラキラしているだけで、他者を傷つけることもできるほど硬く、時に毒さえ秘めていた…。

「冷たい…宝石箱?」

『私の知っている王族は頭を下げて謝りません。むしろ、自分の失敗さえ人に押し付けて怒鳴り散らします』

「え…?」

『女性は自分の美のためならなんでもしました。他人を貶めることも、傷つけることも…。他人を下げて自分をあげるなんて日常茶飯事です』

騙す騙されるなんていつものこと。
騙された方が悪い。身分は絶対で、弱いものはすぐに淘汰される。

『男性は女性より美の追求はなかったけど、自分本位な方ばかりでした』

巻き込まれるなんてごめんだから知らないふり…それはまだいい方だ。
淘汰することに便乗するもの、自ら淘汰しに行くもの、自分より下を見つけて何もかもをなすりつけるもの…あげたりきりがない。

『私は親にさえ殺されかけました。だからこそ、冷たい輝きを知っています』

「だからその傷跡が……」

コクリ

傷跡はどうしても残った。
それが私の生きて来た証だ。

『私は美しくても、冷たい輝きは嫌です。私はミリュエンヌ様のような温かい笑顔や言葉が大好きです』

「私のような…?」

『はい。抱きしめてくださった時、その腕がとても温かいと思いました。笑顔を向けてくださった時、心がポカポカしました』

だから彼女がうつむくのは嫌だ。
だって、輝くような笑顔が彼女の魅力だと思うから。

『ミリュエンヌ様。うつむく必要はないと思います。私はそんなミリュエンヌ様が大好きなのですから』

顔をぐしゃぐしゃにしてミリュエンヌ様は抱きついて来た。
さっきと同じように背中を優しく叩く。

しばらく泣き声はやまなかった。
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