ちょっと事故った人魚姫

ラズ

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第7章 パーティーは荒れ模様

パーティー本番(大丈夫)【side・サイス】

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side・サイス

「お前は誰だ」

「え?」

「もう一度言う。お前は誰だ。リシアに何をした」

リシアは震えてすがりついて来た。
きっとあの女はリシアの過去に関わっている奴だろう。
となると、彼女は貴族…もしくは王族だ。
素性を調べて抗議する必要がある。

「わ、わたくしは、ルビエラよ」

「で?何をした」

「見てわかるでしょう?お酒をかけたの。だって、そいつはいらない子だもの。どうしたっていいでしょう?」

目の前の女はあろうことが堂々とそんなことをのたまう。
リシアがすがりついていなければ殴り飛ばしていたところだ。

「なんだその不愉快な女は」

リシアを母に託して殴ってやろうかと思っていると、聞きなれた声がする。
そこにいたのはアルフィリード殿下だ。

「サイス。こいつの名は?」

「ルビエラと…」

「この国の令嬢でルビエラというものはいなかったと思うが…。衛兵! 招待客のリストを調べろ!」

「はっ!」

一人の兵士が走り出す。
リシア顔はあげようとせず袖も離そうとしない。体の震えもまだおさまっていない。

背中に回していた手でそっと背中を叩いてやる。
階段から落とされたいつかの日のように。

「大丈夫、大丈夫」

相変わらずそれしか言えないけど、震えはじょじょにおさまってくる。

「何やってんのよ!私を庇いなさい!リシア!!」

震えが治まっていたのに、リシアの肩がまたビクリと跳ね上がった。
震えはしなかったけど、袖を握る力が強くなる。

「殿下、申し訳ございませんが、リシアの体調が悪そうなので帰らせていただいてもよろしいでしょうか」

「ああ。許す」

「ありがとうございます。リシア、行こう」

歩き出そうと促すが、リシアは固まっている。
それほどショックが大きかったのか足が動かなくなってしまったようだ。

そっと袖にすがりついていた手を胸元に移して、抱き上げる。
顔は胸元にうずめたまま上げることはない。

国王夫妻と両親が心配そうに見ていたので会釈をしてから会場を後にしたのだった。


ドレスを着替えてあとは寝るだけなのだが…
リシアは手を離そうとしなかった。
しかもまだ顔を上げようとしない。
着替える時でさえ離れることを嫌がって少しだけ大変だったのだ。

今は夜。さすがに女性の部屋にこのままいる気は無い。

「リシア」

「………」

「寝るまでそばにいるから、ベッドに行こう」

そう言うとのろのろと動き出す。
寝る気にはなってくれたようだ。

寝っ転がって見えた顔には複雑な感情が浮かんでは消えていた。
それでは寝ることができないだろう。

「大丈夫、大丈夫」

布団の上から優しく叩くとだんだん表情が柔らかくなる。
しばらくすると寝息も聞こえて来た。

そっと部屋を出ようと立ち上がった時抵抗があった。
よく見ると服の裾を握り込まれている。

結構しっかり握り込まれているようでちょっと引っ張ったくらいでは取れそうにない。
それにあまり動くと起きてしまうかもしれない。

ため息を一つついて、徹夜を覚悟したのだった。

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