ロストパートナーズ

篠宮璃紅

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第3話「届カヌ想イ」

1.買い物

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夢の中の俺はなかなかいい女だ。
自分で言うのもなんだが、相手にはとことん尽くすし美人だし綺麗だし、と言い出すときりがない。まぁ酒癖が悪いのがなんともなぁ……。
ぶっちゃけ俺は夢の中の自分に惚れていた。だがそんな想いは無駄だ。何もかも、全部無駄。
だってな、彼女の目に俺は写らない。見ているのは、いつもふらふらと道を彷徨っているあいつだけ。あいつしか、見ちゃいねーんだからさ。





日曜日の朝、というかもう昼前だ。私はなぜか、気持ち悪いくらい機嫌がいい沙姫の隣で指をさされても文句が言えないほどの荷物を抱えている。

こじゃれた雑貨、新作の洋服、その他諸々生活必需品などなど。一日で買い揃える必要が果たしてあったのか疑問な量。勿論、私の用事ではない。

元々今日は会う予定じゃなかった。朝、急に誘われた。いや、『誘われた』という言い方は少し違うかもしれない。正しくは『案内をさせられた』だ。沙姫は一人で歩かせるには危険すぎるほどの方向音痴。それは彼女を出会ってから3日目でも、十分思い知らされた。

商業施設に買い物なんて一人で行かせられるわけがない。無理だ。また解読に時間を要する怪文書が送られてきたとしても、行くと即答するほかなかった。


そして今に至る。この大量の荷物。二人で来たとはいえ、この量。本当に必要だったかはもう考えないようにしよう。

ふと、視界に入った時計を確認した。時刻は12時過ぎ。道が少し歩きやすくなっているわけだ。レストランフロアへ吸い込まれていく買い物客の姿が目立つ。

一旦施設を離れ、外で空腹を満たすことに。私も沙姫もそんなに財布は分厚くない。少し離れた場所で落ち着ける店を探した。

ご機嫌で鼻歌交じりにスキップも織り交ぜながら先導する沙姫と、後ろで買い物袋をいくつも抱える私。気が付けば完全に荷物持ちの扱いだ。もしかして最初からこれが目的だったのだろうか。えらく図々しい。それでも口に出さず、黙ってあとを追う自分に呆れる。明らかに懐柔されている。

悶々としながら歩いていたせいで意識していなかった。今歩いている場所は近所で有名だった。雰囲気が評判の喫茶店が見えてくる。この道を通る人間なら一度は見たことがあるであろう、印象的な赤い看板。『煌珠館(こうしゅかん)』。

外から見える内装はシックな黒、赤で統一され、新聞紙を広げながら煙草の煙を燻らせる人物が一人はいるような純喫茶。学生の身では少し敷居が高くも感じるが、幸い人がほとんど入っていない。

沙姫も店の雰囲気が気に入ったらしい。どうせ一人では入れないだろうし、いい機会だと思った。道から5段ほど階段を降り、木製の枠にステンドグラスをあしらった重い扉をくぐる。上部の鈴がカウベルのような重厚感のある音を響かせた。

外から見てもわかっていたが、休日の飲食店のわりに人は少ない。決して繁盛していないわけではなく、静けさが心地よい。


「ふふ、なんか素敵だね、大人だね」


声も自然と小さくなる。沙姫がボソッと耳打ちする。

扉の前であっけにとられているとパタパタと聞こえてくるような足取りで店員がやって来た。小柄で、中学生くらいの少女。アルバイトにしては幼すぎる。

店主の娘だろうか。頭の両サイド、高い位置で編まれた三つ編み。それを跳ねさせながら、輪郭が歪むほどの眼鏡のレンズ越しに私たちを見上げる。


「いらっしゃいませ、2名様ですか」


こくり、と頷くと「では、こちらへどうぞ~」と窓際の席へ案内された。

初めて来た店なのでメニューがわからなかった。水と共に運ばれたメニュー表に目を通す。もう一つあるにも関わらず向かいに座っている沙姫が覗きこんでくる。逆さまのはずのメニューを見て、ふんふん、と唸っている。横向きしてやり、二人でじっくりと眺めた。

喫茶店なこともあって軽食も多い。サンドイッチ、ホットケーキ、小さめのオムライスに本日のケーキ。一斉に指を指したメニューは、二人ともコーヒーとサンドイッチのランチセット。

注文をするために小さく手を掲げる。すると、店内のカウンターから出てきたのは先程の少女ではなく、見覚えのある赤い髪の人物だった。


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