美しき怪人は少年少女探偵団を眠らせてくれない

white love it

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第1章

6.

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「それじゃあ次の問題ね。今度は日本の話よ。半年前……」



 今から半年前の冬。
 殺し屋の西郷吉之助にある依頼がきた。
 とある反社会的勢力の会計係だった桂川倫太郎。彼は組織の違法会計について公安にたれ込もうとしていたため、西郷とは別の殺し屋によって始末されていた。桂川には身寄りがおらず、内密な情報を打ち明けられるほど親しい存在はいないと言われていた。
 だが桂川の死から三ヶ月後、組織の若手がたまたま訪れた桂川の行きつけのバーにて、ある証言を耳にした。桂川がこんな独り言を口にしていたと言うのだ。

「俺にはがいる。それだけでいい」

 めぐとは誰なのか?もしかして親しい存在なのか?もしそうなら、組織の違法会計について何か情報を聞いているのではないか?
 突然の情報に、組織の幹部達はざわめきたった。
 そして真相を探り、場合によっては始末するために、西郷が指名された。
 
「で? 何か心当たりはないのか?めぐの正体に」

 西郷は車を運転しながら、組織の幹部へと連絡した。

「確実なものはない。一つの情報として、桂川は生前何度か女のアパートを訪ねているんだが、うちの若手が調べたところ、秘密を打ち明けられるほど親しい間柄じゃなかった。それにめぐなんてあだ名で呼ばれてるとも思えないとの話だった」
「ふん、あんたのとこの若手でまともに使える奴なんていないだろ? 俺はこれから桂川の自宅に行く。そのあとで女の家にも行くから、住所を教えてくれ」

 西郷は桂川の自宅に着いた。そこは郊外の一軒家だった。質素でごく普通の造りだった。小さな庭にバイクがあるだけで、車はなかった。
 西郷は家の前に停めると、車のエンジンをかけたままドアを開けっ放しにして家へと向かった。治安のいい日本ではこれでも車を盗まれる心配は少ない。それよりも何かあった時、すぐに車に乗って逃げられるようにしておくほうが大事だった。
 家に二階はなかったが、物があまりないせいか狭さは感じなかった。
 ただ組織の連中によって荒っぽい捜索をうけたのか、部屋の中は様々なものが散らかりひっくり返されていた。
 
「変わった男だな」

 反社会的勢力の会計にしては子供っぽいというのが、桂川に対する西郷のイメージだった。
 散らばっている本は、子供が読む名作シリーズ『若草物語』や『赤毛のアン』、『シャーロック・ホームズシリーズ』、あるいは生き物や乗り物の図鑑ばかりだ。
 
「何か飼っていたのか?」

 入口が空いて転がっているケージを見て、西郷は呟いた。
 大きさからするに、ウサギかフェレットだろうか?もっともすでに逃げだしたのか、中身は見当たらなかった。
 西郷は家を出て車に乗り込むと、女の家に向かった。途中で西郷は組織の幹部へと電話した。

「ひとつ聞きたいんだが」
「何だ?」
「桂川は何を飼っていたんだ?」
「あぁ? そんなことか。ウサギだよ。ハムレットだかマーガリンだか、少女漫画みたいな名前をつけていたって話だ」
「かなり子供っぽい男だったみたいだな?」
「……仕事はできる奴だったがな」

 西郷は女の住むアパートについた。オートロックでなかったのは助かった。いつものように車のドアを開けたまま、二階の部屋へと向かった。
 目当ての部屋の郵便ポストには名前のプレートが入っている。

 KEIKO・ISOMURA

「なるほどな……」

 当たりだ。
 西郷は確信した。 
 桂川の話していためぐの正体は、この女だ。
 おそらくKEIKOは恵子と書くのだろう。恵子の恵から、めぐというあだ名になったに違いない。
 このくらいの推理力がなければ、プロの殺し屋は務まらない。
 西郷は部屋に忍び込むと、昼寝をしていた標的を速やかに始末した。それから車に乗り込んで幹部に連絡をつけ、帰り道を走り出した。
 高速道路の途中、大きなカーブがあった。
 スピードを落とそうとブレーキを踏み込んだ西郷だったが、足元に伝わる感覚はゾッとするものだった。そして同時に脳裏にある推理がよぎった。それは信じがたいものだった。

「まさか、そんな!? そんな馬鹿な?」

 西郷は死んだ。
 車が高速道路の障壁に激突したのだ。
 後に警察は、車のブレーキペダルと床面の間に何かが入り込み、そのせいでブレーキが効かなかったと発表した。



「さあ、名探偵諸君。真相は分かる? いったい誰が、西郷の車に何をしたのかしら?」
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