3 / 5
深くて広い海
しおりを挟む
モリーはとあるオウムから、その医者の話を聞いたらしい。その医者は動物の言葉がわかるので、世界中からケガをしたり病気になった動物たちが自力で、あるいは飼い主に引き連れられて(時には飼い主を引き連れて)やってくるのだそうだ。ローズのことも、その医者にみせればきっと良くなると、モリーはそう信じていた。
ローズとモリーの母娘は、話し終わると暗闇の中に消えていった。明日、自分たちの田舎へと帰るらしい。
「ジャックさん、私たちもいつか海の向こうの国に必ず行くからね」
モリーはそう言い残していった。
母娘が消えたあと、ジャックはますます眠れなくなった。
倉庫の片隅をぐるぐると歩き回りながら、ジャックはブツブツとつぶやいた。
「なんで船に乗るのにチーズが必要なことも知らないんだ」
ジャックはまたブツブツとつぶやいた。
「動物の言葉が分かる人間の医者なんて聞いたこともない」
ジャックはさらにブツブツとつぶやいた。
「ああいう田舎者にはうんざりさせられるね、まったく」
だがつぶやけばつぶやくほど、ジャックの心は冷たく、重くなっていた。
ジャックはついにつぶやくのも、歩き回るのもやめた。
その頃には、尻尾がほうきのようにさんざん床を掃いたので、足元はすっかり掃除されてしまっていた。
気がつくと嵐はやみ、朝になっていた。
ジャックは倉庫の床下から這い出し、外へと出た。
ジャックはこれまで何度もこの港に来ていたが、これほど美しい海をみるのは初めてだった。
どこまでも広がる海。
朝日を浴びてキラキラと光ってる海。
海面が波立つたびに、キラキラがまるで星屑のように、いたるところでまたたいていた。
いつの間にかジャックの心は、ちょうど目の前の海のように落ち着いていた。
ジャックがふと振り返ると、ローズとモリーの母娘がいた。港から朝一番に出発するバスを目指しているところだった。
バスは今にも発車しそうだったが、ローズは病気のせいか足元がふらふらしてしまい、なかなか前に進めない。モリーが懸命にローズの身体を支えているが、なにせまだほんの子供にすぎない。おまけに前日降った大雨のせいで、あちらこちらに水たまりができており、2匹は何度も足をとられつまづいてしまう。
「待って、待って。もうつくから」
モリーは声をあげながら、一生懸命母親を支えている。
やがて2匹は全身泥だらけの、まるで倉庫の片隅に置かれている、雑巾がわりのボロくずの固まりのような姿になってしまった。
それでも2匹は、一歩一歩確実にバスに近づいている。
だがついにバスはクマネズミの母娘を残して、走り去ってしまった。
申し訳なさそうにうつむくローズ。
その背中を、モリーがそっとなでている。
なぜかジャックは、その光景をみているうちに胸がざわざわしはじめた。
そのざわざわはしだいにジャックのヒゲ先から尻尾の先へと広がっていった。
しばらくの間クマネズミの母娘を見ていたが、次の瞬間、ジャックは弾かれたように走り出すと倉庫の床下を目指した。
まるで海の向こうの国に、走ってたどり着こうとしているかのように。
ローズとモリーの母娘は、話し終わると暗闇の中に消えていった。明日、自分たちの田舎へと帰るらしい。
「ジャックさん、私たちもいつか海の向こうの国に必ず行くからね」
モリーはそう言い残していった。
母娘が消えたあと、ジャックはますます眠れなくなった。
倉庫の片隅をぐるぐると歩き回りながら、ジャックはブツブツとつぶやいた。
「なんで船に乗るのにチーズが必要なことも知らないんだ」
ジャックはまたブツブツとつぶやいた。
「動物の言葉が分かる人間の医者なんて聞いたこともない」
ジャックはさらにブツブツとつぶやいた。
「ああいう田舎者にはうんざりさせられるね、まったく」
だがつぶやけばつぶやくほど、ジャックの心は冷たく、重くなっていた。
ジャックはついにつぶやくのも、歩き回るのもやめた。
その頃には、尻尾がほうきのようにさんざん床を掃いたので、足元はすっかり掃除されてしまっていた。
気がつくと嵐はやみ、朝になっていた。
ジャックは倉庫の床下から這い出し、外へと出た。
ジャックはこれまで何度もこの港に来ていたが、これほど美しい海をみるのは初めてだった。
どこまでも広がる海。
朝日を浴びてキラキラと光ってる海。
海面が波立つたびに、キラキラがまるで星屑のように、いたるところでまたたいていた。
いつの間にかジャックの心は、ちょうど目の前の海のように落ち着いていた。
ジャックがふと振り返ると、ローズとモリーの母娘がいた。港から朝一番に出発するバスを目指しているところだった。
バスは今にも発車しそうだったが、ローズは病気のせいか足元がふらふらしてしまい、なかなか前に進めない。モリーが懸命にローズの身体を支えているが、なにせまだほんの子供にすぎない。おまけに前日降った大雨のせいで、あちらこちらに水たまりができており、2匹は何度も足をとられつまづいてしまう。
「待って、待って。もうつくから」
モリーは声をあげながら、一生懸命母親を支えている。
やがて2匹は全身泥だらけの、まるで倉庫の片隅に置かれている、雑巾がわりのボロくずの固まりのような姿になってしまった。
それでも2匹は、一歩一歩確実にバスに近づいている。
だがついにバスはクマネズミの母娘を残して、走り去ってしまった。
申し訳なさそうにうつむくローズ。
その背中を、モリーがそっとなでている。
なぜかジャックは、その光景をみているうちに胸がざわざわしはじめた。
そのざわざわはしだいにジャックのヒゲ先から尻尾の先へと広がっていった。
しばらくの間クマネズミの母娘を見ていたが、次の瞬間、ジャックは弾かれたように走り出すと倉庫の床下を目指した。
まるで海の向こうの国に、走ってたどり着こうとしているかのように。
0
あなたにおすすめの小説
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
児童書・童話
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベル、ツギクルに投稿しています。
※【応募版】を2025年11月4日からNolaノベルに投稿しています。現在修正中です。元の小説は各話の文字数がバラバラだったので、【応募版】は各話3500~4500文字程になるよう調節しました。67話(番外編を含む)→23話(番外編を含まない)になりました。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
少年イシュタと夜空の少女 ~死なずの村 エリュシラーナ~
朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
イシュタは病の妹のため、誰も死なない村・エリュシラーナへと旅立つ。そして、夜空のような美しい少女・フェルルと出会い……
「昔話をしてあげるわ――」
フェルルの口から語られる、村に隠された秘密とは……?
☆…☆…☆
※ 大人でも楽しめる児童文学として書きました。明確な記述は避けておりますので、大人になって読み返してみると、また違った風に感じられる……そんな物語かもしれません……♪
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる