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第1章 : 慣れろ!てつお

第4話「使えるスキルは全部」

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第4話「使えるスキルは全部」

奇妙なスキル【究極魔法:レベル0】の持ち主、タキオくん。
彼を探してたどり着いた村、タータケ。
ここに滞在して五日が経とうとしていた。
パン屋の手伝いをしつつ、村の人たちとテキトーに絡む毎日。
滞在の目的は二つ。
ひとつは、この世界の仕様を把握すること。
そしてもうひとつは、タキオくんのおばあちゃんの最期を看取ること。
こっちの世界で一年が過ぎると、向こうの世界では一日が過ぎてしまう。それでもここに留まることには意味がある。
経験値システムや、自分のスキルで出来ることの把握は必ず低レベルクリアに役立つからだ。
そして俺のステータスを、正しい意味で俺の力にする。
借り物のステータスなんて嫌だ。絶対に使いこなしてみせる。



忘れないために、村の生活を眺めて、把握できたシステムについて記しておこう。

まず経験値システム。
これは思ったよりポンポン入ってくる仕様のようだ。
例えばタキオくんが毎日やっているパンの配達だが、これは姉のカノーさんがタキオくんに依頼してやっている事だ。
これを完了するとタキオくんにほんのちょっとではあるが経験値が入る。
RPGで言うところの“クエスト”のようなものだった。
何かを頼まれ完遂すると、仕事の内容に応じていくらかの経験値が入るようだ。
これを把握してからというもの、それとなくパン屋の配達の仕事は引き受けないようにした。
それからのカノーさんの視線が痛い痛い。

次に、【マナイバ】について。スキルとしての意味での【マナイバ】だ。
“マナイバ”はステータスオープンの呪文だが、人によって表示されるステータスの精度が大きく違うらしい。
これは【マナイバ】のスキルレベルに応じてのようだ。
レベルが1~10の間は、自分のステータスすらロクに分からない。
レベル11~25で、自分のステータスを正確に知ることができ、相手のステータスがぼんやりと分かり始める。
レベル25~40ほどで、自分の見ているステータスを周りの人に見せることが出来る。
そしてレベル40以上になると、複数の人間に“マナイバ”をかけたり、高いステータスの持ち主の居場所を感知できたりする。
タキオくんは同年代の中では飛び抜けて【マナイバ】のレベルが高い。というかおばあちゃんを除けば村で一番の使い手だ。
うーん、こっちで言うところの人間観察能力みたいなもんなんだろうか。
とりあえず、使いまくっていればレベルが上がる時にスキルレベルも上がるらしい。
タキオくんのレベルが上がる瞬間をこっそり見ていたが、【マナイバ】のレベルも上がっていた。



そして今日から試してみるのは、俺のスキルとその使い道だ。
深夜の二時。ここの村の人達は遅くても二十三時には寝るらしい。
村のはずれの森。魔物が出やすいので、村の人達が近づくことは滅多にない。
つまり、思う存分何でも試せるということだ。
俺を中心に防御壁魔法を張り巡らせた。これで野生の魔物が巻き添えになることはない。
まずは“マナイバ”を唱えて、今まで読み飛ばしてきたスキル欄をチェックしよう。

「マナイバ!」

名前:佐藤てつお
レベル:3
HP:925
MP:925
攻撃力:90
守備力:90
素早さ:90
魔力:90
魔法耐性:90
器用さ:90
スキル:
【マナイバ:レベル50(マスター)】
【炎熱魔法:レベル48】
【氷結魔法:レベル48】
【電撃魔法:レベル48】
【防御魔法:レベル47】
【回復魔法:レベル47】
【支援魔法:レベル48】
【召喚魔法:レベル48】
【剣術:レベル48】
【拳闘術:レベル47】
【弓術:レベル48】
【棒術:レベル48】
【盗む:レベル45】
【飛行:レベル48】
【分解:レベル48】
【調合:レベル48】
【潜伏:レベル48】
【逃走:レベル42】

ふ~……今まで読み飛ばしちゃってた気持ちも分かるでしょうよ。多いですねスキル。
まあしかしこうやって見ると、使ったことのあるスキルはレベルの減りが速いことが分かるね。使ったことのない【飛行】などのスキルに比べて、道中使いまくった【盗む】は減りが早い。本来ならそれだけ上がってるということだ。
スキルは使えば使うほどスキル経験値が入り、それがレベルアップの瞬間に一気に反映されるらしい。気をつけなければ。
例えば【潜伏】や【逃走】は、どんなスキルか大体想像がつく。
その想像の通りなら低レベル攻略のカギを握るはずだが、使えば使うほど、うっかりレベルが上がった時のリスクも増える。
実際、【逃走】のレベルの減りの速さは一目瞭然だ。
唯一の例外は【マナイバ】かな。一番使った魔法なのに、マスター状態から全然減ってない。これは何故かは分からない。
それにしても、この俺にさえ、と言うと何か調子乗ってるっぽいけど、この世界にとって異質な俺でさえ【究極魔法】というスキルは無いんだなぁ。タキオくん、マジで何者なんだ?



さて、スキルの確認もしたし、始めるか!
女神様に教えてもらって、各スキルの使い心地を試しておこう。

「ここでなら堂々と話せる。女神様、出てきてくれぃ」

ここ最近時計に篭りっぱなしの女神様に声をかけた。反応がない。時計に耳を当てると、チクタク音といびきが聞こえてきた。

「起ーきーろー!」

時計をブンブン振り回すと、悲鳴と共に女神様が出てきた。

「なっ何よ!!あんたさ!あたしへの畏敬の念が足りてないのよ!せっかく気持ち良く寝てたのに!!」

「あーあーあー!ごめんごめんごめんって!ステータスとかスキルについて色々質問させて!頼むから!」

「超いい夢見てたのに!うなぎが1980円で食べ放題の店!?っていう……」

確かに夢のような話だ。でも所詮は夢さ。本題に入らせてもらおう。

「えーと、まずはこの……【召喚魔法】って何?俺にも使えるの?」

「はぁ……後でうなぎ食わせなさいよね!で?何?【召喚魔法】?使えるわよあんたにも」

「マジで?どうすんの?使ってみたい」

「とりあえず、どの魔法もなんだけど、呪文を知らなきゃ使えないのよ。防御と回復は教えたわよネ?」

「ああ、“バーリア”と“チュー”な」

「そうそれ。召喚魔法は二つあんのよ。“ゼットダゲ”と“ミニキメキタ”ね。“ゼットダゲ”が捕縛用、“ミニキメキタ”が召喚用の呪文よ」

うわぁ、すげえ偶然。ポ○モンで聞いたことある気がするその呪文。

「モンスターをある程度まで弱らせて、“ゼットダゲ”を唱えれば魔法陣の中に捕縛できるの。魔方陣ってのはつまりこの時計の中みたいな不思議空間ネ。そんで魔法陣から呼び出したかったら“ミニキメキタ”を唱えるのよ。魔物は捕縛すれば経験値入んないからおススメかな」

おお、確かにこれは凄い。低レベル攻略に必須かもしれない。

「魔法陣に捕まえておける最大数は?召喚獣が敵を倒したら経験値はどうなるの?」

「最大数はスキルレベルの10の位と同じネ。マスターすれば制限無しになるわ。召喚獣が敵を倒したら経験値はその召喚獣に行くワ。あんたが敵にダメージ与えてたらその分はあんたに入るけどね」

「ってことは使えそうなモンスターを捕まえておいた方がいいかな……」

「あ、でも注意!召喚獣が死んじゃうと、そいつにダメージを与えた者に経験値が入るの。つまり弱らせたのがあんたなら、あんたにも相当の経験値が入ることは避けられないから」

「えー!何でだよ!ケチンボ!」

「本来なら逆でしょ!気前がいいのよ」

なるほど。つまり、召喚獣をできるだけ集めておいて、そいつが倒されないように支援すればかなり戦えそうだ。

「じゃあ次ね。使えるスキルは全部使っておきたいんだけど」

「オッケー……って次レベルが上がっちゃったら一気にスキルレベルが減っちゃうけどいいの?」

「覚悟の上だよ。自分が出来ることを知らないのが恥ずかしいって思うようになったから」

「フ~ン……かなりマジに取り組んでくれてるのネ」

あのおばあちゃんの立派なステータスを見れば当然のことだ。

「オッケー。まずは【飛行】ネ。目を閉じて、ジャンプしてみて。そしたら空中に吊られてるから落ちて行かない!みたいなイメージを思い浮かべるのよ」

言われた通りにやってみる。並外れたジャンプ力で、自分で張った防御壁にブチ当たってしまった。いってえ。
加減して跳んでみたが、イメージってムズイぞ結構。何回も失敗した。
ピョンピョンピョンピョン跳ねる俺に、女神様がタイミングよく罵声を浴びせてきた。

「あー違うってば!下手くそ!あーもー!ホレッそこだ!だァー!な~んでダメかな!」

う、うるっせぇ……!集中させろコラァ。
上空を飛ぶ女神様をはたき落としてやる気持ちで跳んだ。
跳ぶ方向が突然自分に向いてきたからビビったのか、女神様は俺を避けるように横へ飛んだ。
俺はそれを追いかけ、手で捕らえることに成功した。ついでに、フワフワと浮かんでいた。
やったぜ!できたってことだ!

「おーっ!さすが!あたしの教え方が良かったのネ!すごいわ!うん!ちょっと苦しいから離してちょーだい……よ……!」

ある意味間違ってないぜ!そのドヤ顔を引っ叩きたい一心でここまでやれたんだから!
俺は達成感で不快感を打ち消し、女神様を離してやった。

「フー……よーし、次は炎熱、氷結、電撃魔法の呪文を教えてあげましょう」

女神様が言う呪文を復唱して、順番に炎熱呪文“チアチ”、氷結呪文“ルブル”、電撃呪文“リビリ”を唱えてみた。
防御壁の中が炎に包まれ、一瞬でその炎が凍りつき、次の一瞬でその炎の氷塊全てが電撃によって粉々に砕かれた。流石にまだまだチート級の能力値だぜ俺。すげぇや。

「更に上級魔法“アチアチ”、“チチアチチ”、“ブルブル”、“ルルブルル”、“ビリビリ”、“リリビリリ”があるから。ただ、あんたの魔力とスキルレベルで唱えちゃうと村ごとイッちゃうから今は唱えないでね」

何となく覚えやすい呪文でよかった。いずれ唱える時も来るのかな。
攻撃魔法に関しては思ったより簡単だし、心配なさそうだ。
ただ何を唱えても間違いなく相手を殺してしまいそうなのがネックだなぁ。
加減して撃てるようにならないと。

「そーねー、後は【調合】とか【分解】だけど……今の呪文で防御壁の中には草の根一本残ってないから無理だわネ。また今度にしましょ」

た、確かに!しまった……!
女神様も俺もアホだった。

「【剣術】とかは武器が無いとアレだし……ホワァ~……もうよくない?今日のとこは」

のどちんこを全開にしてあくびをすると、女神様はポンっと煙になって、また懐中時計の中へ入っていった。
まぁ、いいか。今日の収穫は大きいし。女神様にはうなぎ食べ放題の続きを楽しんでもらおう。


こっそりと居候先、パン屋“オルズ”に帰ってきた。
ただいま~……よし、みんな寝てるな。
おばあちゃんの部屋からカノーさんの寝言が聞こえてくる。

「おばあちゃん……あたし……毎日パンを作ってるのよ……」

何かを話しかけてる内に眠りに落ちたんだろう。おばあちゃんのベッドにもたれかかるようにして寝ている。

「でも……あたし……本当は……」

少し涙声な気がした。その先が気になって気になって仕方がなかったけど、寝言なので続きを言ってはくれなかった。

とにかく、こんな所で寝てたらカゼをひくし、朝起きたら関節バッキバキになるよ。
お姫様抱っこで二階の寝室まで運ぶことにした。
元の世界でも、俺の部屋で漫画読み漁って寝落ちしてる姉ちゃんを抱えて廊下に放り出したっけ、懐かしいな。
慣れた手つきで首の後ろに手を回して、カノーさんの身体を仰向けにした。

そこで初めて思い出した。カノーさんはボンキュッボンの悩殺ボディだった!忘れてた!
まずボンキュッボンとか悩殺ボディみたいな言葉を忘れてたよ!
親父の影響で覚えた言葉をこんなに適切に使う日が来ようとは!
目の前でぽよんぽよん揺れるナイスバディ。
少し泣き腫らした潤んだ目元。
セ、セクシーだ……!
俺だって思春期のお年頃ボーイなんだぜっ!?
なぁ!?……少しぐらい揉んでも、バレないかな……何ならもっと色々……!?


なんて考えてると、突然カノーさんの方が俺を……
抱きしめてきたーッ!?なんで!?
でもラッキー!!俺の首筋にかかる寝息!
俺の頭は柔らかな双丘に包まれたッ!
だ、駄目ですよカノーさん……そんなにされたら俺ェ!“ゼットダゲ”唱えますよ!?
行けっ!カノー!メガトンおっぱいだッ!
俺が一人で盛り上がってると、カノーさんが寝言で囁いた。

「私、寂しいよぅ……!おばあちゃぁん……」

一気に賢者タイムになった俺は、粛々とカノーさんを抱え上げ、歩くたびに弾む双丘をものともせずに二階まで運んだ。
村の人達にいつも優しく、タキオくんにも母のように振る舞うカノーさん。こんな一面があったなんて。
いやいや、当然か。無理してたんだな……
両親は何年か前の戦争で亡くなったと聞いていた。
カノーさんは今まで誰にも甘えられずにいたんだ。

カノーさんを寝室まで運ぶと、俺はおばあちゃんに“マナイバ”をかけた。
最大HPは、もう300も残っていなかった。
もって明日か……タキオくんの誕生日まで持ちそうもない。
もう少し待ってくれよ……
カノーさんもタキオくんもまだ準備ができてないよ……
その思いも虚しく、目の前で最大HPがまた1だけ下がった。

「ごめんな、おばあちゃん。今日も色々試したけど、やっぱ無理そうだよ。使えるスキルは全部使いたいんだけど……」

ここ最近の日課になっていたおばあちゃんへの報告を終えて、今日はもう寝ることにした。
俺は居合わせている。多分。
この家が変わっていく瞬間に居合わせている。
そんな気がする。もうすぐそれは起こる。
五日もいれば、他人事とは思えなかった。
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