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セーズ(16) 「神黒翡翠の出現」

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 私は仕事帰りに、1匹の子猫と出くわす事となったの。だけど猫アレルギーであった私は、鞄の中に携帯していた鯖缶を食べさせた後、去る事にしたわ。

 でもその時、子猫は車に轢かれてしまい、重傷を負ってしまっていたの。そこで私は即座に変身し、『終わりと始まり』 の能力を持つ『ヌフ』 の魔法を子猫に掛け、一命を取り留める事となったわ。

 そして、この子猫には魔力の素質があると分かった私は、『ゼロ』 と名付け飼う事にしたのだけれど、1つ問題が起きてしまったの。私が掛けた魔法は完全では無かった為、ゼロは視力を失う事になってしまっていたわ。

 そこで、翡翠が使う治癒魔法であれば治せると考えた私は、領土へと向かう事になったのだけれど、その途中にはルアンユーと言う遣いの領土を通らなくてはいけなかったの。



「ルアンユー、出て来なさいっ!」

「誰よ? 人の名前を大声で叫んでる……何でソフィーがここにいるのよっ!?」

 私の姿を見て、驚き固まってしまっていたルアンユー。だけど私は時間が無かった為、この領土を通してくれれば何もしないと告げたわ。

 そこでルアンユーは、私の上から目線の態度に、当然な事なのだけれど、易々と入れる訳がない言って来たの。そして私達は変身呪文を唱え、戦う事になってしまったわ。

 だけどルアンユー自身、本当は私と戦いたく無いと考えていた様だわ。私の強さは、魔法の国中に知れ渡っているのだから。まあ、それでも戦う事になってしまうのだけれど。


「貴女が纏うには勿体無いくらい、綺麗な模様の礼服ね」

「やかましやーっ!」

 ルアンユーが使う魔法は、中国皇帝の礼服に用いられる模様の『十二章』 であったわ。

 そして、私の冷酷さを知っているルアンユーは、負けたら絶対に消されると考えていたらしく、初っ端から全開で戦って来ていたの。

 だけど私の強さは、ルアンユーが思っていた通りであった為、ルアンユーの攻撃は全て交わしたわ。そこでルアンユーは、とっておきの魔法を見せてあげると言い、新たな礼服を纏う事になっていたの。


「ルアンユー、諦めて通しなさい」

「ぐっ……我に纏え、華虫っ!!」

 華虫(かちゅう) とは 『五色の羽毛を持つキジの雛、若しくは鳳凰』 の能力であるらしく、これを纏ったルアンユーは、『力、速さ、神々しさ』 で私を圧倒する事になっていたわ。

 そして、流石の私も鳳凰と化したルアンユーには手こずると考え、その身に宿る魔力を使い、自身も鳳凰の姿へと変身したの。


「終わりよ、ルアンユー」

「そんな偽鳳凰何かに、私の鳳凰が負けるもんですかっ!!」

 確かに私は、初めて試みる魔法であったわ。だけど数字の7を示す、セットゥの魔法である『正しい道を照らす』 能力を使い、ルアンユーのどこを狙えば良いかを見極めたの。


「いっけーっっっ!!!」

「無駄よ。そこっ!」

 2羽の鳳凰と化した身体がぶつかり合ったわ。凄まじい衝突音と共に激しい光を放ち、私達は地面へと落下してしまっていたの。

 でも、僅差ではあったのだけれど、一方の魔力が上回り、立っていたのは私だったわ。

 そして私はゼロを抱え、翡翠の領土へと向かったの。だけど私の身体もまた、ルアンユーの攻撃により傷付けられていたのだけれど、そんな事はどうでも良い事だわ。


「な~」

「大丈夫よ。ゼロの視力は、必ず取り戻してあげるわ……」

 その後、私はルアンユーにトドメを刺さず、領土を通る事となったわ。そして翡翠の領土に着いたのだけれど、そこにはアキナしかいなかった為、翡翠を呼び出して貰う事になったの。


「どうしたのアキナ君? って、ソフィーさん?」

「翡翠、ミルキの能力を使って、この子の視力を治して貰いたいの」

 私が領土近くにいた事も驚きであったでしょうけど、何より私が頼み事をして来た事に翡翠は驚く事になっていた様だわ。

 そこでアキナは、翡翠に子猫の治療をして貰う代わりに、私が使う数字の魔法の秘密を教える様条件を出して来たの。

 そして数秒黙り込む私であったのだけれど、ゼロを救う為には仕方がない事だと考え了承する事にしたわ。


「ソフィーさん……。我に宿りしその力 今この時この瞬間 開放へと導かん……翡翠……エボリューションっ!」


 翡翠は変身と同時に、ミルキを同化させていたわ。そして白衣姿になった翡翠は、ゼロの顔に優しく手を当て治療を開始したの。


「ゼロ……」

 私自身、ミルキの能力は知っているわ。だけど、今回の治療は魔法の重ね掛けになってしまう為、不安を残す事になっていたの。

 でも翡翠は、見事ゼロの視力を回復させる事に成功していたわ。


「な~!」

 ゼロは私を見つめ、大声で鳴き出していたわ。そして約束通り、私は数字の能力の秘密を語り出そうと口を開き掛けたのだけれど、翡翠は、言わなくて良いと言い出したの。それを知ってしまうと、私と本気で戦えなくなってしまうからだと。

 その後、私の部屋でゼロを飼う事になったのだけれど。


「あっくしっ!! やっぱり薬貰って来よう……ズズ」

「な~」

 一般世界では、猫アレルギーが発症してしまった私であったわ。

 だけど今回の件を知ってしまった翡翠の友達である遣いのアリスは、翡翠と戦う事になってしまったらしいの。自分達の敵である筈の私に、翡翠が協力してしまったからだそうだわ。

 そして、ゼロと暮らす事になって数日が経ち、私は仕事に出掛け様としていたのだけれど、ある驚きを感じる事になったわ。


「それじゃあゼロ、良い子にしているのよ」

「…………」

「どうしたの、ゼロ?」

 ゼロは私はを見つめていたのだけれど、黙ったままだったわ。でもその時、私の意識に語り掛ける声が響いたの。


「ソフィー、今日は遅刻をした方が良いよ」

「誰? 誰が喋っているの?」

 私は一瞬、魔術師のエリファスが話し掛けているのかと考えたのだけれど、それにしては声が若すぎた為、感違いであったと結論付けてしまっていたわ。

 でも次に聞こえた声で、その主の正体を確信する事になったの。


「ソフィー、分からないのかい? 僕は君と運命を共にする、ゼロだよ」

 そう。ゼロが私の意識に話し掛けていたの。ゼロは生まれつき、その身に魔力を宿していた為、魔法の国へも行ける事が出来ていたわ。

 でも猫の姿をしている為、人語が話せる訳では無く、代わりに意識へ語り掛ける事が出来ていた様なの。

 そしてゼロは、『お告げ、メッセージ』 などを伝える能力を持っているのだと、私に告げて来たわ。


「そう……だったのね。でも、会社に遅刻しろとは、どう言う意味なの?」

「な~」

 ゼロは人間と違い、魔力を持続して使う事が出来ないらしく、途中で普通の猫に戻ってしまっていたわ。

 そして、そうこうしているうちに、結局会社へ遅刻してしまう時間になってしまっていた為、私は魔法を使い移動する事で、5分程遅れて出勤する事になったの。


「すいません、遅刻しました」

「ソフィー、大丈夫だったっ?」

 同僚が私に駆け寄り、何やら心配をしてくれていたわ。それは15分程前の出来事であったらしいのだけれど、普段私が出勤する為に歩く道路で、車による大事故が起きていたらしいの。そして何人者の人が重傷を負っているらしいと、同僚は教えてくれたわ。


「私は、別の道を歩いて来たから大丈夫だったけど……」

 ゼロはこの事を暗示していたのだと、私は即座に気付く事になったわ。そして仕事終わりに、豪華キャットフードを買って帰宅する事にしたわよ。


「な~」

「ただいま、ゼロ。それよりゼロの能力は凄いわね」

 その後、私はゼロに何度か話し掛けてみたのだけれど、言葉を返す事は無かったわ。でもたまにだけど、私の身に危険が起きる可能性がある時は、ゼロがメッセージとして伝えてくれていたの。

 そしてある日、私は仕事中であったのだけれど、ゼロの言葉を聞く事になったわ。


「ソフィー、直ぐに魔法の国へ行くんだ。神黒翡翠が出現するよ」

 デスクワークをしていた私であったのだけれど、その言葉を聞き驚き叫んでしまったわ。そして同僚に不思議がられてしまっていたのだけれど、一旦魔力を使い自宅に戻り、ゼロを連れ魔法の国へと向かう事になったの。


「神黒翡翠の魔力は、翡翠の領土から発しているわね。でも……」

 そう。私がいる場所から翡翠の領土に行くには、ルアンユーの領土を通らなければいけないの。

 そして一先ず、ルアンユーの領土に辿り着いた私であったのだけれど、そこには偶然ルアンユーが立っていたわ。


「あら、ソフィー。血相を変えてどうしたの?」

「ルアンユー、貴女も気付いている筈よ。神黒翡翠の魔力をね」

 そして私は、神黒翡翠をその目で確認するか、今ここで消されるかのどちらかを選択しなさいと、ルアンユーに告げたわ。私が戦いを挑めば、ルアンユーは強制的に戦わなければいけなくなってしまうの。


「まあ、神黒翡翠を手に入れれば、ソフィーにも負けないでしょうからね。入りなさい」

 ルアンユーは仮に今、私に勝ったとしても、次は翡翠や別の遣い達と戦う事になる筈だと考えたらしく、体力温存の為一旦休戦する事を選んだ様だわ。

 そして、翡翠の領土に辿り着いた私達だったのだけれど、そこには既に遣いのマリアとアリスが到着していたの。

 そこで私達遣いは、翡翠に領土へ入れる様伝え、翡翠も4人の遣いを相手にするのは不可能だと考えたらしく、領土に入れる事となったわ。


「聞き分けが良いですわね、翡翠」

「翡翠、ゼロの件は感謝しているわ。だけど、神黒翡翠は貰うわよ」

 神黒翡翠を我先にと、翡翠の領土を探し出した私、マリア、ルアンユー。だけどアリスは、翡翠との確執があった為、この2人は戦う事になっていたの。

 そして、神黒翡翠の気配は強弱を強め、まるで自分の存在を気付かせるかの様に状況を示していたわ。だけどその形は確認出来ず、私達はその場に立ちすくむ事になってしまっていたの。

 そこで私は、他の遣い達にゼロの能力を説明し、その力を使えば神黒翡翠の居場所を探し出せるかも知れないと告げたわ。


「ゼロ君にそんな力があったんですね」

 何とか、翡翠とアリスは仲直りが出来ていた様ね。そして私は変身し、ゼロの能力を試す事にしたの。


「我に誓いしその力 今この時この瞬間
無限の数で突き動かん……ソフィー……エボリューションっ! ゼロ、お願い」

「…………な~」

 ゼロは翡翠の真上を見つめていたわ。だけどそこには、これと言った物は何も無い状況であったのだけれど、マリアがある事に気が付いた様なの。


「そう言う事ですのね。神黒翡翠は……戦闘領域にある筈ですわ」

 遣い達が戦う場所の、戦闘領域に神黒翡翠はあるのだとマリアは言ったわ。だけだ戦闘領域は、遣い達が戦う意思を示さなければ現れないの。そしてその意思を持続する事で、戦闘領域は保つ事が出来る為、私達は戦い続けなくてはいけなってしまったわ。

 そこで先ず、マリアとルアンユーの戦いが始まる事になったの。残るは私、翡翠、アリスであったのだけれど、アリスは翡翠との戦いで疲労していたらしく、必然的に私と翡翠との戦いになったわ。


「さあ翡翠、決着を付けるわよ。ユイット、オンズ、そしてドゥ、セットゥ、魔力の差を見せ付けなさいっ!」

 私はいつもにも増し、魔力のキレを見せ付けたわ。それもその筈なのだけれど、神黒翡翠を手に入れる事が出来れば、隼の記憶を取り戻せるかも知れないのだから。

 そして、2組の遣いが同時にぶつかり合ったその時、私達の魔力で感化されたかの様に、神黒翡翠はその姿を現していたわ。


「え? あれが神黒翡翠なの?」

 ルアンユーは驚きのあまり、戦闘中であったにも関わらず、よそ見をしてしまった様ね。

 そしてその後結果から言うと、マリアとルアンユーは相討ちになり、双方気絶状態になってしまっていたの。

 一方、私は翡翠を追い詰める事になっていたのだけれど。


「これで終わりよ。サンクオンズっ!」

「避けきれないっ!!」

 私の一撃をまともに喰らってしまった翡翠は、吹き飛ばされてしまっていたわ。だけどその着地点は、神黒翡翠のある場所であったの。

 そして、翡翠と神黒翡翠の周りには光が覆い、私すら入れない状態になってしまっていたわ。

 光の中で翡翠が見た神黒翡翠には、人の意識が宿っていたそうなの。だけど、その神黒翡翠は月日と共に劣化し、今にも砕けそうな状態であったらしいわ。でも、自身を手にした翡翠の為に、1度だけ願いを叶えると告げたそうなの。

 翡翠の願いは全ての人を幸せにする事であったらしいのだけれど、結果的には神黒翡翠の魔力を持ってしても、一瞬の幸せしか与える事は出来なかった様だわ。

 その後、翡翠は神黒翡翠を手に取ったらしいのだけれど、そのまま崩れ落ちてしまい、その事を皆んなに説明する事となっていたの。

 そして、一般世界に戻った私は、職場で仕事をしていたのだけれど。


「部長、取引先の件、了承を貰いました」

「ソフィー君は、やはり素晴らしいっ。是非うちの息子と結婚して貰えないか?」

「丁重にお断りして致します。と言うか、もうこんな時間だわ。お先に失礼します」

 当然、私は上司の頼みを即座に断ったわ。そして終業時間になり、私は少しズル(魔法で移動) をして自宅に着く事になったの。


「な~な~な~」

「はいはい。今日は限定鯖缶をあげるから許してね」

 私は今回も、神黒翡翠を手にする事が出来なかったわ。だけど、ゼロが仲間になってくれただけでも、救いになった事は本当よ。
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