何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ

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第一章

転生した様で?

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『分からない』

分からない。何が……?
それさえ僕には、分からない。

どうして…どうして僕は、生まれたの?
どうして、僕は……

誰も教えてくれない疑問をずっと1人で考える。

突如、微かに視界が歪みグラりっと揺れ悟る。
もう僕の限界が近い。あぁ……ごめんなさい。
見知らぬに、この辛さ記憶と人生を託してしまう事をどうか許して─────

暗闇の部屋の中、ぼろぼろの少年は、冷たいベット上に静かに横たわると瞼をゆっくりと閉ざした。

その目に、微かに涙を浮かべて……


──────────


ぴちゃん…っと、水らしきものが、1滴…何処かで落ちる音が聞こえた気がした。

肌寒さと何かが腐敗した様な臭いと埃っぽい臭いが混じった臭いを

感じた?何故?だって〖……〗は……とぼんやりと揺蕩うが徐々に浮上し始めた次の瞬間─────

冷たい何かが肩と背にぽたりっと落ちてきた。

「────…ッ!!!冷たぁっ!!!」

そのあまりの冷たさに、一気に意識を覚醒させ飛び上がる様に起き上がると大声を上げる。


それが〖俺〗という意識が覚醒した瞬間だった。


──────────

「…さて…ここは、どこだ???」

とりあけず俺は、周りを見渡し状況を整理する為に、まだ鈍く痛みぼーっとする頭を無理やり働かせた。

どうやらここは、何処かの家の部屋の様だが…
少し汚れた壁紙が剥がれた石壁には窓1つない。
木目の床は、埃や汚れが目立ち一切掃除をしていない事がわかる。そして、真上の天井を見上げれば水漏れのせいか、1箇所だけ色が変わり水滴が付いている。

(あー、あそこから水が落ちてきたのか…なんかもう、ここが部屋なのかも疑わしくなってきたな)

見上げていた天井から視線を外し小さく溜息をつき、もう一度周りを見渡す。
部屋の中にあったのは、小さな桶の様なものと今、俺が腰掛けてるボロ布を敷いただけのベットに、今にも消えそうな蝋燭が一つと、お粗末程度に置かれた小さくボロい机と椅子だけ

(なんなんだ。本当にここは??訳が分からない…)

はぁ~と結構大きめな溜息をつくと、ふっと自身の手が視界に入る。ゆっくりと持ち上げ見ると両手共傷だらけで、指は枝のように細い。

まさかと思い、薄暗い部屋の中よく目を凝らし全身を見てみれば、やはり腕も脚も栄養が足りてないのか細くあちこち傷だらけだった。うーん…着てる服も少し汚れてぼろぼろだが、これくらいなら大したことないだろう。

と俺は、ゆっくり深呼吸し頭痛が落ち着いてきた頭で、思い出せるだけの前世?の記憶を辿る。

俺の名は、鷹仲 結糸たかなか ゆいと  去年36歳 を迎えたばかりのどこにでもいる様な、普通のサラリーマンだった…はずだ。

(…最後の記憶は……そうだ)

いつもの様に、定時に会社を退社して、確か交差点で信号待ちをしていてその時、信号無視した車が、こちらへ突っ込んできて────ッ!!!

記憶を思い出した瞬間、身体がビクリっと跳ね、心臓がドクドクと嫌な音を立てながら脈打つ。

「もしかして俺は……その事故で死んだ?…いや!いや!もしかしたら、病院で意識不明で寝ているだけで、これは夢かもしれないし…な……」

そう考えもしたが、頭を片隅で俺は、死んだのだろうなと云う不思議な感じていた。

そして諦めがじわりっと心に広がっていく。

36年間生きてきた人生は、ごく普通で特に何かあった訳でもなく充実した人生という訳ではなかったが、それなりに多分楽しかった事もあった。だからか─────

(少しだけ辛いと思ってしまうのは、仕方ない事だよな……)

はぁ~っと、再度大きく溜息を吐き出し俯き、片手で顔を覆い目を瞑っていると突如、この身体の持ち主であろう少年の記憶が頭の中駆け巡る。

見た少年の記憶は、大人の俺でさえ耐えられない様な記憶ばかりのもので、強く胸を締め付けられた。

(この子は、どれだけ辛く悲しく苦しかった事か…幾度と心が悲鳴を上げ壊れ 何故、自分がこんな扱いをされるのかも何も分からず知らず、ただただ、蔑まれ嫌われ冷遇されて、誰からも愛されず孤独で生きた哀れな子)

俺は〖この子〗の身体を優しく撫でる。

(こんなにも細く小さい身体で……ずっと耐えていたんだな)

どこか…あの頃の

幼い頃の記憶を思い出そうとした瞬間─────

チリンッと、優しく綺麗な鈴の音が響く。

(…って、ん?あれ…俺は何を……?)

何を思い出そうとしたのかを忘れた俺は、まぁいいかと気を取り直しこれからについて考える。

(さて……どうしたものか)

顎に手を置き〖この子〗の記憶をもう一度思い出す
どうやら俺が居るこの場所は、ルーゼント公爵家と言う公爵家の別邸で、この部屋は、一応…使用人用の部屋らしい…

(いやいや…!どう見たって絶対違うだろ。使用人用の部屋?笑わせるなよ!どう見たって物置部屋だろ!)

〖この子〗は、この公爵当主の実の息子らしいが、父親には一度も会った事がなく避けられ、何故か周りからは蔑まれ冷遇され酷い扱いを受けているっぽい。

何故〖この子〗が、自分が公爵の息子だと知っているのかというと使用人達が話しているのを一度だけ聞いた事があったからだ。

(うん。おかし過ぎる。なんだそれ、意味が分からない!どうして、何もしていない〖この子〗がこんな目に合わなきゃいけないんだ!)

俺は、傷つき細い両手を見つめグッと、握り小さく頷く。

「うん!よし!誰も〖この子〗を幸せにしないなら俺が幸せにしよう!!」

(そうと決まれば、先ずは、今の状況と情報が必要だ。それと、この部屋からどう出るかが…今の目標だな)

さて…どうするかと胡座をかき腕を組んで俯きながら、考えていると突如、ドアが物凄い大きな音を立て開くと、1人の黒服を着た男がズカズカと部屋に入ってきた。

黒服の男は、俺の目の前までやってくると怒号に近い大声を上げ告げる。

「おい!お前グズ!もう仕事の時間だっつてんだろがッ!!いつまで、サボってるつもりだ!」
「───…ッ!」

あまりの大きな声の怒号に、身体が勝手にビクリッと、反応し微かに震え奥歯がガクガクと揺れる。そろりと顔を上げ、目の前の男を見ると黒服の男は、蔑むな目で睨みながら俺を見下ろしていた。

(び…びっくりしたー。てか、誰だよこいつって…あぁ~、いつも〖この子〗をこき使っては殴ってきた男か…だから、自然と身体が反応して震えたんだな…)

と身体の反応とは逆に、心は冷静だった。

今までの〖この子〗なら、このまま震え暫くは動けなかっただろうが、今の〖この子〗の中身というか精神は今、36歳のおっさんな俺だ。こんな若造に何を言われた所で、痛くも痒くもない。
俺は小さく息を吐き直ぐに、黒服の男の言う通りに汚く冷たいベットから立ち上がる。その姿を見た黒服の男は、面白く無さそうにふんっと鼻を鳴らし告げた。

「今日は、本邸の中庭でリリー様とサイラス様が、お茶会を開くご予定だ。お前は、いつもの仕事をした後、中庭の雑用も追加でやれ!わかったな」
「…………は?」

黒服の男の告げた言葉に思わず、声を上げると黒服の男は、眉を釣り上げ

「はぁ?なんだその態度は…チッ、なぁーいつも俺が、お優しく言って教えてやってるの忘れたのか?で嫌われ疎まれているお前は、本来誰からも必要とされてないんだよ。だから俺達の言うことを大人し~く従っていれば、それがお前の存在意義になるって……教えただろ」

捲し立てるように、黒服の男は告げ終わると冷めた目で笑う。

どうやら…最初の目標のここから出るは、案外簡単に達成しそうだが、あまりにも酷すぎる状況に再び微かに頭痛を感じる。

記憶の中あったいつもの仕事とは、きっと屋敷全ての洗濯に屋敷の掃除、それと厨房の皿洗いだろう。

(それだけでも、やばいくらいの仕事量なのに、追加で中庭の雑用もって……本当に何言ってんだこいつ)

あまりの扱い酷さに驚き思わず黒服の男を凝視する。
その視線に気づいた黒服の男は、いつもの反応と違くてイラついたのか顔を顰め更に、

「本来なら、旦那様のを殺したお前をすぐにでも捨てるか、殺しているところを、旦那様はとてもお優しい方だから、生かしここに置いてもらえてるんだ!そのお優しい旦那様とお前がここにいる事を許してくださっている現公爵夫人の為に化け物のお前は、感謝して身を粉にして仕事をするのが当たり前なんだ!チッ…分かったら!さっさと行け!!グズが!」

そう言うと黒服の男は、俺の肩を強く掴みズルズルと引き摺りながら部屋の外へ出すと強く押した。

(ちょっ!?!マジかこいつ!)

やばい!っと思った時には、もう時遅く俺は、上手く受け身が取れないまま、冷たく硬い石床に顔面を強く打ち付けた。

「────…ッッ!!!!!」

声にならない程の痛みが顔と身体を駆け巡る。


(いっっ!?!!!てぇーーー!!!こいつ!!有り得なさすぎるだろ!?!?普通こんなに強く押すか!それも顔面からとか!絶対鼻血出てるな…これ…)

案の定思った通り、ゆっくりと上半身を上げ床に視線を落とした瞬間、ぽたりっと赤い雫が床へ悲しくも落ち汚す。
俺は急いで、鼻と口を両手で覆い血が、これ以上床へ落ちないように座り俯く。

(クソ…こいつ覚えてろよ。絶対許さん…こんな小さな子供相手に、この扱いってクズは、どちらかと言えばこの屋敷の人間じゃないだろうか……)

そんな事を思っていると、黒服の男の声が上から聞こえてくる。

「ふん…仕事増やしやがって、あーあ…そのお前が、汚したら所もしっかり綺麗に拭っとけよ!!屋敷が汚れる。わかったな」

黒服の男は、そう告終えるとカツカツと足早に去っていった。

その場に取り残さた俺は、ゆっくりと顔を上げ目の前の長く嫌味な程に綺麗な廊下をちらりと見た後、窓の外に視線を向けた。

鼻血はいつの間にか止まり微かな痛みだけがじわじわと続く。


(……………しんど)


汚した床を着ていた服の袖で、綺麗に拭き終えると俺は、微かにふらつきながら立ち上がりこれから向かう仕事地獄へと廊下を歩き出した。


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