何故か転生?したらしいので【この子】を幸せにしたい。

くらげ

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第一章

私の光(マリー視点)

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私は、兎の獣人の捨て子だったらしい。

何故そこに居て、捨てられたのかも分からないが、私は、シュナリオ王国とサリゼンティオン王国の国境近くにあった、小さな街のスラムで人族の老夫婦に見つけられ拾われてた。
老夫婦にマリーと言う名前付けてもらった私は、10歳まで貧しいながらも老夫婦からの愛情を受けながら幸せに暮らしていた。

老夫婦からの愛情を疑う事もなく─────

だが、終わりは突然だった。

その日、老夫婦に頼まれたお使いの途中、ガラの悪い男達に攫われ奴隷として売られた私は、途切れ途切れに聞こえてきた男達と奴隷商人の会話を聞き絶望のどん底に突き落とされた。

「珍しい……持ちだ。高く売れる」
「あの老夫婦……もっと早く…を……いいものを」
「…………だったんだろうよ。ははは」
「ちがいねぇ……はは」

下衆びた笑い声が少しずつ遠ざかっていく。
怒り、悲しみ、憎しみ…色んな感情が一気に渦巻き溢れ出る。

(2人に……売られた?)

私に愛してると家族だと言い優しく頭を撫で微笑んでくれていたあの姿は嘘?

私を暖かく抱き締めてくれた老夫婦は偽り?

あぁ……そうか─────

2人は、私を奴隷として売るために育てていたのか…


冷たく寂れた鉄格子の中、両膝を抱え俯くと目から涙が止まることなく溢れ床に落ち幾つもの染みをつくっていく。

その日、私の心は悲鳴を上げた。


その後、私は持っていた戦闘スキルと特殊特殊ユニークスキルと獣人特有の身体の丈夫さを活かしとある商人の元で奴隷として15歳まで必死に生きてきた。

商人の元での仕事は、あちこち旅し物を売る商人の護衛の様なもので盗賊や魔獣が出た時、己の命を犠牲にして戦い商人と商品を守るのが仕事だ。

ぼろぼろの服に、傷だらけの両手、髪も耳も痛み辛かったが、それ心を抉り嫌だったのは、首の後ろに刻まれた奴隷刻印と丸型の赤黒いピアスだった。ピアスを見る度、もう嫌だと程に己は【奴隷】なのだと売られたのだと思い出させられた。

だがそんな、地獄も日々がある日、人族の男により終わりを告げた。

男は、部屋の隅で座り込んでいた私にゆっくりと近づくと見下ろし告げた。

「貴女が、マリーでよろしいで間違いないでしょうか?」
「…………」
「私めは、ルーゼント公爵家執事長のオリヴァーと申します」

オリヴァーと名乗った男は、1枚の紙を私へ差し出すと続けた。

「貴女が望むのならば、ここから出るお手伝いをいたしまょう」
「はっ……そんな事できるわけ──」

鼻で微かに笑いながら、できるわけないと口にする前に、オリヴァーは答えた。

「いいえ、できますよ。もう商人には話をつけてあります。後は、貴女の返答次第です」
「…──ッ!は………?」
「今、お渡しした紙は貴女の誓約書です」
「……本、当……に?」

受け取った紙に視線を落とし微かに痛む両手で握り締める。

「えぇ…マリーは、この先どうなさりたいですか?ここで、このまま奴隷として生きるのか、それとも、私めと共にここを出て新たな人生を始めるか…」

オリヴァーは、そう告げると片手をそっと私に差し出す。
その手と紙を交互に見つめ戸惑う。

(分からない。また、もしかしたら裏切られ売られるかもしれない……でも、ここに居ればいずれ私は、戦闘で命を落とすかもしれない。それならばいっそ……)

私は、差し伸ばされた手を取り立ち上がると真っ直ぐにオリヴァーを見る。オリヴァーは、軽く手を叩くと告げた。

「では、参りましょうか。貴方は、今日から奴隷ではなくとしてルーゼント公爵家にいえ、いずれルーク様の専属メイドとしてお仕えしてもらう予定です」
「は…奴隷じゃなくて……メイド?」
「えぇ…メイドです。と言っても先ずは、メイド見習いからはじめてもらいます」
「……メイド、見習い」
「では、行きましょうか。マリー」

オリヴァーは、そう言うと私を部屋から連れ出し馬車に乗せてると、ルーゼント公爵家の本邸へ向かう。
本邸に着くと、いつの間にか現れた数人の女性達に連れられ、風呂に入れられると、綺麗にブラッシングまでされた。

その後、女性達が着ていた服と同じ服を渡され、着替える様に告げられた。

その服に着替え終え部屋から出ると、1人の女が立って待っていた。彼女は、私に「付いて来なさい」と告げると静かに歩き出した。彼女の後ろに大人しくついて、長く豪華な廊下を進み一つの扉の前で止まると彼女は、扉を数回叩き声をかけた。

「オリヴァー様、マリーの準備が整いました」
「入りなさい」
「失礼致します」

彼女は、扉をゆっくりと開けると、私に中へ入る様に促す。
言われるがまま中へ入ると、オリヴァーが椅子へ座り、何かの紙を読んでいた。

「マリー、今日から貴女は正式なルーゼント公爵家のメイドとなります。そして、数ヶ月後には先程も言った通り貴女には、ルーク様専属メイドとして仕えてもらう予定でいます。なので、これから貴女には、数ヶ月で全ての作法や仕事を学んで覚えて頂かなくてはなりません。本来なら、不可能ですが……貴女には、それを可能にするスキルをお持ちですよね」

オリヴァーは、少しゾワッとする様な寒気のする笑みを浮かべると、先程私をここまで連れてきてくれた彼女に視線を向け告げた。

それはきっと私の持つスキル─────

それは、戦闘スキルとは別の見た物を一瞬で全て覚える事が出来る特殊《ユニーク》スキルの事だろう。
オリヴァーに自然を向ける。

「彼女は、このルーゼント公爵家メイド長のサリーナです。サリーナは、とても優秀なメイド長で、私めも強い信頼を置いている人物です。これから数ヶ月、貴女は彼女から全てを学び覚えてください。いいですね?」

サリーナと呼ばれた彼女は、私の方へ身体を向けると告げた。

「はじめまして、私はサリーナと申します。これから数ヶ月ルーゼント公爵家に仕えるメイドとして恥じないようとマリーさんを教育させていただきます。よろしくお願いできますね」

サリーナは、そう言うと目の奥が笑ってない顔で微笑んだ。

その日から私は、戦闘奴隷ではなくルーゼント公爵家のメイドとなった。

そして数ヶ月後─────

スキルのお陰で全ての仕事内容と必要な事を学び終えた私は、ある日、オリヴァーに呼び出され執務室を訪れていた。

「マリー、明日ルーク様との顔合わせを致します」
「はい。オリヴァー様」
「こちらは、ルーク様の書類になります。就寝前に全てに目を通してください」
「はい」

執務室を後にし自室に戻ると、オリヴァーから、渡された書類に視線を落としそっと、1ページを捲る。

産まれすぐに母親を失い、父親であるパトリック様に遠ざけられ別邸にただ1人孤独に生きる子供。使用人達や周りの者達から《化け物》と蔑まれ忌み嫌われる黒髪赤目の小さく細い哀れな子

それが、私が初めて抱いたルーク様の印象だった。

書類を読み進めるうちに私は、ルーク様に親しみを感じ始めていた。

(なんて可哀想な子だろう。誰からも愛されず愛情も知らない。そして何もしていないのに黒髪赤目と言うだけで《化け物》と蔑まれ忌み嫌われ孤独に8年生きてきたのね…何処か、私と似ている。きっとこの子も、私と同じ……)

全ての書類を読み終えた私は、書類をそっと閉じると、冷たいベットへと静かに潜り込み眠りについた。

翌朝─────

私は、オリヴァーから指示された部屋の前で待機しているとオリヴァーが近づいてきた。その後ろには、オリヴァーの息子であり私と同じ様に、ルーク様専属となるアティカスと言う少年が立っていた。

オリヴァーが、扉を数回ノックし声を掛けると部屋の中から、少年らしい声で「どうぞ」と返答が帰ってくる。

許しを得て、部屋の中へと入るとそこには、書類で読んだ通りの黒髪赤目の小さく細いだけど、書類には書かれてはいなかった美しさを持つルーク様が立っていた。

(この子が、ルーク様?確か8歳と書いてあったはずだけど…どう見ても5~6歳と言われた方がしっくりするくらいだわ)

そんな事を思いながらも、この数ヶ月で、叩き込まれ覚えた通りの作法でルーク様に挨拶を告げた。

「はじめまして、ルーク様。私は、マリー。本日よりルーク様の専属メイドをさせてもらいます!」

そう言い顔を上げるとルーク様は、真っ赤な目を細め優しくとても嬉しそうに「よろしくね!」と屈託のない笑顔で告げた。

「───っ!」

(嫌いなあのピアスと似た真っ赤な目…私が1番嫌いな色の筈なのに……どうしてかしら、ルーク様のこの目は、とても綺麗…目が離せない)

私は、一瞬驚き目を見開き見惚れていたが、すぐに元に戻しすぐにルーク様に微笑み返した。

それから数日─────

ルーク様の専属メイドとして仕える様になった。

ルーク様は、必死に毎日机へと向かい勉強したり、魔法や剣術を学んでいた。あんなにも酷い扱いを受け今も尚、それはあまり変わらないのにルーク様は、笑顔で過ごし常に私達を気にして優しく名前を呼んでくれる優しい子供なのに、何処か大人びていた。

そんなある日、私室で勉強中だったルーク様がふっと気になったのか、私の片耳に着いている真っ赤なピアスの事を尋ねてきた。

メイドになる際に、オリヴァーに奴隷契約をしようとしたが出来ず解除するには、あと1年しないと解除できないと告げられた。故に未だ、着いたままの奴隷の証…私は、ピアスにそっと触れ躊躇う。

「…このピアスは──」

ルーク様に、自身が奴隷だという事を知られ話すのが怖かった。奴隷だと知られたら、どんな目で見られるのか、もしかしたらまた裏切られ売られるのではないか…そんな思いが脳裏に過ぎり俯くともう既に、痛むことのない両手を強く握り下唇を噛む。

だが、と覚悟を決めた私は顔を上げルーク様へと視線を向け、私が出生とこれまでの事や未だ奴隷という事を全て打ち明けた。

するとルーク様は、私に近づき両手をそっと優しく握った。

「マリーさん話してくれてありがとう。とても辛かったね。マリーさんの心もこの綺麗な手も沢山きっと傷付いてきたんだね…痛かったね…」

そう告げると、ルーク様は私の手を優しく撫でぽろぽろと綺麗な真っ赤な目から涙を流し私のために泣いてくれた。

(あぁ…ルーク様の方が、私などより辛く苦しくて悲しかった筈なのに、私を想い泣いてくるなんて…)

その姿を見つめていた。


それから数日間、私はオリヴァーに呼び出され執務室にいた。

「今日、呼び出したのはこちらを貴女へお渡しする為です」
「これは……」

差し出されたのは、白い封に閉ざされた手紙だった。

「きっと、お読みになれば」
「……は、い」

手紙を受け取り封を切り開けると、懐かしい香りが鼻を掠める。

(この……懐かしい香りは……まさか、まさか…そんなはずない!だって……)

心臓が激しく脈打つ。私は、手紙を取り出すと書かれた内容に視線を落とし瞠目する。

差出人は、私を拾い育てたあの老夫婦だった。

そこには老夫婦の息子夫婦が、私が金になると知り勝手に奴隷として売った事や助けられなかった事について謝罪する内容だった。

最後に書かれた1行には────

『これだけは信じてほしい。マリーは、私達夫婦の大切な子供で家族だ。愛しているよ』

執務室の窓から入ってきた太陽の光が優しく私を照らす。
暖かい光に包まれた私は、初めて声を上げただ泣いた。

後からオリヴァーに教えられたのだが、この手紙はルーク様のお陰でだった。私の話を聞いたルーク様が、オリヴァーにお願いして老夫婦と連絡を取ってくれたらしい。

(私の為に…)

私は、ルーク様のあの暖かく優しい手の温もりとこの優しさを私は、一生忘れないだろう。

そして、私はルーク様をお守りしよう。

この命をかけても────


あの日絶望し悲鳴を上げた心は、優しい光に抱かれ救いあげられた。



そして、2年前のあの日─────

ルーゼント公爵家を出て冒険者になり旅をすると告げたルーク様に私は、迷いなく何処までもついて行くと告げた。

(あぁ、私は、戦闘奴隷で良かった…)

嫌いだったスキルと奴隷として鍛えた戦闘能力が、私にあってよかった。ルーク様を傍でお守りしお支えしする事ができる私でよかった。

私は、勉強机に向かい一生懸命に今日も沢山のことを学ぶルーク様の後ろ姿を見つめ小さく呟いた。


「ルーク様、どこまでも私はお供しお守りします」


そう静かに紡いだ言葉は、きっとルーク様には届かない。
だが、それでいい。

私は、ただ静かに大切な人ルーク様を見守り微笑む


太陽の光が、優しく部屋を照らす。
暖かな光を浴び片耳にあるルーク様の瞳の色にいた美しい赤いダイヤ型のピアスが、光を浴び優しくキラッと光っていた。




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