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生配信17 続・耐久いくぞ!

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 あれから何時間経ったんだろう。

 DbDを始めた時は皆、和気藹々とプレイしていたのに、今となっては殺伐とした雰囲気が充満している。

 この殺伐とした雰囲気をどうにかするために俺は動く。

「みんな、集中をしよう! 俺たちの力を合わせれば、こんな困難なんてへっちゃらだよ!」

「「「ッ!」」」

 俺の言葉はみんなに届いただろうか? 俺の気持ちはみんなに伝わっただろうか? 

「「「………」」」

 返事が返ってこないと言うことは………そういうことなのだろう。

 そう諦めかけていたとき、

「そうだよね、そうだよね滝くん!」

 俺の言葉や気持ちが届いたのか、ワンスさんが同意してくれる。

「みんなで協力すれば、どんな困難だって乗り越えられる。諦めたら試合終了だよね。みんな頑張ってやっていこうよ!」

「ワンス、さん! ぐっ、うううぅう」

 涙が、涙が出て………。

「滝さん、泣かないで。絵茶もゼロスも頑張っていこ」

「「………は?」」

 絵茶さんとゼロスさんがハモる。

「何吊られた2人が言ってんのさ!」

「諦めたら試合終了? いやもう、試合終了なんよ。滝さんもワンスも吊られてんだから!」

 そう、現在、俺とワンスさんは吊られている。

 俺はロッカーみたいな所に隠れていたのだが、隠れたところを見られていたらしく、ロッカーを開けられ、そのままフックへ。

 ワンスさんは吊られていた俺を見て「また吊られてやんの!」っと馬鹿にしていたところをキラーに見つかり、少しチェイスをしたものの、キラーを撒けずにフックへ吊るされた。

 どうやらこの殺伐とした雰囲気を作り出したのは、俺とワンスさんのようだ。

「いや、そんなこと言われても、ねぇ?」

「そうだよ、吊られちゃったんだから、さぁ」

「「気楽に行こうぜ!」」

 通話アプリ越しに何かが切れる音が聞こえた。
 
「この野郎! 5マッチ中5マッチ吊られてるの、滝さんだけだからな!」

 絵茶さんの言う通り、5マッチ全部吊られて終わっている。しかし、それは俺だけじゃない。

「いや、俺以外にも吊られている人いるじゃないですか。ねぇ、ゼロスさん?」

 ゼロスさんも今のところ全てのマッチで吊られて終わっている。

「いや、俺はまだこのマッチ吊られてないし」

 確かにこのマッチはまだ吊られてない。な。

『滝は何回吊られてるの?』
『合計何回吊られた?』
『これ今日中に終わる?』
『ってか、耐久終わるの?』

 吊られて暇なのでコメント欄を見ると、心配しているのかリスナーさん達が色々聞いてくる。

 DbDは1マッチに3回吊られると、ゲームオーバー。だから、

「確かね、今5マッチ目で、俺が吊られた回数は13回。ゼロスさんが12回。絵茶さんが」

「2回」

「ワンスさんは?」

「この吊られてるの入れたら、4回目」

 ふぅーむ。俺が1番多いと。あと、このマッチは1回吊られても平気っと。

『足引っ張ってね?』
『足どころか味方を貶めてねぇ?』
『あなたはキラーですか?』
『1マッチにキラーが2人はキツいなw』

「誰がキラーじゃ! 俺はキラーの仲間じゃない!」

 ねぇ、皆さん? そうですよねぇ?

「「「………」」」

 あれ、ミュートにしちゃったのかな? 

「聞こえてますかああああ!」

「「「うるさい!」」」

 なんだ、ミュートじゃないのか。

 なんてふざけながらコメント欄を読み続けていると、

「ちょ、ちょっと待って! 絵茶さん助けあっ!」

 発電機を修理していたゼロスさんは、近づいてきたキラーに気付かず、1度斬りつけられる。

「ワンスさんどう思います? 彼、逃げきれると思いますか?」

「無理ですね」

 そう即答する。

「ふざけんな! 絶対に逃げ切って」

 ゼロスさんが建物の窓枠を越えた瞬間、

 ガチャン。

 何かに引っかかる音と、ゼロスさんのキャラから悲鳴が聞こえる。

「「あははははははは」」

「終わったぞ、あの人!」

「フラグ回収乙、ゼロス!」

 吊られている俺とワンスさんは爆笑をする。

 今回のマッチのキラーは、トラバサミを設置できるキラーで、名前は確かトラッパー。

 トラッパーは、サバイバーが逃げそうな板の近くや窓枠の近くにトラバサミを置いて、サバイバーの逃げ道を無くしてくるのだが、そんな情報は置いといて、

「何が絶対逃げ切るだ! お前も俺たちと同じ吊られ仲間になるんだよ!」

「嫌だあああああああああ。絵茶さん、助けてください! あああああああああああ!」

 こうして結局吊られてしまったゼロスさんは、絵茶さんに向け「ははは、こっちも楽しいよ」と言うが、絵茶さんはそれを無視。1人で脱出してしまった。

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「吊られすぎです。滝さんにゼロっさん」

「「すみません」」

 マッチが終わるなり、絵茶さんに怒られる。実際、俺とゼロスさんは全マッチで吊られて終わっている。

 2回しか吊られていない絵茶さんに言われるのは当然ちゃあ当然。

 しかし、だ。あんな風に言われて黙っている俺ではない。

「で、でもですね、俺とゼロスさんは初心者でして。上級者の絵茶さんと経験者のワンスさんと比べられると、ちょっと」

『言い訳かよ』
『言い訳しか言えないじゃん』
『言い訳していい立場かよ』
『もう黙った方がいいんじゃない?』
『絵茶さんに怒られるなんて、、、ずるい』

 う、うるせぇ! 言い訳は大事なんだよ。もしかしたら、許してくれるかもしれないだろ! ってか、今変なコメント送っている奴いたぞ!

「そ、そうなんですよ。初心者からしたらキラーに見つかった時点でゲームオーバー的な? 逃げるという選択肢になった時点で、詰み確的な?」

 俺の言い訳を聞き、ゼロスさんも絵茶さんに向け、言い訳をし始める。

 ほらみろ。ゼロスさんも言い訳したぞ。

『滝のせいでゼロスさんが』
『ゼロスさんに悪影響を与えたな』
『ゼロスさんのファンです。チャンネル解除しました』

 はあ? それは違うでしょ。

 俺は絵茶さん達に声が届かないようにミュートにする。

「おいおいおい! それは俺にせいじゃない。ゼロスさんは、元々そういう人かもしれんよ? 言い訳をする人かもしれんじゃん」
 
『滝が言い訳したからかもよ』
『滝が言ったからかもよ』
『ゼロスさんは滝みたいに言い訳しないと思うな』

「ええ、それはリスナーさん達の憶測じゃん」

『滝のも憶測じゃね』
『滝のも憶測』
『ブーメランなのよ』
『みんな憶測なんよ』

 まあ、確かに俺も憶測かも。

「確かにおっしゃる通り。この話はここまでにしない?」

『いいでしょう』
『一時中断で』
『再開はいつ?』
『協定を結ぶ?』

「協定は結ぼう。再開は無期限延期で」

 これでこの言い争いは終わり。

 ふぅ、お互い怪我しなくてよかった。

「滝さん? 聞いてますか?」

「うん、聞いてるよ。絵茶さんはゲームが上手いって話でしょ?」

「誰も、そんなこと言ってないんですけど?」

 おっと、リスナーさん達と戯れていて全然聞いていなかったことがバレてしまった。

「いいですか、もう1度話しますよ」

 いつの間にか始まっていた作戦会議。決まった作戦はこうだ。

1、全員キャラを同じにし、服装も同じにする。

2、俺とゼロスさんは発電機の修理に専念。絵茶さんとワンスさんはキラーの注意を引く。

3、俺かゼロスさんがキラーに追われていたら、絵茶さんかワンスさんにキラーをなすりつけ、なすりつけが成功次第、発電機の修理をする。

4、俺とゼロスさんは修理が早くなる工具箱を持ち、絵茶さんとワンスさんはキラーをスタンさせることができる懐中電灯を持つこと。

 この4点が作戦内容なのだが、

「ほとんどさっきと同じだね? 違うのは服装とキラーのなすりつけぐらい」

 今までプレイしていたマッチでは、各々がキラーから逃げていた。味方の方にキラーを寄せないように、気を使って。

「なすりつけってどうやるんですか?」

 そう質問するゼロスさん。確かにどうやればなすりつけることができるんだろう。

「そうですね。ゼロスさんが追われているとして、まず、私はゼロスさんの方に駆けつけます。ある程度距離が近づいたところで、私は物陰に隠れます。茂みとか岩陰とかに」

 絵茶さんの説明を頭の中で想像する。

「位置を教えるので、その位置に向かって走ってきてもらったら、ゼロスさんは私が隠れていた場所に隠れてもらって、私がその場から出て、キラーを引きつけます」

 なるほど。キラーに2人いるとバレなかったら出来そうっちゃあ出来そう。

 でも、

「それって結構難しいよね? それ、私もやる感じだよね?」

 ワンスさんの言った通り、結構難しそう。

 それに対して絵茶さんは、

「ワンちゃんにもやってもらうんだけど、思ってるほど難しくはないよ。案外、キラーって足元見ないんだよね」

 私何度も何度も足元にいたサバイバー逃してるもん、とキラー専の絵茶さんが言う。

『確かに』
『茂みに隠れてやり過ごす、とかは良くやる』
『これで出来たらすごい』
『キラーは足元がお留守な奴めっちゃいる』

 コメント欄でも、キラーの弱点は足元、だと言う人がいる。

 これならワンチャン出来るのでは? ………まあ、それでも、

「1回試しに1マッチやってみない? 本当になすりつけが出来るのか、隠れるタイミングはどれくらいなのか、ちょっとその作戦やってみない?」

 上級者の絵茶さんの作戦に不満はない。不満があるとしたら、俺のプレイ技術にある。俺とゼロスさんみたいな初心者に出来ることなのか、試してみたい。

「そうですね、1回やりますか」

 絵茶さんの作戦通りに、準備を始める。

 始めること1分。

 マッチ待機のロビーでは、作戦通り4人全員が同じキャラに同じ服を着ている。

 俺とゼロスさんの手には工具箱を。絵茶さんとワンスさんの手には懐中電灯を持っている。

 作戦を試しにやる、とは言ったものの、このマッチも本気で行う。

 作戦が成功しても失敗しても、吊られずに脱出できた場合は、耐久成功として、配信を終わらすつもりだ。

 俺たちは準備完了ボタンを押し、キラーの準備完了を待つ。

「ああ、あと」

 キラーが準備完了ボタンを押し、マッチが開始される。

「足元には注意を。トラップとかあるんで、気をつけてください」

 マッチの中に潜り込みながら、絵茶さんは全員にアドバイスをくれた。

「「確かに」」

 俺とワンスさんの声が被る。そういえば、このマッチの前、罠に引っかかっている奴いたな。

「気を付けるんだぞ、ゼロスさん」

「あんなやられ方、マジでウケるからやめてね?」

「うるせぇな」

 俺とワンスさんは、ゼロスさんに茶々を入れる。

 そうして始まってしまったマッチ。

 俺とゼロスさんは、絵茶さんの作戦通りに発電機の修理をする。

 工具箱というアイテムを持ちながら発電機を修理しているからなのか、めちゃくちゃ早く、発電機のゲージが溜まっていく。

「スキルチェック間違いないようにしないと」

 ゼロスさんの言う通り、スキルチェックは間違えられない。間違えてしまったら発電機は爆発して、キラーに位置がバレてしまう。

 だから間違えれないのだが、
 
「間違える要素、もうなくないですか?」

「………まあね」

 俺とゼロスさんは、スキルチェックを完璧にこなしていく。

 それもそうだろう。

 スキルチェックに慣れていない序盤の頃は、唐突にやってくるスキルチェックにパニックを起こし、タイミングが掴めず、失敗をしていた。
 
 しかし、何度も何度も発電機を修理し、場数をこなしてきた結果、スキルチェックに対して耐性が………いや、慣れが生じてきた。

 唐突にスキルチェックが来ても、焦らなくなり、タイミングを合わせることができるようになったり。

 そろそろスキルチェックが来るだろうな、と感覚で来そうな時が分かるようになったり、と。

 まあ、要するに、慣れたのだ。

 慣れて仕舞えばこっちのもの。

 1度のミスをせずに、1つの発電機を修理し終える。

「「まずは1つ!」」

 俺とゼロスさんが修理し終え、次の発電機へ移動を開始すると、

 ドックン、ドックン。

 心音がどんどん大きくなっていく。

 俺たちの近くまでキラーが来ているということだ。

「ここは2手に分かれましょう」

「了解です」

 ゼロスさんの指示に従い、右と左に分かれることにする。右がゼロスさんで、左が俺だ。

 ひとまず、走って逃げていく。

 すると、どうやらキラーは俺の方を追ってきているらしい。

 ドックンドックン、っと心音は大きく早くなっていく。

「絵茶さん、キラーに追われてます!」

 まだ、後ろピッタリに付かれていないが、それも時間の問題。

「了解です! こっちから滝さんのことは見えてます。そのまま、真っ直ぐ走ってきてください!」

 俺は絵茶さんの言葉通り、真っ直ぐに走っていく。キラーとの距離がだんだんと近づいてくる。

「そのまま真っ直ぐ行走るとと、大きな岩があるじゃないですか? その岩の後ろで待機しているので」

「岩陰に隠れればいいんですね?」

「そうですね!」

 あと数メートルで絵茶さんの言った大きな岩に着く。

 まだキラーとの距離はある。

 なすりつけの成功には、タイミングと極少数の運が必要となる。

 果たして、運を勝ち取ることは出来るのか。

 カメラ操作で後ろを見ながら、キラーとの距離を測る。

「絵茶さん、そろそろ行きますよ!」

「任せてください!」

 俺は絵茶さんのいる岩陰に向かって走る。

 岩陰に着くと、絵茶さんがいた。

「よろしくです!」

「まっかせなさい!」

 岩陰の草むらに俺は身を低くして隠れる。

 絵茶さんはキラーが来るであろうタイミングを見計らい、そして、

「きた!」

 走り出す。

 さて、キラーは気づくだろうか? 俺と絵茶さんが変わったことに。俺の手には工具箱で、絵茶さんの手には懐中電灯………気づかれたら、俺がここにいることがバレる可能性が。

 バレるな、バレるな。

 ドックンドックンドックン。

 バレるな。

 ドックンドックン。

「バレるな!」

 ドックン………………。

「………」

 心音が止まった。

「絵茶さん!」

「はい、今私の後ろにいます! 成功です!」

 キラーのなすりつけが成功する。

「おしゃああああああ!」

『おおおおおお』
『さすが』
『タイミングバッチリじゃん』
『絵茶さん凄すぎ!』

 いや、マジで絵茶さん凄すぎ! 走っていくタイミングがバッチリで、キラーも完全に騙されている。

 おっと、このままここにいても意味ないな。

 俺は絵茶さんが走って行った方向とは逆の方向に走っていく。

「今のうちに、発電機をお願いします!」

 絵茶さんがキラーを引きつけているうちに、発電機をどんどん回さなくては。

 発電機を探していると、俺の向かっている先で2つほど発電機の光が灯る。

「もう2人で、はしゃいじゃって! 私たちもいるんだからね?」

「今、3つ目も点いたし、あと2つ」

 俺と絵茶さんがキラーを引きつけている間に、ゼロスさんとワンスさんは、各々で発電機を修理していたらしい。

『これでワンチャンあるんじゃね?』
『いや、いけるでしょ!』
『絵茶さんが吊るされなかったらいける』
『絵茶さん、マジで上手いからね』

 コメント欄が騒ぎ始める。

 確かに、あと2つ修理すれば、ゲートが開けられ、逃げることができる。

 これは行けるかも。このマッチで耐久終わらすことできるかも。

 耐久配信を始めて、2時間半。結構疲れてきた。集中力もどんどん落ちてきている。ここが正念場かもしれない。

「早く発電機探そう!」

 ワンスさんの言葉に頷き、発電機を探す。

 固まって動くのは得策ではないため、散開して探すことにする。すると、

「こっちにある!」

 ゼロスさんの方に1つ。そして、

「っ! こっちにも!」

 俺の方にも1つあった。

「じゃあ、今ある2つ回せば、終わり?」

 ワンスさんの声が弾んで聞こえる。

「ワンスさんはゼロスさんの方を手伝ってあげてください。俺は工具箱があるので、多分1人で修理できます」

 ゼロスさんも工具箱を持っているが、彼の工具箱はもうすぐ制限回数が来てしまい、使えなくなってしまう。1人で1つの発電機を修理しているのだから、そのはず。

 ゼロスさんが1人で1つ修理できたと言うことは、俺の持つ工具箱でも1つは修理できると言うこと。

 なら、ゼロスさんとワンスさんで1つ修理してもらい、俺1人で1つ修理した方が効率が良い。

「分かりました!」

 ワンスさんはゼロスさんの方に走っていく。

 俺は見つけた発電機の修理に取り掛かる。

「絵茶さんは大丈夫ですか?」

 修理しながら絵茶さんの状況を聞く。

「全然大丈夫! このキラーの動き簡単に読めるわ!」

 そう言い、「うらぁあ! そんなところで待ち伏せするから板に当たんだよ!」キラーに板を当て、スタンさせる。

 工具箱のおかげで、あと少し。あと少しで発電機が点く。

「こーれで、終わり!」

 修理が終わり、あと1つ。

「ゼロスさんのところ手伝います!」

 俺はすぐさま、ゼロスさんのところに駆けつけようとすると、絵茶さんが「待った」をかける。
 
「滝さんは、ゲートの準備をお願いします! 多分ですけど、滝さんの近くにゲートがあるはずなんで、探してみてください」

 絵茶さんに言われた通り、発電機の周囲を探すと、ゲートがある。

 さすが、上級者の絵茶さん。マップを熟知しているようだ。

「ゼロスさん、あとどれくらい?」

 俺はゲートを開ける準備をする。

「あとミリミリミリミリミリ、直った!」

 指定された数の発電機を直し終わると、ブザーがなり、ゲートのある場所が強調表示される。

「じゃあ、開けます!」

「「「はい」」」

 俺はゲートを開ける。

 ゲートを開けるにも時間がかかる。開けている最中、1人こっちにやってくる。

「滝さん、早く早く!」

 やってきたのは、ゼロスさん。

 急かしたって、意味ないですよ。ところで、

「ワンスさんと一緒にいたんじゃ」

 ゲートが開くまで、あと少し。

「ワンスなら、絵茶さんのカバーに行きました」

 なるほど、絵茶さんが捕まらないようにカバーしに行ったのか。

 ゲートが開き、俺とゼロスさん、ワンスさんが逃げたら、絵茶さんのカバーをする人がいなくなってしまう。絵茶さんが捕まれば、俺たち3人逃げたとしても無意味。

 かと言って、俺かゼロスさんがカバーに行っても、無駄死にするだけ。

「ナイス、判断」

 ワンスさんの判断に称賛を与える。

 そろそろ、ゲートが開くというところで、

「ゲート開きますか? 開きますよね? キラー連れて行きますよ!」

 絵茶さんから、そっちに行きますよ宣言。

「大丈夫です。そろそろ」

 ゲートが開きますから、と言う前に、

 ピー、ピー、ゴゴゴゴゴゴ!

 ゲートが開く。

「ゲートが開きました!」

「じゃあ、先に逃げてください!」

 絵茶さんの指示に従い、俺とゼロスさんが先にゲートを潜り、脱出する。

 一足先に脱出しといて何だが、絵茶さんとワンスさんは大丈夫だろうか? 
 
 俺はスマホを取り出し、絵茶さんの配信をミュートで見る。

「ふぅ、良かった」

 絵茶さんを心配する必要は無いってことを忘れてた。だって、あの人はDbDの上級者だよ? 初心者の俺が心配するまでも無いよ。

 絵茶さんは懐中電灯で、キラーをスタンさせてから脱出した。ワンスさんは、絵茶さんのほんの少し前に脱出している。

 4人、1度も吊られずにマッチが終わった。

「………」

「「「………」」」

「これでいいですよね? 誰も吊られて無いですよね?」

 確認のために、全員に聞く。俺の記憶違いでなければ、誰も吊られていないのだが。

「何言っているんですか! 誰も吊られてなんていませんよ!」

「だよね、だよね!」

 吊られてないよね。絵茶さんの言う通り、誰も吊られてないよね! じゃあ、

「耐久配信は成功しましたよ、滝さん!」

「うおおおおおおお!」

 長かったような、短かったような。集中してプレイしたせいか、疲れがどっと来た。

「おめでとうございます!」

「成功おめでとう」

 ワンスさんとゼロスさんがお祝いの言葉をくれる。

「いや、2人共、付き合ってくれてありがとう! マジで助かった」

 この2人がいなかったら、この企画すら出来ていなかったからね。

 ゼロスさんとワンスさんには感謝しか無い。

『おめ』
『ナイス』
『88888888888888』
『パチパチパチパチパチパチ』
『ナイスラン!』

 リスナーさん達も見守ってくれて感謝しか無い。

「いやあ、マジで疲れた。見守って見てくれたリスナーさん達、ありがとうね。今日はもうここで終わりにしようかなって思ってる」

 配信を終わらせることを伝える。

『オーケイ』
『おけ』
『お疲れ様』
『お疲れ様』

「今日はもう配信しないから、明日の昼配信が次の配信かな? じゃあ、その時までバイバイ」

 そう言い、俺は配信を落とした。






 

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