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生配信18 おひさ、FF14

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「どうも、今日もゲーム配信」

 いつも通りの挨拶をしようとすると、あるコメントが目に入る。

『いつもその挨拶で飽きない?』と。

 挨拶に飽きるもクソも無いと思うけど、と思いながら質問には答える。

「別に飽きてないけど?」

 逆にこのフレーズを言わないと、配信している自覚が芽生えないまである。

 そのことをリスナーさんっていうか、質問してきた人に説明する。

「この挨拶しないと配信しているっていう感覚っていうのかな? それが無いんだよね。ほら、習慣ってあるじゃん。その習慣をやらないと気持ち悪くならない? 俺はなるから、やるんだよね」

 分かってくれたかな、質問してきたリスナーさんは?  

 ってか、なんか他にもそう思っている人がいそう。

「逆に質問するけど、みんな聞き飽きた?」

 そう思っている人が多くいたら、少し違うの考えてみようかな。

 なんて思っていると、

『別に」
『気にしたことない』
『挨拶って気にするようなものなの?』
『気にしたことなかったわ』

 飽きたと思っている人はコメント欄にいなかった。

 じゃあ、気を取り直して。

「どうも。今日もゲーム配信、配信者はお馴染みTakiチャンネルの滝です」

『やり直しワロタ』
『これ聞かないと始まった気がしない』
『どうも!』
『今日は何やるの?』

 やり直しはしますとも。最初、言えなかったもん。

 さて、挨拶もしたし、コメント欄でも何をするのか聞いてくるリスナーさん達もいるので、早速、今日やりゲームを紹介していこう。

「今日はね、別に新しいゲームをやるとかじゃあないね。2日振りになるかな? 今日はFF14をやっていこうと思います」

 ここのところ、FF14をやっていなかった。ダメージ勝負配信と耐久配信でやる機会がなく、2日も空いてしまった。

 何人かのリスナーさん達から、TwitterのDMダイレクトメッセージにて『FF14の配信はいつ頃やるか教えてください』的な内容のメッセージが飛んできていたので、今日やることにし、そう返信も返しといた。

『やっとこっちの世界に戻ってきたか』
『おひさじゃん。FFの世界!』
『銃やキラーのいる世界よりもファンタジーの世界の方が楽しいよ』
『今日はどんなことするの?』

 FF14をやると宣言すると、コメント欄が結構早く動き始める。早く動くコメントの中から少し拾う。

「そうなんですよ。おひさしぶり、FF世界。俺は帰ってきたぞ。って事で、今日はストーリーをね、進めていこうと思います」

 配信と配信外で、そこそこ進んでいるストーリー。今日もストーリーをゆっくり進めていこうと考えている。

「じゃあ、配信画面に映していくね」

 FF14のゲーム画面を配信に移していく。

 FF14の世界を2日振りに見たが、やっぱり、

「綺麗だな、この世界」

 グラフィックが綺麗。建物の外装や星空、目の前を通るプレイヤーの装備の1つ1つが見惚れるほど綺麗なのだ。
 
「グラフィックが綺麗なゲームって良いよね。俺、FF14始めたきっかけ、それだもん。グラフィックが綺麗だから」

 FFファイナルファンタジーシリーズの作品、結構プレイしてきたけど、グラフィックに関してはFF14が1番だと思っている。

『マジで綺麗』
『オンラインゲームでここまで綺麗なのFF14ぐらいじゃない?』
『グラフィックが綺麗な作品は結構出てきてるよ』
『FF14が1番とは思わないけど、確かに綺麗。ってか美しいまである』

 確かに美しいまである。

 まだFF14の綺麗さについて話していたいのだが、話していたら、それだけで配信時間が終わってしまいそうなので、ここまでにしとく。

 さて、今日の配信なのだが、

「ストーリーを進めていこうかな」

 前々回のFF14配信では砂漠の都ウルダハから始まり、前回のFF14配信では、海の都リムサ・ロミンサを観光して終わった。
 
 今回の配信では、もう1つの都——森の都グリダニアまで行き、グリダニアのストーリーを進め、最後にリスナーさん達と観光して終わろうと企画している。

 この企画をリスナーさん達に説明すると、

『やっとこの時が来たよ』
『グリダニアの時代が来たか』
『グリダニアが最高だと言っておこう』
『これで滝のグリダニア派になること間違いなし』

 コメント欄を読んで思い出す。

 そういえば派閥があったな、と。

 待ちに待った森の都グリダニア派の皆が、コメント欄に色々書き込んでくる。

 確かにやっと出番が来た感じだ。グリダニア派のリスナーさん達に遅くなったことを謝るとしよう。

「ええ、グリダニア派のリスナーの皆さん。グリダニアに行くのが遅くなり、誠に申し訳ございません」

『まあ、コラボとかで忙しかったんだし仕方ない』
『ちゃんとグリダニアまで行ってくれればいいよ』
『忘れてても仕方ないよ』
『急がなくてもいいよ』



『『ちなみに、ウルダハ派』だけど』
『『ちなみに、リムサ・ロミンサ派だけどね』俺は』



 何故か、グリダニア派の人間じゃない人たちが許してくれる。

 いや、君達に言っているのではないんだけど。ってか、そんなこと言ったらさ、グリダニア派の人達怒るんじゃね?

 案の定、コメント欄に怒りのコメントが流れてくる。

『黙れ、他派閥の奴ら!』
『お前らに許しは求めてないんだよ。帰れ!』
『しゃしゃり出てくんな』
『喧嘩売ってんのか? 買うぞ』

 ああ、コメント欄が荒れちゃった。余計なことをするから、グリダニア派の人達が怒るんだよ。

 この荒れたコメント欄を通常通りに戻すために、グリダニア派以外の派閥のリスナーさん達を嗜める。

「ウルダハ派とリムサ・ロミンサ派のリスナーさん達、これ以上喧嘩を売るのはやめなさい。イエローカードですよ! 次、煽ったりしたら、レッドカードでブロックするからね」

 ブロックすると、そのブロックされた人のコメントは、コメント欄に表示されなくなる。つまり、どんなにコメントを打とうが、誰も触れてくれない。

『警告を出されてしまった』
『まあ当然こうなるよな』
『ブロックか………しゃあなし。やめよう』
『これって、言ってない人はイエローカード出されてないですよね?』

 もちろん、言っていない人は無関係なので、

「言った人のみイエローカード。言った人の名前は押さえているので、次やったらすぐにレッドカード出します」

 コメント欄の質問に返事を返す。

 次は、怒り心頭のグリダニア派の皆さん。

「グリダニア派の皆さんも、安い挑発に乗るのはやめてください。あと、コメント欄に暴言とかを吐くのはやめてください。次、他派閥のリスナーさん達に暴言を吐くのなら、イエローカードを出します」

 次やれば警告を出す。

 現時点では、他派閥の人が悪いのでイエローカードを出す気はない。

 次がないことを祈る。

「もし、イラつくコメントがあれば、その人の名前をコメントに書き込んで、その名前の横に、顔文字を付けてください」

 そう俺は言い、コメント欄に顔文字を送る。

『Takiチャンネル : (^-^)ノ ⇦これね』

 前回も使った顔文字。

 これで荒れたコメント欄が治ってくれればいいのだが。

『ちょっとムカつくが、理解した。(^-^)ノ』
『了解。(^-^)ノ』
『イエローカードを貰わないようにします。(^-^)ノ』
『(^-^)ノ』
『(^-^)ノ』

 どんどん顔文字が送られ、コメント欄が顔文字一色となる。

 これ、逆に荒らされているように見えるのは、気のせいだろうか?

 ………考えないようにしよう。ひとまずは、これで良しとしとこう。

 その後、俺が配信を進めていると、コメント欄にあった顔文字はなくなり、通常通りのコメント欄へと変わっていった。

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 ちょっと道草しながらストーリーを進め、久々のFF14世界を堪能していると、やっと森の都グリダニアへと着く。

「物語をスキップせずに全部見たせいか、配信時間があと1時間しかないよ」

 13時から配信が始まり、2時間かけてストーリーを進め、あと1時間で配信を終わらせなければならない。しかも、その1時間でリスナーさん達が満足するぐらい観光しなくてはならない。

 ううん、できるかな? 結構グリダニア派の人達、フラストレーション溜まっていると思うんだよね。FF14配信してなかったから。

 ………まあ、なるようになるよな。

 どうしようもないことを考えるより、自分の出来ることを考えよう。

「じゃあ、観光を始めますか」

 俺がそう宣言すると、

『おおおおおお!』
『どこ集合ですか?』
『俺、綺麗なとこ知ってるよ!』
『グリダニア派以外もいいですか?』

 待ちに待ったグリダニア派の人が騒ぎ出す。まあ、中にはグリダニア派以外の人もいるけど、コメントは自由なのでね。誰も文句は言わないですよ。

『グリダニア派以外は来んな!』
『グリダニア派以外の奴らはグリダニアの領地に入りな』
『匂うぞ、土臭い奴と磯臭い奴がグリダニアに入ろうとしている!』
『ウルダハ派、リムサ・ロミンサ派は共に自分の居場所に帰れ!』

 ………あ、あれれ? なんか、コメント欄の雰囲気が悪いぞ。刺々しい言葉ばかりが並んでいるんだが、気のせいかな?

『はあ⁉︎ 調子に乗るなよ!』
『誰が土臭いや! この田舎者どもが!』
『磯臭い? はあ、何言ってんの?』
『グリダニア派は知能なしw』

 おっおう! 他派閥の2つが応戦してしまった。

「やばい、コメント欄が罵詈雑言だらけで埋まってる。誰かああああ、助けて!」

 多分、リスナーさんみんながみんな、暴言を吐いているわけでは無いと思う。しかし、コメント欄は、

『燃やすぞ、その森!』
『僻みですか? 木々がない都は嫌ですね』
『木ありますけど? ウルダハ来たことないんですかねぇ?』
『こちとら船があるんだぞ! お前らは徒歩の雑魚だろ!』
『チョコボがあるので、船の存在価値なしです!』

 うん、もう最悪。

 リスナーさん同士で喧嘩し出しちゃってるもん。

「ちょっと! 暴言がすぎるよ、みんな!」

 流石に止めに入らなくては行けないような気がしたので、声をかける。

「今のはグリダニア派の人達が悪いので、イエローカード。応戦してしまったグリダニア以外の派閥は、注意で終わりです」

 グリダニア派にもイエローカードを言い渡す。

「暴言を言いたい人たちは、顔文字で会話してください」

 これで暴言の嵐が止まればいいのだが。

『喧嘩するなら買うぞ。こら!』
『やってやろうじゃねぇか!』
『戦争するか、ああ⁉︎』
『やってやろうじゃあねぇか!』

 暴言の嵐は止まることを知らず、勢いに任せて進んでいく。

 ううん。これで止まらないのなら、最終手段を取るしかない。

 再度、忠告をする。

「これ以上、暴言でコメント欄が埋まるなら対処しますよ! 聞いてる、俺の声届いてる?」

『ボケが!』
『このカスどもが!』
『やるならやってやるよ! このバカどもが!』

 とうとう、小学生でも言えるような暴言でコメント欄が埋まる。

 しゃあない。最終手段を取りますか。

「暴言が止む気配がないので、今日はここまでにしていきたいと思います。また、FF14配信は今後控えていこうかと思います」

 最終手段——強制終了&もうこのゲームやりません宣言。

 それに対して、

『え?』
『もう言ってないよ!』
『まだ辞めないで!』
『いい加減にしろよ!』
『マジでやめるの?』

 言っていない人達や俺の忠告を聞いてやめた人達には申し訳ないが、頭を冷やす時間を与えないと行けない。

 もちろん、そういった人達に謝罪をする。

「本当にごめんね。言ってない人とか忠告を聞いてくれた人には、本当に申し訳ない。でも、ここはちょっと頭を冷やす時間が必要だと思うから昼配信はここで終わりにします」

『マジか』
『もう暴言とか言わないように言った方がいいんじゃないの?』
『自由にさせすぎだからこうなったんだよ』
『最悪すぎなんだけど』

 俺の終わりにするの言葉に、いろんな反応を見せてくれる。中には、俺のせいだと言う人も。

 でも、

「確かに俺のせいでもある。自由にさせすぎって言う意見は至極真っ当。だけどね、コメント欄は自由にコメントする場所だから。俺は今後も自由にコメントをさせるつもり」

 これが俺のやり方。俺の配信の仕方だ。

「1人のリスナーさんが暴言を吐きまくっているなら、ブロックするつもりでいるし、今みたいに多くの人が暴言を吐くなら、配信をやめる。で、それによって被害を被っている人達には謝罪をする。これが俺のやり方。本当に申し訳ないと思うけど、理解して欲しい」

 もしかしたら、俺から離れていくリスナーさんはいるかも知れない。

 でも、引き止めるような言葉は言わない。だって、それはリスナーさんの自由だから。

 俺は、もう1度だけ「本当に申し訳ない。ごめんね」と言い、配信を切っていく。

 久々のFF14配信がこんな終わり方をするなんて思っても見なかった。
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