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生配信21 酒呑み雑談
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「はい、どうも! 今日もゲーム配信、配信者はお馴染みTakiチャンネルの滝です」
『来たな、裏切り者』
『やっとか。さあ、吐け!』
『罪を告白しなさい、異端者よ』
『罪状は死刑だが、素直に吐けば減刑しよう』
「わぁお。始まって直ぐなのに罪人扱い!」
高校生の絵茶さんがいたので、早めに切り上げ帰宅させ、俺は俺の家に帰ってきた。
そして、配信の時間になったので配信をしているわけだが、
「ええ、リスナーさんの皆さん。今日はですね、本当は夜配信を休むつもりだったのですが」
『はあ、許されるわけねぇだろ⁉︎』
『サキサキさんの服装、教えてくれるんじゃなかったの? なのに、休むつもりだったの?』
『異端者には火炙りの刑だよ? わかってる?』
『怒らせちゃまったな、オレらをヨォ!』
休む予定だったと伝えただけで、コメント欄は阿鼻叫喚。
リスナー諸君、話は最後まで聞こうね?
「まあまあ、怒らないの。んでね、休むつもりでいたんだけど、今日は要望でね、配信をすることにしました。ゲーム配信をするつもりでいたんだけど、雑談配信にしようかな、って思ってて、いいかな?」
『話す内容による』
『楽しかったんだ! みたいな事だったら、コメ欄荒らす』
『もう荒れてんだけどねw』
『サキサキさんの事だったり、絵茶さんの事だったら許す。それ以外は要らない』
欲望に忠実なリスナーさん達だ事。俺とか聡太さんのことは話すなってことだね。
俺は、というか俺たちは荒れているコメント欄を見ながら、1つのコメントを見つける。
『ってか、要望って何?』
ちゃんと俺の話を聞いていてくれたリスナーさんが質問してくれたので、その質問に答える。
「んで、要望って何なの? って話になるんだけど、要望の内容が、俺の枠で呑み雑談配信をしたいっていうモノなの」
これを言い出したのは、一美さんことワンスさん。
焼肉会をお開きにして店を出たとき、「まだ飲み足りないし、1番近くの人の家で宅飲みしよう」と、絵茶さんを除く皆に言ってきた。
『んん?』
『どゆこと?』
『リモート飲み会?』
「いや、リモートとかじゃなくて」
最初は酔っ払いの戯言だと無視しようとしたのだが、もう酔っ払い2人が、「よしゃ行こう!」と「滝の家が1番近い! 案内するぞぉ!」と迷惑千万なことを言い出し、そして結果、
「どうも~、ゼロス&ワンスのワンスです! 今、滝君の家にいまーす!」
『えっ!』
『マジ!』
『滝の家にみんないるの!』
『宅飲みかーい!』
俺が説明をしている途中で、1番酔っ払っているワンスさんが間に入ってくる。
「そうなんですよねぇ。家までついて「ほら、みんな自己紹介!」来ちゃったん「どうも! ゼロス&ワンスのゼロスです!」………まだ喋って「Souちゃんチャンネルの聡太でぇぇぇす!」あああ、入れなければよかった! 家に!」
俺の言葉を遮って自己紹介する酔っ払い2人。
今からでも遅くないかなぁ? 家から叩き出してもいいかなぁ?
酔っ払いの好き勝手な行動を体験して、家に入れたことを後悔する俺。後悔している間に、もう1人ゲストさんが自己紹介する。
「どうも、サキサキです。今日は滝くんの家で飲み会をしようって事で、参加してます!」
『ふぁ!』
『マジか!』
『ずるいぞ、滝!』
『サキサキさんが滝の家に!』
「成り行きなので文句は言わないように。サキサキさんだってコメント欄見てるからね」
これ以上コメント欄が荒れたら、流石に不味いような気がするので、リスナーさん達に釘を刺す。
『絵茶さんはいなんですか?』
『絵茶さんは?』
『絵茶さんハブなの?』
『マジで! 見損なったぞ」
「そんなわけあるか! 絵茶さんは家に帰らなきゃいけないようなので、家に着き次第、通話して飲み会をします」
リスナーさん達には高校生だと、言っていないらしいので、適当に誤魔化しておく。
なので、飲み会は絵茶さんの連絡待ち。その間は、配信者である我々で繋げなければいけ、
カシュ。カシュ。カシュ。
ん? 後ろから何かを開けた音が聞こえた………マジか。
『今、缶が空いて音が』
『飲み会は絵茶さんが来てからって言ってなかった?』
『今、、、な訳ないよな』
『流石にね。来てないのに飲んだりは』
「ぷはぁああ! うまいね、お酒!」
「ビールは何杯でも飲める。ワンスも俺もビールが1番好き!」
「滝、先に始めてるわ! 待ってられんかった」
………やりたい放題ですね、3人とも。
はぁ、さっきまでも呑んでいたのに、よく呑めるな?
二日酔いになっても知らんぞ!
ちなみにお酒はコンビニで大量に買って、俺の冷蔵庫にしまってある。おつまみも各自好きなものを買っており、俺もビーフジャーキーとチーカマを買った。
『滝は飲まんの?』
『滝はあまり飲まないって言ってた気がするけど、今回は飲む?』
『聡太さんは何呑んでますか?』
『サキサキさんはどんなおつまみが好きですか?』
コメント欄には様々な質問が寄せられており、俺がリスナーさん達の代弁者となる。
「今回はね、みんな呑むことにしてる。だから、俺もサワーを買って来ていて、呑むつもり。聡太さんが呑んでるのは………何呑んでんの、聡太さん?」
「俺? 俺はね、レモンサワーとビールと日本酒!」
「だって。んで、サキサキさんに質問なんですが、どんなおつまみが好きか? だって?」
どんどん質問が増えてく中、目に入った質問だけ代弁する。
「私ですか? 私は………裂けるチーズ的なものとか、オニギリとかですかね」
「へぇ、サキサキさんはオニギリなんだ! めっちゃ変っていうか珍しいね!」
酔っているせいなのか、ワンスさんの言葉がストレートすぎるような。
「そうですか? お米が好きなので、お米を食べながら呑んじゃいますね。ワンスさんもどうですか?」
「え、くれるの! ありがとう!」
サキサキさんがお酒のお供に買ったオニギリをワンスさんにあげる。
オニギリとお酒って合うのか?
俺も少し気になってきた。
コメント欄から目を離し、オニギリをお供にお酒を呑むワンスさんをマジマジと見る。
「………うん、お米が美味しく感じるかも! 濃い味のオニギリだからか、お酒に合う!」
絶賛の様子。
へぇ、合うのか。今度試してみよう。
ワンスさんからコメント欄に視線を戻し、質問を見てみる。
『滝さんとサキサキさんはお酒飲まないんですか?』
『今呑んでるの、誰?』
『ゼロスさんとワンスさんは何を食べてますか?』
「ええっと、今呑んでんのは「聡太さんとワンスさんとゼロスさんだけですね。私と滝くんはまだ呑んでません!」です」
コメント欄を見ていると、暇になったのか、サキサキさんが居間にあった椅子を持ってきて、隣に座り、一緒になってコメント欄を見ている。
「ここからは私も質問に答えていきます! 滝くんと一緒に答えれる質問を出来るだけ答えていきます!」
ちなみに俺とサキサキさんの距離は、ゼロ距離。肩が密着している状態。
焼肉行った帰りなのにいい匂いが………ううん、なんでもない、なんでもないからね!
邪念を取り払い、質問に答えていく。
『滝さんはいつ裁かれるのでしょうか?』
『サキサキさん、滝の横にいるの? やめた方がいいよ、臭いから!』
『バカが移っちゃうよ、サキサキさん!』
『シンプルに悪口で草。滝、臭!』
「あれ、質問より俺への罵倒が多くなってるような気がするんだが?」
「バカが移る………(チラッ)」
「何気にしてんすか? 移るのは俺の方だわ!」
「それって、私をバカ呼ばわりしてます?」
『滝有罪!』
『ビンタ!ビンタ!ビンタ!』
『バカはお前だ、滝!』
『サキサキさんに悪口って、ま!』
「ビンタコールやめい! あと、バカって言った方がバカなんだし………って、サキサキさん? 自分の手のひら見るのやめて貰っていいですか? ビンタはヤですよ?」
「いけ、やったれ、滝にビンタだ、サキサキさん!」
「そうだ、そうだ! 聡太さんの言った通り、やったれ!」
「聡太、ゼロスは黙っとれい! お前らを引っ叩くぞ!」
マジマジと俺の頬を見るサキサキさんに恐怖を覚える。
あなた、シラフですよね? 酔ってないのに、暴挙に出るんですか?
シラフなのに、その場のノリで行動しそうなんだよな、この人。話題を変えていこうかな。
「ええっと、なになに『滝の家にお宝はありますか?』何この質問?」
高い買い物はしない主義だし、服もブランド物買わんしな。お宝ていうほどのお宝はないぞ。
「お宝はありません。高価なものは買わない主義なので。1番の宝はこのPCとかじゃないかな?」
このPCだけで50万もする。これが壊れたら発狂ものだ。
なんて質問に答えていると、ワンスさんが2本目のビールを開け、質問の真意を教えてくれる。
「お宝ってエロ本か、アダルトグッズのことじゃなくて?」
「「「「………」」」」
エロ本? アダルトグッズ? 何それ、美味しいの?
ワンスさん以外、思考停止している。
コメント欄では『あっ』とか『そっち?』なんてコメントもあるが、『あるぞ、絶対』、『探したらあるよ。ベッドの横とか下とかに』などなど、割合的にいうと後者のコメントの方が多い。
ガタッ。
ワンスさんの問題発言から一拍置いて、サキサキさんが徐に立ち上がる。
余談なのだが、俺の配信環境は、寝室兼配信部屋となっているので、今、配信していて飲み会を開いている場所は、寝室兼配信部屋。
まあ、余談はさて置き、立ち上がったサキサキさんは、ある場所目指して歩こうとしている。
目線で気が付いたのだが、この女、独身男性のベッド漁ろうとしていないだろうか?
ベッドを漁られた所で、横にも下にも何もない。何もないから漁られても良い………とは行かない。
なので、
「座りなさい。サキサキさんよ、ここに座りなさい」
持ってきた椅子に座られようとする俺。しかし、サキサキさんはベッドにロックオンしており、尋常じゃない力で抵抗してくる。
ど、どうしよう! この人力強すぎ!
ベッドを絶対に漁られたくない俺は、サキサキさんを説得させるため、事実を伝える。
「ベッドには何もありませんから。エロ本1つもありませんから」
「………」
が、一向に力が緩まない。
「ちょ、助けて!」
後ろにいる酔っ払い共に助けを求めるが、
「キャハハハハ! ゼロス、服にお酒飲ませてんの?」
「大丈夫、零してない! 服が飲みたいって言ってたから、聡太さんと一緒に服に呑ませただけ」
「いや、俺は飲みミス。口がどこにあるか分からなくて零しただけ」
そして、
「「「キャハハハハハハハハハハハハハ!」」」
高笑いをし、こっちに見向きもしない。
く、クソゥ! 誰か、誰かいないのか!
救いを求める俺の声が天に届いたのか、サキサキさんのスマホに着信が来る。
「はい………えっちゃん! うん、うん。今からビデオ通話にするね!」
着信先は絵茶さんのようだ。サキサキさんは、スマホを持って、酔っ払い3人の方に向かっていく。
ふぅ。救いの女神は俺の近くにいたようだ。
女神絵茶、これからはあなたを信仰します。
『絵茶さんが来たか』
『絵茶さんの声聞きたい!』
『絵茶さんに質問したい』
『絵茶さんと結婚したい!』
「はいはい、興奮しないの。声は聞けるし、質問も出来るからちょっと待ってな。結婚は無理だから諦めろ」
絵茶さんの準備が整うまで少し待つ。
1人だけリモートなのだが、皆集まったので、絵茶さん次第で飲み会が始まる。
「えっちゃん準備良い?」
「うん、オーケイだよ!」
絵茶さんの準備が整ったので、
「じゃあ、みんな集まったので飲み会を開始したいと思います。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
乾杯の音頭は俺が取り、飲み会を始める。
カシュ、カシュ、カシュ。
俺とサキサキさんのお酒、絵茶さんの缶ジュースの開ける音が配信に乗る。
「ってか、なんで3人は私がいないのに呑んでたの? 滝さんの配信見てたかんね?」
ちょっと不貞腐れている絵茶さん。
3人はそれぞれ絵茶さんに謝罪し、笑って誤魔化している。
絵茶さんの声がこちらに届いたので、リスナーさん達にも確認しとく。
「どう、リスナーさん達? 絵茶さんの声届いてる?」
すると、
『届いてはいるけど、何を喋ってるのか分からないくらい小さい』
『届いていないないの等しいぐらい小さい』
『ちゃんと声入ってない』
『スマホの通話だから聞こえない』
どうやらリスナーさん達には絵茶さんの声がちゃんと届いていないらしい。
それはリスナーさん達が可哀想なので、絵茶さんに1つお願いする。
「絵茶さん、PCの通話アプリ開ける? 配信に絵茶さんの声入ってないらしいんだ」
「あっ、いいですよ。ちょっと待ってな、滝!」
………呼び捨て? あれ、あの子缶ジュースの筈なんだけど、酔ってる?
呼び捨てにされて数秒後、通話アプリに着信が入る。どうやら絵茶さんから掛けてくれたようだ。
「どう? 私の声入ってる?」
「どう、リスナー達?」
『入ってる!』
『絵茶さんの声綺麗!』
『絵茶さん大好き!』
『絵茶さん、結婚して!』
どうやらちゃんと声が届いたらしい。
結婚結婚うるさい奴がいるが、もう触れないぞ。触れると調子に乗る奴らが出てくるからな。
さて、俺も久々のお酒を、ちびちびと呑んでいきますかな。
3ヶ月前に飲んだきり、一切お酒を呑んでいないので、身体に慣らすように、少しずつ呑んでいく。
うん、まあまあ上手いな。
お酒を飲みながら質問を見ると、
『絵茶さんは何飲んでますか』
『滝と聡太さんの出会いについて教えてください』
『ワンスさんとゼロスさんは恋人ですか?』
『女性陣の好きなタイプを教えてください。男性陣は結構です』
などと、珍しい質問がコメント欄に流れる。
まずは、
「絵茶さんは何を飲んでますか?」
「ファンタのグレープ! あとは机にあるのは、いちご牛乳とコーヒー牛乳」
簡単な質問から答えていく。
「ねぇ、滝さんってお酒強いの?」
「いや、全然。だから、絵茶さんのジュースが羨ましい。俺もそっちがいい」
ちなみにこの会話は、酔っ払い3人とサキサキさんにも聞こえている。サキサキさん達の方にはスマホのビデオ通話があるから。といっても、普通の声量で喋っているので、普通に聞こえるんだけどね。
「ええっと、俺と聡太さんの出会いか………聡太さん、覚えてます?」
「うな? ああ、あれは、なんだっけ?」
なんだっけ? なんでコラボしたんだっけ?
ううん、と唸りながら考えるが、思い出せない。思い出せないのは仕方ないので、
「思い出せません」
と、質問に答える。
「思い出したら喋るので、それまで待っててください」
今は思い出せない。でも、今後思い出すかもしれないので、話すのはその時にしてほしい。
んで、次は、
「ワンスさんとゼロスさんは恋人ですか、だって?」
俺らは知ってはいるが、勝手に喋っていいことではないので、ワンスさんとゼロスさんに聞く。
「ふふふ、実は爛れた関係なの」
何を言ってんの、ワンスさん? 配信中だよ?
「いや、違うね。幼馴染の方が面白いね」
ゼロスさん? 幼馴染の何が面白いの?
「いいや、ゼロスがご主人様で、私がメイドの関係」
「いや、大学の友人でそこから配信をするようになった関係」
「いいや」
「いや」
と、ごちゃごちゃ適当な関係性を述べているが、事実である夫婦ということは言っていない。
隠しているようなので何も言わない。
まだごちゃごちゃ言っているので、
「色々な関係性の2人なんだね? じゃあ、次」
ええっと、次は、
「女性陣の好きなタイプは何ですか、だって? 答えられる範囲で答えてください」
もちろん「男性陣は結構ですとの事」と男性陣に伝えとく。
最初に口を開いたには、まだごちゃごちゃ言っているワンスさん。
「私のタイプは! 一緒にお酒を飲んで、四六時中ハイテンションで、一日中馬鹿騒ぎできる男性! でも、ウザかったらぶっ飛ばすけど」
とまあ、ワンスさんはおっしゃっていますが、ワンスさんの視線はずっとゼロスさんに向けられているので、実際のタイプはゼロスさんみたいな人なんでしょう。
次は、リモートの絵茶さん。
「私は好きになった人がタイプです。あっでも、私の趣味を邪魔しない人もタイプかも」
へぇ、絵茶さんの事だから、もっと細かいのかなって思ってた。
女子高生って「こんな男嫌だ」とか「あんな男と付き合いたくない」とか、言ってそうじゃん? だから、結構理想が高いと勝手に思ってた。
まあ、タイプは人それぞれなんで、次行ってみましょう。
「サキサキさんのタイプは、どんな感じの人ですか?」
最後はサキサキさんなので話を振る。
「………」
「サキサキさん?」
「………ヒック」
しゃっくりの音が聞こえたような気が。
「ヒック、ヒック!」
いや、後ろの方から確実に聞こえる。
恐る恐る振り返ると、
「………サキサキさん?」
「なぁんでぇすぅかぁ? 滝しゃぁぁん!」
めちゃくちゃ酔っているサキサキさんがいた。
なんで、こんなに酔ってるの?
視線で聡太さんとゼロスさんに訴えかけると、2人はサキサキさんをここまで酔わせた犯人に視線を向ける。
2人の視線の先は、ワンスさんだった。
ワンスさんの周りには先程まで無かった、大量の缶が置いてあり、どうやらこれをワンスさんとサキサキさんで開けたらしい。
いやいや、サキサキさんハイペースで飲みすぎでしょ!
「滝しゃぁぁぁぁぁん」
床を這いずりながらこちらに近づいてくるサキサキさん。
手を伸ばし、俺の足を掴むと、
「横の椅子に座らせて! おーねーがーい!」
身体を引き寄せ、足にしがみついてくる。
ちょっ、当たってる、当たってる! いけないモノが当たってる!
「お願いぃ!」
サキサキさんはどうやら絡み酒のようで、人にベタベタ触ってくるタチの酒乱。
椅子に座りたがっているので、横の椅子を少し引いて「どうぞ」と声を掛ける。
「……こ」
「はい? なんて言いました?」
「っこ」
「もうちょい声を大きく」
「だから、抱っこしてって言ってるでしょ!」
………はい?
本日、2度目の思考停止。
未だに「抱っこしてよ!」「だっっこ!」と駄々をこねるサキサキさん。
うん、これは不味い。
何が不味いって、配信しているのが不味い。なので、
「今日はここまでにしたいと思います。アーカイブは残しません。サキサキさんは、この後記憶が残らないぐらいまで呑むと思うので、今日の配信の話はしないようにしてください。以上、終わり!」
俺はすぐさま配信を消し、アーカイブを消去した。
………サキサキさんに大量のお酒を呑ますのはやめよう。
俺は心に誓いを立てる。
そして、サキサキさんをここまで酔わした犯人にお灸を据えるのであった。
「待って、お願い! 違うの! 悪気はああああああああああああああああああああああああああああ!」
『来たな、裏切り者』
『やっとか。さあ、吐け!』
『罪を告白しなさい、異端者よ』
『罪状は死刑だが、素直に吐けば減刑しよう』
「わぁお。始まって直ぐなのに罪人扱い!」
高校生の絵茶さんがいたので、早めに切り上げ帰宅させ、俺は俺の家に帰ってきた。
そして、配信の時間になったので配信をしているわけだが、
「ええ、リスナーさんの皆さん。今日はですね、本当は夜配信を休むつもりだったのですが」
『はあ、許されるわけねぇだろ⁉︎』
『サキサキさんの服装、教えてくれるんじゃなかったの? なのに、休むつもりだったの?』
『異端者には火炙りの刑だよ? わかってる?』
『怒らせちゃまったな、オレらをヨォ!』
休む予定だったと伝えただけで、コメント欄は阿鼻叫喚。
リスナー諸君、話は最後まで聞こうね?
「まあまあ、怒らないの。んでね、休むつもりでいたんだけど、今日は要望でね、配信をすることにしました。ゲーム配信をするつもりでいたんだけど、雑談配信にしようかな、って思ってて、いいかな?」
『話す内容による』
『楽しかったんだ! みたいな事だったら、コメ欄荒らす』
『もう荒れてんだけどねw』
『サキサキさんの事だったり、絵茶さんの事だったら許す。それ以外は要らない』
欲望に忠実なリスナーさん達だ事。俺とか聡太さんのことは話すなってことだね。
俺は、というか俺たちは荒れているコメント欄を見ながら、1つのコメントを見つける。
『ってか、要望って何?』
ちゃんと俺の話を聞いていてくれたリスナーさんが質問してくれたので、その質問に答える。
「んで、要望って何なの? って話になるんだけど、要望の内容が、俺の枠で呑み雑談配信をしたいっていうモノなの」
これを言い出したのは、一美さんことワンスさん。
焼肉会をお開きにして店を出たとき、「まだ飲み足りないし、1番近くの人の家で宅飲みしよう」と、絵茶さんを除く皆に言ってきた。
『んん?』
『どゆこと?』
『リモート飲み会?』
「いや、リモートとかじゃなくて」
最初は酔っ払いの戯言だと無視しようとしたのだが、もう酔っ払い2人が、「よしゃ行こう!」と「滝の家が1番近い! 案内するぞぉ!」と迷惑千万なことを言い出し、そして結果、
「どうも~、ゼロス&ワンスのワンスです! 今、滝君の家にいまーす!」
『えっ!』
『マジ!』
『滝の家にみんないるの!』
『宅飲みかーい!』
俺が説明をしている途中で、1番酔っ払っているワンスさんが間に入ってくる。
「そうなんですよねぇ。家までついて「ほら、みんな自己紹介!」来ちゃったん「どうも! ゼロス&ワンスのゼロスです!」………まだ喋って「Souちゃんチャンネルの聡太でぇぇぇす!」あああ、入れなければよかった! 家に!」
俺の言葉を遮って自己紹介する酔っ払い2人。
今からでも遅くないかなぁ? 家から叩き出してもいいかなぁ?
酔っ払いの好き勝手な行動を体験して、家に入れたことを後悔する俺。後悔している間に、もう1人ゲストさんが自己紹介する。
「どうも、サキサキです。今日は滝くんの家で飲み会をしようって事で、参加してます!」
『ふぁ!』
『マジか!』
『ずるいぞ、滝!』
『サキサキさんが滝の家に!』
「成り行きなので文句は言わないように。サキサキさんだってコメント欄見てるからね」
これ以上コメント欄が荒れたら、流石に不味いような気がするので、リスナーさん達に釘を刺す。
『絵茶さんはいなんですか?』
『絵茶さんは?』
『絵茶さんハブなの?』
『マジで! 見損なったぞ」
「そんなわけあるか! 絵茶さんは家に帰らなきゃいけないようなので、家に着き次第、通話して飲み会をします」
リスナーさん達には高校生だと、言っていないらしいので、適当に誤魔化しておく。
なので、飲み会は絵茶さんの連絡待ち。その間は、配信者である我々で繋げなければいけ、
カシュ。カシュ。カシュ。
ん? 後ろから何かを開けた音が聞こえた………マジか。
『今、缶が空いて音が』
『飲み会は絵茶さんが来てからって言ってなかった?』
『今、、、な訳ないよな』
『流石にね。来てないのに飲んだりは』
「ぷはぁああ! うまいね、お酒!」
「ビールは何杯でも飲める。ワンスも俺もビールが1番好き!」
「滝、先に始めてるわ! 待ってられんかった」
………やりたい放題ですね、3人とも。
はぁ、さっきまでも呑んでいたのに、よく呑めるな?
二日酔いになっても知らんぞ!
ちなみにお酒はコンビニで大量に買って、俺の冷蔵庫にしまってある。おつまみも各自好きなものを買っており、俺もビーフジャーキーとチーカマを買った。
『滝は飲まんの?』
『滝はあまり飲まないって言ってた気がするけど、今回は飲む?』
『聡太さんは何呑んでますか?』
『サキサキさんはどんなおつまみが好きですか?』
コメント欄には様々な質問が寄せられており、俺がリスナーさん達の代弁者となる。
「今回はね、みんな呑むことにしてる。だから、俺もサワーを買って来ていて、呑むつもり。聡太さんが呑んでるのは………何呑んでんの、聡太さん?」
「俺? 俺はね、レモンサワーとビールと日本酒!」
「だって。んで、サキサキさんに質問なんですが、どんなおつまみが好きか? だって?」
どんどん質問が増えてく中、目に入った質問だけ代弁する。
「私ですか? 私は………裂けるチーズ的なものとか、オニギリとかですかね」
「へぇ、サキサキさんはオニギリなんだ! めっちゃ変っていうか珍しいね!」
酔っているせいなのか、ワンスさんの言葉がストレートすぎるような。
「そうですか? お米が好きなので、お米を食べながら呑んじゃいますね。ワンスさんもどうですか?」
「え、くれるの! ありがとう!」
サキサキさんがお酒のお供に買ったオニギリをワンスさんにあげる。
オニギリとお酒って合うのか?
俺も少し気になってきた。
コメント欄から目を離し、オニギリをお供にお酒を呑むワンスさんをマジマジと見る。
「………うん、お米が美味しく感じるかも! 濃い味のオニギリだからか、お酒に合う!」
絶賛の様子。
へぇ、合うのか。今度試してみよう。
ワンスさんからコメント欄に視線を戻し、質問を見てみる。
『滝さんとサキサキさんはお酒飲まないんですか?』
『今呑んでるの、誰?』
『ゼロスさんとワンスさんは何を食べてますか?』
「ええっと、今呑んでんのは「聡太さんとワンスさんとゼロスさんだけですね。私と滝くんはまだ呑んでません!」です」
コメント欄を見ていると、暇になったのか、サキサキさんが居間にあった椅子を持ってきて、隣に座り、一緒になってコメント欄を見ている。
「ここからは私も質問に答えていきます! 滝くんと一緒に答えれる質問を出来るだけ答えていきます!」
ちなみに俺とサキサキさんの距離は、ゼロ距離。肩が密着している状態。
焼肉行った帰りなのにいい匂いが………ううん、なんでもない、なんでもないからね!
邪念を取り払い、質問に答えていく。
『滝さんはいつ裁かれるのでしょうか?』
『サキサキさん、滝の横にいるの? やめた方がいいよ、臭いから!』
『バカが移っちゃうよ、サキサキさん!』
『シンプルに悪口で草。滝、臭!』
「あれ、質問より俺への罵倒が多くなってるような気がするんだが?」
「バカが移る………(チラッ)」
「何気にしてんすか? 移るのは俺の方だわ!」
「それって、私をバカ呼ばわりしてます?」
『滝有罪!』
『ビンタ!ビンタ!ビンタ!』
『バカはお前だ、滝!』
『サキサキさんに悪口って、ま!』
「ビンタコールやめい! あと、バカって言った方がバカなんだし………って、サキサキさん? 自分の手のひら見るのやめて貰っていいですか? ビンタはヤですよ?」
「いけ、やったれ、滝にビンタだ、サキサキさん!」
「そうだ、そうだ! 聡太さんの言った通り、やったれ!」
「聡太、ゼロスは黙っとれい! お前らを引っ叩くぞ!」
マジマジと俺の頬を見るサキサキさんに恐怖を覚える。
あなた、シラフですよね? 酔ってないのに、暴挙に出るんですか?
シラフなのに、その場のノリで行動しそうなんだよな、この人。話題を変えていこうかな。
「ええっと、なになに『滝の家にお宝はありますか?』何この質問?」
高い買い物はしない主義だし、服もブランド物買わんしな。お宝ていうほどのお宝はないぞ。
「お宝はありません。高価なものは買わない主義なので。1番の宝はこのPCとかじゃないかな?」
このPCだけで50万もする。これが壊れたら発狂ものだ。
なんて質問に答えていると、ワンスさんが2本目のビールを開け、質問の真意を教えてくれる。
「お宝ってエロ本か、アダルトグッズのことじゃなくて?」
「「「「………」」」」
エロ本? アダルトグッズ? 何それ、美味しいの?
ワンスさん以外、思考停止している。
コメント欄では『あっ』とか『そっち?』なんてコメントもあるが、『あるぞ、絶対』、『探したらあるよ。ベッドの横とか下とかに』などなど、割合的にいうと後者のコメントの方が多い。
ガタッ。
ワンスさんの問題発言から一拍置いて、サキサキさんが徐に立ち上がる。
余談なのだが、俺の配信環境は、寝室兼配信部屋となっているので、今、配信していて飲み会を開いている場所は、寝室兼配信部屋。
まあ、余談はさて置き、立ち上がったサキサキさんは、ある場所目指して歩こうとしている。
目線で気が付いたのだが、この女、独身男性のベッド漁ろうとしていないだろうか?
ベッドを漁られた所で、横にも下にも何もない。何もないから漁られても良い………とは行かない。
なので、
「座りなさい。サキサキさんよ、ここに座りなさい」
持ってきた椅子に座られようとする俺。しかし、サキサキさんはベッドにロックオンしており、尋常じゃない力で抵抗してくる。
ど、どうしよう! この人力強すぎ!
ベッドを絶対に漁られたくない俺は、サキサキさんを説得させるため、事実を伝える。
「ベッドには何もありませんから。エロ本1つもありませんから」
「………」
が、一向に力が緩まない。
「ちょ、助けて!」
後ろにいる酔っ払い共に助けを求めるが、
「キャハハハハ! ゼロス、服にお酒飲ませてんの?」
「大丈夫、零してない! 服が飲みたいって言ってたから、聡太さんと一緒に服に呑ませただけ」
「いや、俺は飲みミス。口がどこにあるか分からなくて零しただけ」
そして、
「「「キャハハハハハハハハハハハハハ!」」」
高笑いをし、こっちに見向きもしない。
く、クソゥ! 誰か、誰かいないのか!
救いを求める俺の声が天に届いたのか、サキサキさんのスマホに着信が来る。
「はい………えっちゃん! うん、うん。今からビデオ通話にするね!」
着信先は絵茶さんのようだ。サキサキさんは、スマホを持って、酔っ払い3人の方に向かっていく。
ふぅ。救いの女神は俺の近くにいたようだ。
女神絵茶、これからはあなたを信仰します。
『絵茶さんが来たか』
『絵茶さんの声聞きたい!』
『絵茶さんに質問したい』
『絵茶さんと結婚したい!』
「はいはい、興奮しないの。声は聞けるし、質問も出来るからちょっと待ってな。結婚は無理だから諦めろ」
絵茶さんの準備が整うまで少し待つ。
1人だけリモートなのだが、皆集まったので、絵茶さん次第で飲み会が始まる。
「えっちゃん準備良い?」
「うん、オーケイだよ!」
絵茶さんの準備が整ったので、
「じゃあ、みんな集まったので飲み会を開始したいと思います。乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
乾杯の音頭は俺が取り、飲み会を始める。
カシュ、カシュ、カシュ。
俺とサキサキさんのお酒、絵茶さんの缶ジュースの開ける音が配信に乗る。
「ってか、なんで3人は私がいないのに呑んでたの? 滝さんの配信見てたかんね?」
ちょっと不貞腐れている絵茶さん。
3人はそれぞれ絵茶さんに謝罪し、笑って誤魔化している。
絵茶さんの声がこちらに届いたので、リスナーさん達にも確認しとく。
「どう、リスナーさん達? 絵茶さんの声届いてる?」
すると、
『届いてはいるけど、何を喋ってるのか分からないくらい小さい』
『届いていないないの等しいぐらい小さい』
『ちゃんと声入ってない』
『スマホの通話だから聞こえない』
どうやらリスナーさん達には絵茶さんの声がちゃんと届いていないらしい。
それはリスナーさん達が可哀想なので、絵茶さんに1つお願いする。
「絵茶さん、PCの通話アプリ開ける? 配信に絵茶さんの声入ってないらしいんだ」
「あっ、いいですよ。ちょっと待ってな、滝!」
………呼び捨て? あれ、あの子缶ジュースの筈なんだけど、酔ってる?
呼び捨てにされて数秒後、通話アプリに着信が入る。どうやら絵茶さんから掛けてくれたようだ。
「どう? 私の声入ってる?」
「どう、リスナー達?」
『入ってる!』
『絵茶さんの声綺麗!』
『絵茶さん大好き!』
『絵茶さん、結婚して!』
どうやらちゃんと声が届いたらしい。
結婚結婚うるさい奴がいるが、もう触れないぞ。触れると調子に乗る奴らが出てくるからな。
さて、俺も久々のお酒を、ちびちびと呑んでいきますかな。
3ヶ月前に飲んだきり、一切お酒を呑んでいないので、身体に慣らすように、少しずつ呑んでいく。
うん、まあまあ上手いな。
お酒を飲みながら質問を見ると、
『絵茶さんは何飲んでますか』
『滝と聡太さんの出会いについて教えてください』
『ワンスさんとゼロスさんは恋人ですか?』
『女性陣の好きなタイプを教えてください。男性陣は結構です』
などと、珍しい質問がコメント欄に流れる。
まずは、
「絵茶さんは何を飲んでますか?」
「ファンタのグレープ! あとは机にあるのは、いちご牛乳とコーヒー牛乳」
簡単な質問から答えていく。
「ねぇ、滝さんってお酒強いの?」
「いや、全然。だから、絵茶さんのジュースが羨ましい。俺もそっちがいい」
ちなみにこの会話は、酔っ払い3人とサキサキさんにも聞こえている。サキサキさん達の方にはスマホのビデオ通話があるから。といっても、普通の声量で喋っているので、普通に聞こえるんだけどね。
「ええっと、俺と聡太さんの出会いか………聡太さん、覚えてます?」
「うな? ああ、あれは、なんだっけ?」
なんだっけ? なんでコラボしたんだっけ?
ううん、と唸りながら考えるが、思い出せない。思い出せないのは仕方ないので、
「思い出せません」
と、質問に答える。
「思い出したら喋るので、それまで待っててください」
今は思い出せない。でも、今後思い出すかもしれないので、話すのはその時にしてほしい。
んで、次は、
「ワンスさんとゼロスさんは恋人ですか、だって?」
俺らは知ってはいるが、勝手に喋っていいことではないので、ワンスさんとゼロスさんに聞く。
「ふふふ、実は爛れた関係なの」
何を言ってんの、ワンスさん? 配信中だよ?
「いや、違うね。幼馴染の方が面白いね」
ゼロスさん? 幼馴染の何が面白いの?
「いいや、ゼロスがご主人様で、私がメイドの関係」
「いや、大学の友人でそこから配信をするようになった関係」
「いいや」
「いや」
と、ごちゃごちゃ適当な関係性を述べているが、事実である夫婦ということは言っていない。
隠しているようなので何も言わない。
まだごちゃごちゃ言っているので、
「色々な関係性の2人なんだね? じゃあ、次」
ええっと、次は、
「女性陣の好きなタイプは何ですか、だって? 答えられる範囲で答えてください」
もちろん「男性陣は結構ですとの事」と男性陣に伝えとく。
最初に口を開いたには、まだごちゃごちゃ言っているワンスさん。
「私のタイプは! 一緒にお酒を飲んで、四六時中ハイテンションで、一日中馬鹿騒ぎできる男性! でも、ウザかったらぶっ飛ばすけど」
とまあ、ワンスさんはおっしゃっていますが、ワンスさんの視線はずっとゼロスさんに向けられているので、実際のタイプはゼロスさんみたいな人なんでしょう。
次は、リモートの絵茶さん。
「私は好きになった人がタイプです。あっでも、私の趣味を邪魔しない人もタイプかも」
へぇ、絵茶さんの事だから、もっと細かいのかなって思ってた。
女子高生って「こんな男嫌だ」とか「あんな男と付き合いたくない」とか、言ってそうじゃん? だから、結構理想が高いと勝手に思ってた。
まあ、タイプは人それぞれなんで、次行ってみましょう。
「サキサキさんのタイプは、どんな感じの人ですか?」
最後はサキサキさんなので話を振る。
「………」
「サキサキさん?」
「………ヒック」
しゃっくりの音が聞こえたような気が。
「ヒック、ヒック!」
いや、後ろの方から確実に聞こえる。
恐る恐る振り返ると、
「………サキサキさん?」
「なぁんでぇすぅかぁ? 滝しゃぁぁん!」
めちゃくちゃ酔っているサキサキさんがいた。
なんで、こんなに酔ってるの?
視線で聡太さんとゼロスさんに訴えかけると、2人はサキサキさんをここまで酔わせた犯人に視線を向ける。
2人の視線の先は、ワンスさんだった。
ワンスさんの周りには先程まで無かった、大量の缶が置いてあり、どうやらこれをワンスさんとサキサキさんで開けたらしい。
いやいや、サキサキさんハイペースで飲みすぎでしょ!
「滝しゃぁぁぁぁぁん」
床を這いずりながらこちらに近づいてくるサキサキさん。
手を伸ばし、俺の足を掴むと、
「横の椅子に座らせて! おーねーがーい!」
身体を引き寄せ、足にしがみついてくる。
ちょっ、当たってる、当たってる! いけないモノが当たってる!
「お願いぃ!」
サキサキさんはどうやら絡み酒のようで、人にベタベタ触ってくるタチの酒乱。
椅子に座りたがっているので、横の椅子を少し引いて「どうぞ」と声を掛ける。
「……こ」
「はい? なんて言いました?」
「っこ」
「もうちょい声を大きく」
「だから、抱っこしてって言ってるでしょ!」
………はい?
本日、2度目の思考停止。
未だに「抱っこしてよ!」「だっっこ!」と駄々をこねるサキサキさん。
うん、これは不味い。
何が不味いって、配信しているのが不味い。なので、
「今日はここまでにしたいと思います。アーカイブは残しません。サキサキさんは、この後記憶が残らないぐらいまで呑むと思うので、今日の配信の話はしないようにしてください。以上、終わり!」
俺はすぐさま配信を消し、アーカイブを消去した。
………サキサキさんに大量のお酒を呑ますのはやめよう。
俺は心に誓いを立てる。
そして、サキサキさんをここまで酔わした犯人にお灸を据えるのであった。
「待って、お願い! 違うの! 悪気はああああああああああああああああああああああああああああ!」
応援ありがとうございます!
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