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生配信21 二日酔いと佐々木さん

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 あの後、急に配信を終わらせた俺は、酔いに酔った佐々木さんに絡まれ続け、寝るまで絡まれ続けた。

 人のタンスを漁り出したり、PCの履歴を調べたり、いかがわしい物がないか家中を探索されたりと………はぁ、もう宅飲みはこりごり。

 しまいには、「私ここで寝ます!」と勝手にベッドで寝だす。

 勝手に行動したのは、佐々木さんだけでなく、一美さんと零さんもだ。

 酔っ払いの一美さんは「じゃあ私も」と言い、佐々木さんが寝ているベッドに潜り込み、寝だした。

 零さんは零さんで「一美の隣で寝たい」とベッドに潜り込もうとしていたので、首根っこ掴んで、客間に放り込む。

 零さん、酒入ると知能が低下して、バカになるらしい。

 と、まあ、俺の家に泊まったメンバーはこれで全員。

 聡太さんは、明日予定があるらしく、タクシーで自宅に帰っていった。

 家にいる泥酔3人組の面倒を押し付けられた俺は、客間零さん寝室兼配信部屋佐々木さん&一美さん に近いリビングのソファーで眠りにつく。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「——————くん」

「———滝くん」

 誰かが俺の名前を呼んでいる気がする。

 だが、昨日のお酒が残っているのか、まだ眠い。

「わた——はいし——使っていい?」

 眠すぎて何って言っているか聞き取れない。聞き取れないのだが、

「はい、分かりました。もう少し寝ます」

 と、適当にあしらっておく。どうせ「もう起きてください」とか何だろうし、あしらっても問題はない。

「じゃあ———しちゃいますね」

 何をする気なんだろう? 

 しかし、眠気が強すぎて頭が働かない。なので、まずは寝ることにした。

 寝た後、考えればいいや。

 こうして俺は寝てしまうのだが、寝てしまったことを後悔するのは、もう少し先。

「すぅ、すぅ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「んんんんん!」

 現在、時刻は10時43分。

 寝たのが5時過ぎなので、約6時間は寝た。

 6時間寝たおかげで、昨日のお酒は残ることなく、スッキリした状態で起床できた。

「はぁ、よく寝た。寝たはいいが、身体がバキバキ」

 慣れないソファーで寝たのが悪かったのか、身体の至る所が痛い。

 だがまあ、仕方ない。寝室には、佐々木さんと一美さんが寝てて、客室には零さんが寝ている。俺が寝れる場所は自ずとソファーになる。代償は大きいが、昨日は楽しめたので、良しとしとこう。

 起きた俺がまず行わなければいけないことは、零さんを起こすことだろう。

 寝室兼配信部屋は、女性2人が寝ているので、まずは男性1人の奴から起こす。

 俺は寝起きのフラついた足で客間に向かう。

 コンコン。

「零さん、入りますよ」

 自分の家だが、一応はノックをする。

 ノックをして入ると、零さんはまだ起きておらず、客間のベッドには山が出来ていた。

 零さんはどうやら寝る時、布団に潜って寝るらしい。

「零さん、零さん起きてください!」

 山に手をかけ、零さんの身体を揺らす。

 最初はゆっくりと。

「零さん、起きろ!」

 次第に激しく揺らしていき、最終的には、

「起きろ!」

 布団を剥いでいく。

 勢いよく剥ぎ取り、布団を床に投げ捨てる。すると、

「………はあ?」

 そこには思いも寄らない光景が目に入る。

「な、なんでここに、一美さんがいるの?」

 昨日の夜、いや、今朝方までこのベッドには零さんしかいなかったはず。なのに、俺の目には、一美さんが零さんの背中に抱きつき、寝ているの姿が写っている。

「っ、ぅぅうう。だぁれぇ?」

 布団を剥ぎ取った勢いで、一美さんが起きた。寝ぼけ眼で、こちらを見ている。

「お、おはようございます。ところで、なんで一美さんはこの部屋に?」

 寝室兼配信部屋で寝ていたはずなのでは?

「ぅぅぅぅうう、頭痛い。声のトーンもう少し落として」

 頭を押さえる一美さん。そりゃあ、あんだけ呑めば二日酔いにもなる。

 二日酔いの頭痛の痛さは俺も経験しているので、少しトーンを落として、もう1度聞く。

「どうしてここで寝てるんですか?」

 零さんはまだ起きない。

 この状況は、と頭が混乱している俺に答えを教えてくれる。

「ああ、深夜にトイレ行きたくなって、お花摘みに行ったら、零がどこで寝てるのか気になって、んでここ見つけて、零が気持ちよさそうに寝てたから、ここで寝ちゃった」

 瞼がまだ完全に開いてない状態で説明してくれる一美さん。

「なるほど」

 一応は理解した。

 てっきり、酒の勢いで行為に及んだのかと思ってしまった。もし及んでいたら、家から叩き出して一生出禁にする。

 昼前なのでそろそろ起きて欲しい俺は、一美さんと零さんを起こす。

 もちろん、起きた零さんも二日酔いで「気持ち悪いし、頭痛い」と嘆いていた。

 2人とも起きたので、まだ起きていないだろう佐々木さんを起こしにいく。

 ここは同じ女性の一美さんに起こしてもらうのが良いのでは? と、思うかもしれないが、それを彼女に伝えたら、

「滝君が起こしてあげてよ。私は、まだ動けそうにない」

 だそうだ。

 家族でもない女性、しかも独身の若い女性の寝顔を見る機会は今後訪れることはないだろうと思いながら、佐々木さんを起こしにいく。

 コンコン。

 寝室兼配信部屋のドアを叩き、起きているか確認する。すると、中から「はーい」と声が聞こえてくるではないか。

 もしかして、リビングのソファーで寝ていたから、部屋から出てこなかったのか? 気を使わせてしまったかな?

 なんて思いながらドアを開けると、佐々木さんはPCの前の椅子に座りながら、俺のヘッドホンを耳に付け、ケロッとした顔で、こちらを見ていた。

「な、何をしてるんですか?」

 この何をしているのですかは、ヘッドホンを耳に付けて何をしているのですか、という意味。

 その意味を理解したのか、佐々木さんは俺にこう答える。

「今、配信してます!」

 と。

 ……………?

 ………今なんと?

 ………配信してるって言った? 俺のPCを使って?

 んんん? 

 聞き間違いとかではなく、マジで?

 俺は確認するために、無言でPCへと近づいていく。

『滝登場』
『親フラではなく、滝フラか』
『滝裏山すぎる!』
『呪いの文面は聡太さんに!』

 どうやらマジのガチのようだ。

「滝くん、自己紹介!」

「あっ、すみません。どうも、このPCの持ち主のTakiチャンネルの滝です」

『昨日は凄かったね?』
『アーカイブに残してくれない?』
『アーカイブみたい!』
『抱っこ事件………滝裏山』

 目の前の光景が嘘であって欲しい。

「ええ、リスナーの皆さん、良かったら答えてくれないでしょうか? この配信は何時から始まっていて、何時間配信しているんでしょうか?」

 佐々木さんは、頭の中にが浮かんでいるのか、首を傾げながら、上目遣いでこちらを見ている。

 やめろ、そんな目で見るな。なんでも許してしまうだろう!

 俺の質問にサキサキリスナーが答えてくれる。

『まだ始まったばかりで、1時間』
『1時間ちょいかな』
『まだ1時間経ってないでしょ! 10時開始なんだから』
『43分前って書いてあるじゃん!』

 なるほど、10時開始か。

「ええ、皆さん、ちょっとサキサキさんをお借りしますね」

 俺はマイクをミュートにして、佐々木さんを問い詰める。

「何故、人のPCで配信を始めてるんですか?」

 いや、悪いわけではないんだけど、常識的に考えて、人の家で配信始めるにはどうなのかなっていう疑問。

 その質問に佐々木さんは、

「えっ? 私、許可取りましたよ! 滝くんに配信していいかって!」

 はあ? 

 俺、オーケー出した覚えなんて………いや待て。もしかして、

「寝ている俺に許可を取りました?」

「ピューピュピューピュー」
 
 吹けない口笛を吹いて、誤魔化そうとする佐々木さん。

 なるほど、あれは佐々木さんだったわけですね。しかも、誤魔化している時点で、確信犯というわけですか。

 読めてきたな佐々木さんの思考。

 多分、こうだ。

 佐々木さんは、9時かそれよりも前に起きて、暇を持て余していたのだろう。でも、俺と零さん、一美さんはまだ寝ている。

 最初の1時間ぐらいはスマホを弄って暇を解消していたが、次第にやることがなくなっていき、部屋の中を見渡し、暇を潰せるもの探す。

 しかし、部屋には何もなく、どうしようも無い。その時、目に入ったのは、配信の機材が揃ったPC。

 最初は躊躇いがあったものの、我慢できなくなった彼女は、寝ている俺に「配信していいですか?」と訊く。

 寝ている俺が適当に返事をするだろうと見込んで。

 案の定、何と言ったか分からないが、俺は佐々木さんに許可を出してしまい、今に至ると。

 何故、あのとき適当にあしらったのだろう。眠かったからだろうけど、ちゃんと話を聞いとけばよかった。

 そう後悔しながら、佐々木さんの方へと顔を向ける。

「………」

「………」

「………」

「………………すみません」

 沈黙の圧力に負け、佐々木さんが謝ってくる。

 申し訳なさそうにする佐々木さん。どうやら反省しているようなので、

「………………はぁ、今日だけですからね。ここで配信するの」

 配信する許可を改めて出す。

 あんな申し訳なさそうな顔を見てからでは、ダメとは言えない。

 二パァ、と明るい表情に変わる佐々木さんを見て、椅子へどうぞ、とジェスチャーをする。

 すぐさま椅子に座り出し、マイクのミュートを解除し、先程通り配信を続ける。

 佐々木さんに甘くないか、と言われたら甘いだろうな。でも、これが絵茶さんでも一美さんでも許したと思う。

 俺は女性には甘いのだ。だって、男だもん。

 配信の邪魔にならないように、俺は部屋から出て行く。

 配信、頑張ってください。

 そう、心の中でエールを送り、もう1度佐々木さんの方へ振り返る。

 ………あれ?

 振り返って気づいたが、佐々木さんの服装が昨日のとは別物になっていて、見覚えのある服装へと変化している。

 あれ、俺の服のような気がするのだが?

 マジマジと見ていると、視線に気付いたのか佐々木さんが振り返り、こちらにピースをしてくる。

 うん、あれは俺の服だね。

 あとで、しこたま説教してやろう。

 俺は心の中で誓いを立て、その場から去って行った

 
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