上 下
57 / 89

生配信22 買い物………いやだ

しおりを挟む
 昼配信が終わり、タバコを吸いたいので、サキサキさんこと佐々木さんには居間へ移動してもらう。

 すぅ、はぁ。

「………」

 すぅー、はぁ。

「………いつまであの人居んの?」

 昨日の夜から今日、もう16時だけど、佐々木さんはまだうちにいる。

 おかしいな? 聡太さんは昨日のうちに、零さんと一美さんは昼配信前に帰ったのに、佐々木さんは昼配信が終わったのに帰る支度すらしていない。

 帰る家無くなったのか? それとも家は1人で寂しいとか?

 そんな訳あるわけないよな。

 じゃあ、なんで帰らないのかなぁ?

 そんな事を考えながら、もう一口タバコを吸う。

 すぅ、はぁ。

 煙を吐き切ると、

「滝くん! 何か飲み物あったりする? 喉乾いちゃって!」

 居間の方から佐々木さんの声が飛んでくる。

「ああ、冷蔵庫の中にリンゴジュース入ってるんで、飲んでもいいですよ!」

「わかった!」

 トテトテと足音が聞こえてくる。

「佐々木さんって、事前の打ち合わせとかだと真面目スイッチ入るのに、それ以外の時はポンコツ自由人だよな」

 人のPC使って配信しようとか考えるし、人のしかも男の家でシャワーを浴びて服を勝手に拝借するし、危機感ってものが無いような気がする。

 それを佐々木さんの配信後に注意したところ、

『ええ? 滝くんは私を襲うんですか? そんな人には見えないんですけど………襲うの?』

 と、そうじゃない! 

 危機感を少しは持ちなさいって事なのに………まったく。

 まあそのあと、佐々木さんがシャワーを浴びていた事を知った一美さんが、しこたま怒ってたけどね。

 タバコ1本吸い終わり、吸い殻を処分してから、居間に戻る。

 居間では、冷蔵庫から取り出したであろうリンゴジュースをコップに入れ、ちょびちょびと飲む佐々木さんがいた。

 佐々木さんが座っているソファーの反対側に俺は座り、佐々木さんを見る。

「?」

 ちょびちょびと飲んでいる彼女に、今1番気になっている質問をぶつけてみる。

「家事とかは大丈夫ですかね」

 多分彼氏はいないだろうし、独身である佐々木さん。そんな人が彼女もいない独身の男性の家に長居するのは良くない、と思う。

 なので、遠回し的に「帰りなさい」と言ってみたところ、

「大丈夫!それに、ふふふ、まだ遊び足りないので、満足するまでは居続けますよ!」

 まだ帰らないと宣言された。

 帰る気はあるようなので、少し安心する。

「そうですか。なら、どうやったら帰ってくれるんですか? どうすれば満足するんですかね?」

 早く帰したい俺は、佐々木さんが帰るなら何でもする気でいる。なので、を聞いてみることにした。

「………そうですね」

 何も考えていなかったのだろう、今考え始めた佐々木さん。

 少し沈黙の間が開き、そして口が動く。

「私たち配信者はよく家に篭りがちじゃあないですか? 配信仕事をいつでも出来る様に。でも、篭りがちなのはイケナイ事だと私は考えているんですよ」

 確かに、1週間家の外に出ないってことはだ。長ければ2週間ぐらい人と会わないってこともある。

「滝くんの冷蔵庫を拝見したところ、飲み物はたくさん備蓄してあり、軽くつまめるような冷凍食品を沢山ありました。これは、家を出ない人特有の現象です」

 まあ、確かに、この前大量に冷凍食品を買い溜め、「これなら家を出なくても生きていけるな」って思いながら精算しました。

 でも、家を出る気がないわけじゃなくて、必要以上に出なくても良いようにしているだけで………ってか、うちの冷蔵庫の中身を確認したんだな、この人。

「滝くん、お外に出かけませんか? お外に出かけて一緒に遊びましょう! そうすれば、私も満足するし、滝くんの出不精も治ると思うんです!」

 うん、出不精では無いと思うんだけど。別に、外に出るのを面倒臭がっているわけじゃ無いし、配信のために家に居るだけだ………これが出不精なのか?

 ちょっと分からなくなってきた。

「お出かけしましょう? お出かけ! しないんだったら、もう1日ぐらい泊まりますよ?」

 脅しか? この人、今俺を脅したのか?

「………一美さんに電話」

「それはダメ! ダメったらダメ! また怒られちゃう!」

 でしょうね、怒られるでしょうね。ってか、もう1度くらい怒られてくれ。

 一美さんには『あんた、男の家のシャワーは使わない! それと、友達だからって男に気を抜かない! 約束しなさい!』って怒られてた。

 怒られてたのに、「もう1日くらい泊まりますよ」だよ? 

 もっと怒られてほしい。

 だが、まあ、佐々木さんの言っていることは理解できた。

 確かに篭りがちは良くない。冷凍食品で1週間の食生活も良くないわな。

 佐々木さんが居なかったら、多分俺は2週間は外に出ないだろう。

 よく考えた結果、俺が出した結論は、

「分かりました、お出かけしましょう」

 佐々木さんとお出かけついでに、食材を買おう。そんで、自炊をまた始めよう。

「良かった! じゃあ、まずは」

 佐々木さんはリンゴジュースを一気に飲み干して、こう言う。

「服を貸してください!」

 一旦、帰るという選択肢はないようだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 佐々木さんの要望に応えるため、渋谷に買い物に来たが、

「なぜ、絵茶さんがここにいる?」

「こん!」

 制服姿の絵茶さんが何故目の前にいる。

「えっちゃん、昨日ぶり!」

「お誘いありがとうね、サキちゃん!」

「いえいえ」

 会話と状況から察するに佐々木さんが絵茶さんを呼んだと。

 これなら俺要らなくないか?

 そう言葉にしようとした時、何故俺を連れてきたかが分かった。

「荷物持ち兼ボディーガードもいることだし、色々見て回ろうね! サキちゃん、なんか見たいものとかある?」

「服とか見たいかな? あとは化粧品とか」

 何を見るか話している女子達。

 ところで、荷物持ち兼ボディーガードって俺のことだろうか? 

 周りを見渡しても、彼女らの連れは俺のみってことは、俺がそうなんだろうな。

「ほら、行きますよ。滝くん、ちゃんとついて来てくださいね」

「今日は何を買おうかな!」

 貧乏くじを引かされた気分により、地面を眺めるように俯いていると、行き先が決まったのか、目的地まで歩き始める2人。

 俺は逃げる選択肢を選びたかったが、逃げないようになのか、2人が俺の左右に陣取り、歩くように指示を出してくる。

 ところで、巷で聞いたのだが、女性の買い物って滅茶苦茶に時間がかかるって本当なのだろうか?

 この後の買い物時間を想像するだけで………いや、なんでもない。

 俺は2人の指示に従い、歩き出す。

 歩き出した道は、断頭台への道とは知らずに。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
「滝くん、これどうですか? 似合いますかねぇ?」

「滝さん、これ可愛くない⁉︎ でも、この色とこの色どっちが私に似合うと思う?」

「滝くん、この帽子」

「滝さん、この靴」

「滝くん!」「滝さん!」

「滝くん」「滝さん」

「滝くん」「滝さん」

 ………いっそ殺してくれ。

 俺に服や帽子、靴の感想を求めてくる佐々木さんと絵茶さん。

 いやいや、女性の服についてなんか何一つ分からないんだよ? そんな感想聞かれても無理だから!

 だからと言って、感想を述べなければ、応えるまで聞いてくるのがこの2人。

 ええ、答えましたとも。2人の意思を読み取り、無難な答えを。

 あちこちと見て周り、買い物に付き合うこと2時間。あんだけ試着やら店員に質問をしといて、買った物は2、3点のみ。

 まだこれが続くのか………地獄だな。

 このあとは、化粧品売り場に行く予定らしい。

 はあ、買い物に付き合うなんて言わなければ良かった。佐々木さんを叩き出して、強制的に帰らせれば良かった。

 後悔先に立たず。過去に戻れたら、「お出かけしましょう」と言った自分を殴り飛ばしてやりたい。

 その後も買い物は続き、荷物持ち兼ボディーガードは息を吐く暇すらなかった。

「もう、この2人の買い物になんて付き合わない」

 俺はボソッと呟き、最初で最後の買い物に付き合うのであった。

「今度は下着でも見にいこうか!」

「いいね、可愛い下着があったら買っちゃおう!」

「滝くん、下着にも感想くださいね?」

「誰がするか!」

 このバカが!

 
 
 


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

そうして、誰かの一冊に。

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

改悛者の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:89

令嬢司書は冷酷な王子の腕の中

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:71

スキルクリエイトは灰色の空の下で

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

表と裏と狭間の世界

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

メイキング「ちょっと待ってお姉様、親友と浮気した旦那とそのまま続けるおつもり? 」

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:13

遠い遠い西の果てブハイルの湖にて

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

「想像」と「創造」で異世界無人島開拓

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:28

海の中の真珠

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

れおぽん短編集

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...