上 下
72 / 89

生配信27 お届け物です Part3

しおりを挟む
「すげぇえええ! たけぇえええ!」

 27階の部屋から眺められる、この景色。

 人が蟻のようだ、とかいう敵キャラの気持ちが少し分かる。

 あと、アニメとか漫画で、タワマンに住んでる人の性格がちょっとな感じなのも分かる。

 この景色を常日頃から見てたら、性格が捻じ曲がっちゃうよ。

「佐々木さんもこの景色見ながら、『フッ。ホント、人ってゴミみたい』とか言ってん」

「言うわけないでしょ!」

 バシッ、と後頭部を叩かれる。

 冗談じゃん………冗談。

 馬鹿なことを言っていたら「馬鹿なこと言ってないで座ったらどうですか?」とソファへ勧められる。

 ソファに座ると、テーブルにお茶が置かれ、なんだかんだいって歓迎してくれている。

 お茶を少し飲み、ふぅとひと息をつき、

「まずはこれをお返しします」

 送られてきたケチャップ7本をお返しする。

「ええ! 全てあげますよ。プレゼントです!」

「ケチャップ10本もいるか!」

 そう言うと渋々であるが、彼女は受け取る。

 小声で「………プレゼントなのに」と言うが、迷惑以外の何でもない。

 俺の用事はこれで終了。あとは帰るだけなのだが、

「幾つか質問したいことがあるんだけど」

 ここに来て、聞きたいことが出来たので聞いていいのか尋ねる。

「………セクハラは駄目ですよ⁉︎」

 誰がするか!

 彼女の言葉は無視して、質問する。

 まずは、1番聞きたいことから。

「このマンション………借りてるんですよね?」

「ん? そうですけど」

 やはりそうだよな。じゃなかったら、佐々木さんが住んでるわけないよね。

 ここにきて、登録者数の格差が身に染みて分かる。

「佐々木さんの登録者数、今何万人ぐらいでしたっけ?」

「今は39万人ですね。あと少しで40万人行くんですよ!」

 おほほほほ、俺と2倍の差があるわけですか!

 なるほど、40万人行けば俺もこんなマンションに住めるわけですね。

 とはいえ、まずは。

「おめでとうございます。まだ早いかもしれないですけど、40万人達成、自分のことのように嬉しいです」

「ああ、どうも。………ありがとうございます」

 面と向かってお祝いの言葉を言われ、照れ臭そうにする。

 俺より配信人生は短く、俺より登録者数は多い、佐々木さん。

 すぅー、羨ましい!

 いいな、いいなぁああ!

 俺も早く40万人いきたいよ。

 リスナーさん達に「滝の配信いつも面白い」とか「滝の配信無いと死んじゃう」みたいな、信者みたいなリスナーさん達を生み出してぇえええ!

 見てくれるリスナーさん達には悪いけど、今のリスナーさん達、信者と言うよりかは悪魔だもんな。

 言いてぇ。「ウチのリスナーさん達はみんな良い子なんです」って。

 俺が言えるとしたら、「ゴミみたいな意見は聡太さんのTwitterへ」ぐらいだもんな。

 いつか必ず言えるように、リスナーさん達を洗脳するか。

 そう目標を立て、心の声を終わりにする。

 それからは世間話をしてから、本題を聞く。

「この部屋、幾らぐらいしたんですか?」っと。

 すると、意外な答えは返ってきた。

「ああ。ここですか? さあ? 分からないです。父が過保護すぎて、セキュリティの高い場所を借りてくれて、それがここなんですよ。だから、分からないです」

「ああ」

「私のお給料じゃあ無理ですよ、ここ」

 おう………おう?

 じゃあ、何か?

 40万人でもタワマンに住めないと。

 なるほど、なるほど………ぐすん。

 夢が壊れた。

 タワマンに住む夢は崩れて、現実の厳しさを味わっていると、

「そういえば、これ、お返しします」

 そう言って、渡されたのは、俺のシャツだった。

「ああ、あの時の」

 佐々木さんが俺の家で配信をしたあの日に、勝手に借りていたシャツ。

 洗って、アイロンも掛けて、畳んでくれたみたい。

「ありがとうございます」

 そう言い、受け取る。

 受け取って、違和感を覚える。

 畳んでくれてはいるんだけど、畳み方がなんか変。

 ただの違和感、勘なのだけれども、

「ねぇ、佐々木さん? シャツに何か」

 佐々木さんの顔を見て訊くと………目が合わない。

「ねぇ、佐々木さん? なんでこっち見てくれないの?」

「え? ああ、寝違えてたんですよ。いたたたた」

 さっきまで目と目合って話してなのにね?

 流石の可笑しさに、シャツを広げてみると、

「⁉︎………??????」

 意味が分からない。

 胸元に大きな穴が開いており、なっている。

「な、なにが」

「えっ、元からこんなんじゃあ無いでしたって?」

 引きちった笑顔を向けながら、馬鹿みたいなことを言う。

「元から。なるほど。でも、これを佐々木さんが着たら、胸見えちゃいますよね? そんな格好で帰ったんでしたっけ?」

「えっ、セクハラですか?」

「えっ、切ったんですか?」

 見るからに切られた跡がある。

「………元から」

「じゃあ、着ますか? これ」

「……………すみません。嘘言いました」

「でしょうね。何があったんですか?」

 どうやら、アイロンで焦がしてしまったらしい。そのあとパニクって、「切ればバレないでしょう」って思ったらしいんだと。

 おいおいおいおい。俺は、そこまで馬鹿じゃ無いぞ?

 弁償すると言う彼女だが、たかが1枚のシャツ。

 要らない、と優しく断る。

 あと、アイロンの使い方を説明してあげる。

 こうして時間が過ぎていき、もうそろそろ帰らなくてはいけない時間。

「じゃあ、自分はここで」

 部屋の間取りとか見たかったが、なにぶん女性の部屋。まじまじと見るのは失礼。

 これは今度の機会にしておこう。

 外まで見送りすると言うので、玄関まででいいと言い、俺はドアに手をかける。

「あっ、そうだった」

 1つ言っておかなければいけないことがあった。

「ケチャップ、1人で使いきれないでしょう? 絵茶さんとかに、佐々木さんの家の住所教えといた。そろそろ来る頃だから、あげればいいんじゃない?」

「えっ?」

 俺は佐々木さんが機能停止しているうちに玄関から出て、直ぐに下の階へと降りる。

「おっ! 27階に佐々木さんの部屋があるからのんびりしていきなよ」

「滝さん、帰るの?」

「まあ、ね。配信仕事があるから」

 オートロックのドアをどう開けたのか、ロビーでJKに会う。

「あっ、どうも!」

「滝君、今帰り?」

「そうなんですよ。じゃあ、失礼します」

 オートロックのドアを抜けると、人妻が。

 女性の部屋って事で、男性陣は遠慮したっぽいな。

 俺は、駐車していた車に乗り込み。自宅へと帰る。

 今日の昼配信は、何をするかな。

 

 



 
しおりを挟む

処理中です...