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生配信30 病み上がり配信 part3

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『桃鉄』では目的地に1番遠いプレイヤーにという名の貧乏神が取り憑く。

 そしてこのメンバーの中で1番遠いのは、何を隠そうこの俺である。

『貧乏神にボンビーが取り憑いた』
『滝、そのまま借金地獄になれ』
『所持金マイナスになれ!』
『てか、マジで全然進んでなくて草』

 リスナーさん達の言う通り、マジで進んでない。合計で6マスしか進んでないので、ほぼスタート地点。

 なので、次の目的地は近い場所がいい。

 そう望むのだが、

「今度は北を目指さなきゃいけないのか」

 次の目的地は札幌。

 ううん、遠い!

「サキちゃんがさっきゴールしたから、わたし始まりか」

 俺の2マス先にいる絵茶さん。

 ちょっと交渉をしてみよう。

「ねぇ、絵茶さん? 俺の列車に憑いてるボンビーを貰ってくれたらさ、ハーゲンダッツ買ってあげるんだけどな」

『うわ』
『買収』
『物で釣るとか』
『汚い男だ』

 なんとでも言うがいい。

 勝つためには手段を選ばない。それが配信者なのですよ。

「………ハーゲンダッツ10個ならいいけど?」

「10⁉︎ せめて、3個とかには」

「ふっ、じゃあな! 1人で地獄に行くがいい!」

 サイコロを振るう絵茶さん。

 ヤバい、逃げられる。

 コロン、コロン、ピトッ。

「………」

「………」

 出た出目数は2。

 追いつけるレベルしか進んでいない。

 そして、今度は俺の番。

 コロン、コロン、ピトッ。

「………」

「………」

 ここにきて出目数が6になる。

「滝さん、あのね? さっきの言ったことは取り消すよ。それでね、ものは相談なんだけど、何でもするから反対方向に進んでくれない?」

 上目遣いで唇を少し尖らせながら、可愛く言われる。

 が、先程も言った通り配信者は勝つためには手段を選ばない。

「ふっ、無理無理無理! 絶対擦りつけてやるよぉおおおおんだ!」

「くんなよ、くんじゃねぇよ! チッ、バカああああああ!」

 俺の列車は、絵茶さんの列車を1マス分越し、ボンビーという名の厄災を絵茶さんに擦りつける。

「どうせ1マスなんだし、滝に戻ってくるけどな」

 聡太さん、そんなこと言ってると全力で擦り付けに行きますよ?

 聡太さんはボンビーの擦り付け合いを見ながらサイコロを振るう。

 出目数はいつも中途半端。今は4の面を出す。

「今回は俺が1番近いな」

 確かに現状聡太さんが1番近い。が、まだ幸運を持った女がいる。

「よし、今回も6出てくれ!」

 そうサキサキさんが望むと、ゲームの神様が細工をしてくれる。

「6だ! すぐに追いつきますからね!」

 来た道を戻ってくるサキサキさん。

 どうにかあの人にボンビーを捧げたい。

 そんでもって、絶望を味わせたい。

 確か、サキサキさんが淡路島に行った道って1本道だったような。

 あっ、良いこと思いついた。

 そして、絵茶さんの番で俺にボンビーを擦りつけ、少しでも遠くに逃げてい行く。

「よいしょっと」

 俺、サキサキさんが通るであろう道に向かって少しずつ進んでいく。

 嫌がらせをするのに対価は払ったが。

 所持金にマイナスの表記が現れ、借金が1億円ほどに。

 その状態にリスナーさん達は歓喜のコメントを送ってくる。

『ざまあ!』
『雑魚乙』
『そのまま借金まみれになれ!』
『見たことのないほどの借金をボンビー様』

 それからターンは過ぎていき、5ターンほどで絵茶さんの列車と対面する。

「あの、そこに居られると邪魔なんですけど」

「え? 通ればいいじゃない。気にしなくていいよ?」

 相変わらず6ばかりを出すサキサキさん。所持金だって8億を超えている。

 片や俺は、1ばかり出て、ボンビーのせいで所持金マイナス10億。

 なので、

「サキサキさん、お願いします。ボンビーを受け取ってください!」

「嫌です!」

 嫌ですか。仕方ないですね。

「じゃあ、ここは通らない方法を考えてください」

「最低ですよ、このサディストめ!」

 なんとでも言いなさい。

 俺は何と言われても気にしない。

 サキサキさんは俺を越して行かないとゴールへは辿り着けない。

 ただ、通り越したらもれなくボンビーまで付いてくる。

 一応他のメンバーに、今からでも付けられないか考えたのだが、流石に無理そう。

 聡太さんは順調に進んでいき、あと13マス程度で目的地に着く。

 絵茶さんは、さっきから「何で1と2しか出てこないの!」と独り言を言っている。これでボンビーなんて付けたら、あとで何されるか分からん。

 なので、

「さあ、サキサキさん来なさい!」

「ううう、仕方ない。ボンビーを貰って、最速で誰かにくっ付ける」

 サキサキさんの番。

 もちろん、サイコロの目は6。

「よしゃ、ボンビー消えた!」

『このまま聡太さんがゴールしたら、また憑かれるけどな』
『こいつ、今のことしか考えてないよな』
『それにしても6ですぎじゃない?』
『マジの強運』

 いいの、いいの。

 サキサキさんはこれから地獄みたいな数字を叩き出すんだから。

 だって、サイコロの目が6しか出ないんでしょ?

 なら、ボンビーの悪行結構引っかかるんじゃないの?

「ああああ! 6000万持ってかれた!」

 ほらね。

 この後、聡太さんがゴールして1番遠い俺にまたボンビーが付くのは分かっていた。

 ボンビーのおかげで所持金が3億ぐらい減り、ちょっとヘコんでいるサキサキさん。

 絵茶さんは楽しめているのかなって心配したんだけど、たまたま絵茶さんの目の前の駅が目的地になり、即ゴールなんて事もあり、楽しめているようだ。

 配信時間が3時間を過ぎてきたので、今日の『桃鉄』配信はここまでにしようと思う。

 それをメンバーとリスナーさん達に伝え、俺は配信を閉じた。

「んで、続きはいつやります?」

「明後日あたり暇だな、俺は」

「私も合わせます」

「今度こそ1以外の面を出すからな!」

 まだ『桃鉄』の醍醐味であるが出てきていないのに、『桃鉄』配信をやらないなんて選択肢は取れない。

 明後日の『桃鉄』配信楽しみだな。

 この後、熱が上がりぶっ倒れました。

 

 

 







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