C×C 〜クラウンxクラウン〜

九月生

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 昼休みは購買に向かい、残り僅かになったパンを購入する。

 昼休みになった今、生徒は教室か食堂で昼食を食べるのが普通だろう。

 俺と京介も例外ではない。

 と言っても、俺らは自分達の教室ではなく空き教室で食べているが。

「ああ、確かニュースで行方不明者の名前と出身地を言ってた気がする」

 朝、少し気になっていたことを訊ねると、京介は思い出したかの様に答えた。

「各地方から色んな理由で東京方面に来てたんだってよ。例えば」

 ある人物は、長崎から友人を訪ねに東京駅を利用し行方不明に。

 またある人物は、仕事先が東京にあるらしく、埼玉県から出勤中に行方不明に。

 またある人物は、放課後に友達と遊んでいる最中に迷子になり行方不明に。

「俺が覚えてるのはこんくらいかな?」

 理由は様々で、年齢層もバラバラだった。

「だから、警察も困ってるらしいぜ。家出ではないし、事件性はなく誘拐の線もないらしい」

 話を聞きながら最後の一口を食べ切る。

「じゃあ、分かっている事は東京駅で行方不明になったことぐらいか」

「あん。まあ、無事に見つかれば良いよな。家族とか友人とかさ、心配してるだろうし」

「そうだな」

 被害者達とは何の関係もなく赤の他人なのだが、無事に見つかり、心配してくれている人達の元に戻って欲しい。

 こんな現実離れした事件は起きて欲しくはなし、ましてや自分と関わった人達には無関係でいて欲しい。

「………」

「………」

 若干暗い空気になり、話を変えようとすると空き教室のドアが開く。

「あなた達………1年生?」

 ドアを開けたのは2年の先輩だった。

「あっ、あははははは」

 笑って誤魔化そうとする京介。

 俺と京介がいつも使っている教室は、2年生の教室がある階にある。

 つまり、この空き教室も2年の教室なのだ。

「青色の上履きだし、1年生よね? なんでここに居るの?」

 この学校は学年によって色分けがされている。

 1年生が青。2年生が赤で、3年生が緑。

 上履きやネクタイピンの色で判別ができ、この先輩は上履きを見て、俺らが1年生だと気づいた。

 どうしよう、という顔をする京介に任せると墓穴を掘る可能性が高いので、

「すみません。友人に相談しようにも、1年の階では空き教室がなく、空き教室を探していたら2年生の階まで来てしまって」

 今度からここは使えないな。

「………本当に?」

 先輩は疑いの目を向けるが、明日から来なければ大丈夫。この話が本当のことだと信じるだろう。

「お邪魔だったのなら直ぐに帰ります」

 京介はそそくさと、昼食のゴミを片付ける。

「………はあ、別に邪魔じゃないわ。というよりも私が邪魔しちゃったみたいね。ごめんなさい」

 そう言い、何処かに行こうとする先輩の手には参考書が握られていた。

「勉強ですか?」

「ん? ああ、まあね。教室だとちょっと騒がしいのよ」

 苦笑い浮かべる先輩。

 どうやら邪魔なのは俺らしい。

「どうぞ、もう相談はし終わったので。勉強頑張ってください」

 俺と京介はゴミを捨て、先輩に空き教室を譲り、2年生の階から立ち去る。

「ごめんなさいね! ありがとう!」

 後ろから聞こえる声に、振り返り頭を下げる。

 その足で教室に戻り、俺の席にて話の続きをする。

「これじゃあ東京駅には近づけないな」

「行方不明者の件もそうだし、遺体の件も東京駅だしな」

「犯人が見つかってくれれば良いんだけどな」

「見当もついてないんだろ。時間が掛かるな」

 警察が全力で捜査に当たっているので、容疑者が見つかれば直ぐに収束はするとは思う。

 日本の警察は優秀だから。

「ああ、なんか良いことねぇかな? 世の中は物騒だし、学校ではネックレス取られるし………ああ!」

 急に大声を上げて立ち上がるものだから、クラスメイトが驚いてこっちを見ている。

「慎二、スマホ置いてきた」

 ウチの学校ではスマホの持ち込むは禁止されてないが、使うことは禁止されている。

 まあ、教師の目の前で使ったところで、注意を受けるだけなのだが。

「どこに」

「空き教室」

 あの場にスマホを持って来ていたのか。

「今なら間に合う。取りに行くぞ」

 昼休みが終わるまで、あと10分ある。

 余裕で間に合うが、急ぐに越したことはない。

 2年の階に歩きながら向かい、いつもの様に空き教室に入ろうとすると、

「ちょ、ちょっと待ってよ! どういうことなの!」

 ドア越しに声が聞こえる。

 先程の先輩だろう。

 ドアを少し開けて、中の様子を伺う。

「誰と電話してんだ?」

「さあ?」

 先輩は焦っているのか、ウロウロウロウロと動き回りながら電話をしていた。

 今入るには間違いだろう。

 電話が終わるまで待つしかない。

 待っている間、俺と京介は聞く気はなかったが聞こえてくる会話を耳にする。

「だって、だって! あの子はで降りたりしないじゃない! 何かの間違いよ!」

 東京駅って言ったか?

 俺と京介はお互いに顔を見合わせる。

「ええ、東京駅に着いた瞬間にいなくなった⁉︎ どういう………降りたわけじゃないのに、人に目の前で消えた⁉︎ あり得るわけないじゃない!」

 かなり焦っている様子。それだけでなく、今にも倒れそうな顔色をしている。

「そんな、ハアハアハア。あり得るわけ、ハアハアハア。あの子が」

 ふらっ。

 バンっ!

「大丈夫ですか、先輩!」

 フラつくのを見た俺と京介は、教室のドアを勢いよく開け、倒れそうになる先輩の身体を支える。

『ミキ、ミキ! どうしたの!』

 先輩のスマホからは、女性の声が。

 多分、先輩の母親だろう。

 過呼吸している先輩の代わりに、返事をする。

「すみません。先輩はどうやら体調が悪くなり倒れてしまったので、これから保健室に運びます。迎えには来られますか?」

『すぐに向かわせます!』

 この言い方だと、母親は来れないのだろう。

「京介!」

「分かってますよ!」

 京介はと呼ばれていた先輩を抱き抱えだきかかえ、空き教室から出て行く。

 俺も後を追うがその前に、

「これで全てか?」

 京介のスマホと先輩の荷物を持ち、置き忘れがないか確認をする。

 そして後を追った。

 

 

 






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