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第1章 死の予言
4話
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「任務は2つじゃ」
校長室の天井から吊るされた天体模型が、風もないのにキラキラ揺れて光った。
「赤き月が昇る日は、今から1ヶ月後。ちょうど金星と月が重なる満月の日だが、それまでに予言に示されたルビー、エメラルド、サファイヤ、ダイヤモンド、アメジストを持つ魔法使いを見つけて来るのが、お前たちの任務じゃ。我々はすべての資格ある者を試し、予言の6人を決定しなければならない。予言に示された若き魔法使いとは、18歳の子どもたちのことをさしておる。18は、魔法使いとしての真価が問われる試しの歳じゃからな」
天体模型は、猿飛校長の指の動きに合わせてクルクルと天井を旋回した。
あずき色の山高帽をかぶった、初老の桜坂教頭が、校長のあとを引き継いで話し始めた。
「猿飛校長はすでに、他の魔法学校と連絡を取り合い、18歳の各属性最上位の石を持つ者、すなわち、ルビー、エメラルド、サファイヤ、ダイヤモンド、アメジストを持つ生徒をダイナモン魔法学校に呼び寄せているところです。ただ1つ問題が……」
「問題?」
「あなたたち、東京都内にある聖ベラドンナ女学園のことを知っていますか?」
桜坂教頭の言葉に、空が反応した。
「流和が転校していった学校だ!」
空の目が輝き、熱を帯びる。
それを隣で見ていた、吏紀と朱雀が一瞬、口元をゆるめた。
だが、校長室にいる多くの重役たちの目を気にしながら、吏紀がすぐに咳払いした。
「彼女が恋しいか、空」
「そうだな、少し。……アイツ手紙もよこさないで、どうしてるだろう」
空が溜め息をつき、物思いに沈んで俯いた。
「めでたい奴だ、うんざりするな」
朱雀が空の脛を蹴った。
「イテ、何するんだお前」
「現実の世界に引き戻してやったんだろうが、礼を言え」
「やめろ、朱雀、空」
ゴホンッ
空、朱雀、吏紀が小声で言い争いを始めたので、桜坂教頭が大きな咳払いをし、鋭い目で3人を睨んだ。
「いいですか、あなたたち。聖ベラドンナ女学園は、厳密にはモアブの魔法界とは切り離された日本政府側の学校です。そのため、この件に関して、魔法界が聖ベラドンナ女学園に協力を求めるのが困難な状況にあるのです」
「魔法使のデキソコナイが通う学校で、生徒の中には人間とのハーフもいるとか……純血の魔法使いではないのですから、あそこは予言とは関係ないのではないですか」
美空が棘のある口調で言った。
桜坂先生が深く頷く。
「そうですね。デキソコナイという言い方は良くありませんが、確かにそうです。しかし、予言の魔法使いが聖ベラドンナ女学園にいない、とも限らないため、あなたたち5人に、直接、聖ベラドンナ女学園に行ってもらいたいのです」
「……。」
朱雀、空、吏紀、そして美空と聖羅。5人が5人とも、顔を見合わせて嫌な顔をした。
桜坂教頭は構わず話を続けた。
「もし、最上位の石を持つ魔法使いがいたなら、それがどんな者であろうと、ダイナモンに連れ帰るのです」
「と、いうことは、流和は決定だな。アイツはダイナモンを退学したけど、サファイヤを持つ水の魔法使いだ」
他の4人は完全に口を閉ざしていたが、空だけは事態を良い方向に考えたいようだった。
「そしてもう一つの重大な目的は、よく聞きなさいね、それは聖ベラドンナ女学園の図書室にあります。あそこの図書室には初代ゲイルのかけた強力な魔法がかかっており、そこにゲイルの予言の書が隠されているのです」
「……、え?」
「何ですって!?」
「嘘だろ……」
「面倒だな」
「一体、どうして? ゲイルの予言書は、代々、魔法のハープと一緒に『時の賢者ゲイル』が継承するのだと思っていました」
吏紀の言葉に、時の賢者ゲイルはおだやかに首を振った。
「ゲイルの予言書はアストラが封印されたときに初めて初代ゲイルが造り出したものじゃ。以来その書は初代ゲイルが定めた場所に置かれ、その場所から移動されることなく、ずっと守られてきた。魔法のハープとゲイルの予言書は対になっており、ハープが予言を歌うと、その歌は予言の書にも書き記されることになっておる。じゃが、それは同時に、予言書を手にした者がハープの歌の予言を覆すことができる、ということを意味するのじゃ。
なぜ、初代ゲイルがあの場所に予言書を置くことにしたのか、ワシにも今は悟ることができぬが、我々は予言を書き換えるために、あの予言書をどうしても手に入れなければならないのじゃよ」
「そうです。我々は、何としてもゲイルの予言の書を手に入れる必要があるのです。邪悪な魔法使いたちと戦うためにね」
桜坂教頭が念を押す。
猿飛校長が、円卓の上に両手を広げて言った。
「皆、よく聞くのじゃ。闇の魔法使いがこのことを知れば、必ずゲイルの予言書を手に入れようとするじゃろう。ゲイルの予言書がベラドンナに隠されているということは、今我々の前で初めて明らかにされたことじゃ。他言無用、誰にも話してはならぬぞ。では、みな手を前に出すのじゃ」
朱雀たち5人は、校長の言葉に従って円卓の上にそれぞれ片手を出した。
「高円寺朱雀、 東雲空、 九門吏紀、 暁 美空、そして月影聖羅。そなたら5人を聖ベラドンナ女学園に遣わす。最上位の石を持つ者を見極め、ダイナモンに連れ帰れ。同時に、聖ベラドンナ女学園の図書室に隠されているゲイルの予言書を持ち帰れ」
猿飛校長がフーっと息を吹き出すと、校長の両手から流れ星が飛び散って、5人の手の項に吸いこまれた。
こうして、朱雀たち5人の手の項にはそれぞれ、星型の痣が刻まれた。
「その星は、お前たちに任務の完了を教えてくれる。印が消えた時、お前たちは任務を全うしてダイナモンに帰って来ることが許されるのじゃ。時間はあまりないぞよ、皆、心してかかれ」
「はい」
「準備を整え、今夜、出発します」
猿飛 業校長の命令に逆らえる者はいない。
扉が開かれ、朱雀たち5人はそろって胸に手をあて、お辞儀すると、足早に校長室を後にした。
朱雀たちが立ち去った後、残された大人たちが、それぞれに険しい表情で唸り声を上げた。
「猿飛校長、なぜ、あの子たちに話さなかったのですか」
桜坂教頭が、先ほど生徒たちの前で見せていた凛とした態度とは一転して、震える声で校長に詰め寄った。
そのとき、賢者ゲイルの腕の中で、ハープが再び歌いだした。
――光の衣を着ているようでも、その裾の黒い者が彼らのすぐ近くに潜んでいる。裏切り者だ、裏切り者だ。
こうして魔女は復活し、立ち向かう者は必ず死の淵に追いやられる。
魔女の封印には命の代償を。
最初にサファイヤが消え、次にエメラルドが欠ける。
ダイヤモンドとアメジストは大地に倒れ、起きあがれない。
最初のルビーは光を失い、最後のルビーは黄泉に下る。
彼らは二度と戻ることはないだろう。
これは、復活した魔女に立ち向かう者は必ず死ぬという、不吉な予言だった。
「魔法のハープは、無意味に予言の秘密を隠したりはしないものじゃ。だが、ハープがあの子らの前で語らなかったということは、あるいは、あの5人の中に裏切り者がいるのか……。あるいは単に、死の予言を子どもらに聞かせたくなかっただけなのか……。いづれにしろ時がくれば、明らかになるじゃろう」
優しくハープを撫でながらそう語るゲイルの言葉を、大人たちは黙って聞いていた。
魔力が衰退しているこの時代に、古の魔女と命をかけて戦わなければならない若い子どもたちがいる。
皆それを思うと、不憫でならなかった。
魔法界の命運が18歳の子どもたちの手にかかっているのだ。
「可哀そうに……」
桜坂教頭が、ローブの裾で涙をぬぐった。
猿飛校長が教頭の肩をたたき、天井の天体模型を見上げた。
「死なせたりはしない。ワシらも共に戦い、皆でこの災いを乗り越えるのじゃ。あの子たちならきっと、やってくれるはずじゃ」
偉大な光の魔法使い、光属性最上位の石、ダイヤモンドを持つ猿飛校長が力強く重役たちを見回した。
猿飛校長のダイヤモンドの輝きは、皆を力づける希望の光だ。
校長室の天井から吊るされた天体模型が、風もないのにキラキラ揺れて光った。
「赤き月が昇る日は、今から1ヶ月後。ちょうど金星と月が重なる満月の日だが、それまでに予言に示されたルビー、エメラルド、サファイヤ、ダイヤモンド、アメジストを持つ魔法使いを見つけて来るのが、お前たちの任務じゃ。我々はすべての資格ある者を試し、予言の6人を決定しなければならない。予言に示された若き魔法使いとは、18歳の子どもたちのことをさしておる。18は、魔法使いとしての真価が問われる試しの歳じゃからな」
天体模型は、猿飛校長の指の動きに合わせてクルクルと天井を旋回した。
あずき色の山高帽をかぶった、初老の桜坂教頭が、校長のあとを引き継いで話し始めた。
「猿飛校長はすでに、他の魔法学校と連絡を取り合い、18歳の各属性最上位の石を持つ者、すなわち、ルビー、エメラルド、サファイヤ、ダイヤモンド、アメジストを持つ生徒をダイナモン魔法学校に呼び寄せているところです。ただ1つ問題が……」
「問題?」
「あなたたち、東京都内にある聖ベラドンナ女学園のことを知っていますか?」
桜坂教頭の言葉に、空が反応した。
「流和が転校していった学校だ!」
空の目が輝き、熱を帯びる。
それを隣で見ていた、吏紀と朱雀が一瞬、口元をゆるめた。
だが、校長室にいる多くの重役たちの目を気にしながら、吏紀がすぐに咳払いした。
「彼女が恋しいか、空」
「そうだな、少し。……アイツ手紙もよこさないで、どうしてるだろう」
空が溜め息をつき、物思いに沈んで俯いた。
「めでたい奴だ、うんざりするな」
朱雀が空の脛を蹴った。
「イテ、何するんだお前」
「現実の世界に引き戻してやったんだろうが、礼を言え」
「やめろ、朱雀、空」
ゴホンッ
空、朱雀、吏紀が小声で言い争いを始めたので、桜坂教頭が大きな咳払いをし、鋭い目で3人を睨んだ。
「いいですか、あなたたち。聖ベラドンナ女学園は、厳密にはモアブの魔法界とは切り離された日本政府側の学校です。そのため、この件に関して、魔法界が聖ベラドンナ女学園に協力を求めるのが困難な状況にあるのです」
「魔法使のデキソコナイが通う学校で、生徒の中には人間とのハーフもいるとか……純血の魔法使いではないのですから、あそこは予言とは関係ないのではないですか」
美空が棘のある口調で言った。
桜坂先生が深く頷く。
「そうですね。デキソコナイという言い方は良くありませんが、確かにそうです。しかし、予言の魔法使いが聖ベラドンナ女学園にいない、とも限らないため、あなたたち5人に、直接、聖ベラドンナ女学園に行ってもらいたいのです」
「……。」
朱雀、空、吏紀、そして美空と聖羅。5人が5人とも、顔を見合わせて嫌な顔をした。
桜坂教頭は構わず話を続けた。
「もし、最上位の石を持つ魔法使いがいたなら、それがどんな者であろうと、ダイナモンに連れ帰るのです」
「と、いうことは、流和は決定だな。アイツはダイナモンを退学したけど、サファイヤを持つ水の魔法使いだ」
他の4人は完全に口を閉ざしていたが、空だけは事態を良い方向に考えたいようだった。
「そしてもう一つの重大な目的は、よく聞きなさいね、それは聖ベラドンナ女学園の図書室にあります。あそこの図書室には初代ゲイルのかけた強力な魔法がかかっており、そこにゲイルの予言の書が隠されているのです」
「……、え?」
「何ですって!?」
「嘘だろ……」
「面倒だな」
「一体、どうして? ゲイルの予言書は、代々、魔法のハープと一緒に『時の賢者ゲイル』が継承するのだと思っていました」
吏紀の言葉に、時の賢者ゲイルはおだやかに首を振った。
「ゲイルの予言書はアストラが封印されたときに初めて初代ゲイルが造り出したものじゃ。以来その書は初代ゲイルが定めた場所に置かれ、その場所から移動されることなく、ずっと守られてきた。魔法のハープとゲイルの予言書は対になっており、ハープが予言を歌うと、その歌は予言の書にも書き記されることになっておる。じゃが、それは同時に、予言書を手にした者がハープの歌の予言を覆すことができる、ということを意味するのじゃ。
なぜ、初代ゲイルがあの場所に予言書を置くことにしたのか、ワシにも今は悟ることができぬが、我々は予言を書き換えるために、あの予言書をどうしても手に入れなければならないのじゃよ」
「そうです。我々は、何としてもゲイルの予言の書を手に入れる必要があるのです。邪悪な魔法使いたちと戦うためにね」
桜坂教頭が念を押す。
猿飛校長が、円卓の上に両手を広げて言った。
「皆、よく聞くのじゃ。闇の魔法使いがこのことを知れば、必ずゲイルの予言書を手に入れようとするじゃろう。ゲイルの予言書がベラドンナに隠されているということは、今我々の前で初めて明らかにされたことじゃ。他言無用、誰にも話してはならぬぞ。では、みな手を前に出すのじゃ」
朱雀たち5人は、校長の言葉に従って円卓の上にそれぞれ片手を出した。
「高円寺朱雀、 東雲空、 九門吏紀、 暁 美空、そして月影聖羅。そなたら5人を聖ベラドンナ女学園に遣わす。最上位の石を持つ者を見極め、ダイナモンに連れ帰れ。同時に、聖ベラドンナ女学園の図書室に隠されているゲイルの予言書を持ち帰れ」
猿飛校長がフーっと息を吹き出すと、校長の両手から流れ星が飛び散って、5人の手の項に吸いこまれた。
こうして、朱雀たち5人の手の項にはそれぞれ、星型の痣が刻まれた。
「その星は、お前たちに任務の完了を教えてくれる。印が消えた時、お前たちは任務を全うしてダイナモンに帰って来ることが許されるのじゃ。時間はあまりないぞよ、皆、心してかかれ」
「はい」
「準備を整え、今夜、出発します」
猿飛 業校長の命令に逆らえる者はいない。
扉が開かれ、朱雀たち5人はそろって胸に手をあて、お辞儀すると、足早に校長室を後にした。
朱雀たちが立ち去った後、残された大人たちが、それぞれに険しい表情で唸り声を上げた。
「猿飛校長、なぜ、あの子たちに話さなかったのですか」
桜坂教頭が、先ほど生徒たちの前で見せていた凛とした態度とは一転して、震える声で校長に詰め寄った。
そのとき、賢者ゲイルの腕の中で、ハープが再び歌いだした。
――光の衣を着ているようでも、その裾の黒い者が彼らのすぐ近くに潜んでいる。裏切り者だ、裏切り者だ。
こうして魔女は復活し、立ち向かう者は必ず死の淵に追いやられる。
魔女の封印には命の代償を。
最初にサファイヤが消え、次にエメラルドが欠ける。
ダイヤモンドとアメジストは大地に倒れ、起きあがれない。
最初のルビーは光を失い、最後のルビーは黄泉に下る。
彼らは二度と戻ることはないだろう。
これは、復活した魔女に立ち向かう者は必ず死ぬという、不吉な予言だった。
「魔法のハープは、無意味に予言の秘密を隠したりはしないものじゃ。だが、ハープがあの子らの前で語らなかったということは、あるいは、あの5人の中に裏切り者がいるのか……。あるいは単に、死の予言を子どもらに聞かせたくなかっただけなのか……。いづれにしろ時がくれば、明らかになるじゃろう」
優しくハープを撫でながらそう語るゲイルの言葉を、大人たちは黙って聞いていた。
魔力が衰退しているこの時代に、古の魔女と命をかけて戦わなければならない若い子どもたちがいる。
皆それを思うと、不憫でならなかった。
魔法界の命運が18歳の子どもたちの手にかかっているのだ。
「可哀そうに……」
桜坂教頭が、ローブの裾で涙をぬぐった。
猿飛校長が教頭の肩をたたき、天井の天体模型を見上げた。
「死なせたりはしない。ワシらも共に戦い、皆でこの災いを乗り越えるのじゃ。あの子たちならきっと、やってくれるはずじゃ」
偉大な光の魔法使い、光属性最上位の石、ダイヤモンドを持つ猿飛校長が力強く重役たちを見回した。
猿飛校長のダイヤモンドの輝きは、皆を力づける希望の光だ。
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