月夜にまたたく魔法の意思

ag_harukawa

文字の大きさ
7 / 134
第2章 聖ベラドンナ女学園

3話

しおりを挟む
 次の日の朝、聖ベラドンナ女学園は突然の留学生たちの話でもちきりだった。
聖ベラドンナ女学園の生徒たちの目当ては、もっぱらダイナモン魔法学校からやって来た3人の男子生徒だ。
3人ともタイプは違うが、かなりの好男子だという噂だ。



「どうして女子高に共学の生徒が来るのよ、おかしくない?」

 図書館の裏庭で流和に紅茶を入れてもらいながら、優が口を尖らせた。
この裏庭は、優たちの云わば避難場所だ。
優と流和は、こうして今朝も授業をボイコットしている。

「魔法学校って、一体どうなってるわけ? いきなり過ぎてこっちは大迷惑よ」

留学生がやって来たからと言って、別に優だけが特別に困ることはないはずだったが、優の悲嘆ぶりは甚だしかった。
まるで自分の敷地を部外者に取り上げられた地主のようだ。

 優の話を聞きながら、流和は自分のティーカップにも紅茶を注いで、テーブルについた。
「問題は、あいつらが何をしにベラドンナに来たかってことね。ダイナモンみたいなエリート思考の学校が、わざわざ聖ベラドンナに留学生を出すなんて、絶対にあり得ないことだもの、優、砂糖は?」
「留学生の子たちには図書室を利用しないで欲しいな・・・・・・。 いる、大目にして」
「一体何のために、誰がやって来たのかしらね。まあ、誰が来たとしても私は会いたくないけど。 2杯?」
「大切な本を返却してくれなかったら困るもん、絶対ダメよ。 3杯、ミルクも」
「はいはい」

 流和は優のティーカップに砂糖を入れながら、3杯目で手を止めた。

「って、優、砂糖入れすぎ。これじゃ甘過ぎて紅茶本来の旨みが・・・・・・いえ、それ以前に体に悪いと思うわ。私の話聞いてる?」
「甘い方が好きなんだもん。ミルクを入れて中和すれば大丈夫なんだよ。それより、留学生が来ている間は図書室を閉館にしようかって考えてるの」

 流和は優の望み通りに砂糖とミルクを入れると、ティーカップを優に差し出して言った。
「図書委員の権限で、そこまで出来るの?」
「うん、できる」
「ずっと?」
「ずっと」
「ダイナモンの生徒は、2週間はこっちにいるらしいわよ。その間ずっと図書室を閉館に?」
「もともと、うちの図書室を利用する生徒はほとんどいないもん。本の修復作業や、蔵書整理をするってことにすれば、2週間くらいならできるはず」

優と流和は、庭に並べられたテーブルに向き合って座り、ゆっくり、熱い紅茶をすすった。
そして二人同時に、深く息を吐く。


「さて、ここからが本題」
と、優はティーカップの飲み口を指先で拭い、真っすぐ流和を見つめた。

「流和、ダイナモンの生徒がどうして来たか、全然、心当たりないの?」
「想像もできないわ」
「私には分かるよ。流和を連れ戻しに来たんだ、って」
「まさか、あり得ないわよ! 私は魔法界を捨てた臆病者よ、誰も私のことなんか、今さら必要としてない。それに、ダイナモンからわざわざベラドンナに生徒がやって来るのはやっぱり、どう考えてもおかしいの。優も知ってるでしょ? 魔法界と人間との間には深い傷と、ひずみがあるって・・・・・・。」


「うん」
優は流和の言葉に、ティーカップを両手に包みこんだままうつむいた。

 むしろ、優がその犠牲者だった。優の両親は3年前、ちょうど優が聖ベラドンナ女学園に入学する直前に、魔法界の人間に殺されたのだ。
原因はとても些細なことだった。――気に入らないから。
優の父親は、ガーネットの石を持つ力の弱い魔法使いだった。
人間と結婚した優の父親は魔法界を追われ、ある日魔法使いたちと喧嘩を起こして、あっさり死んでしまった。母親を巻き添えにして。
そんなつもりはなかった、と、両親を殺した魔法使いは言ったそうだ。あんなに簡単に死んでしまうとは思わなかった、と。

 優はそのときから、黄色いスキーゴーグルをかけるようになった。
魔法使いとして生きることをやめたのだ。
もともと、優の母親は人間で、魔法使いだったのは優の父親の方だけだ。
魔法界では、人間と魔法使いのハーフはデキソコナイとみなされる。人間の血が混ざった優は、それだけで汚れた存在なのだ。
たとえ優が、どんなに強力な力を持つシュコロボビッツだとしても・・・・・・優にはもう、その力は使えない。

魔力封じのスキーゴーグルは、年月をかけて持ち主の魔力を奪い取る。


「どうしても来なければならない理由があるとすれば、何かただ事じゃない、とっても重大なことが起こってるんだわ」

 流和の話を、優は上の空で聞いていた。
ダイナモンの生徒とは関わり合いたくなかった。きっと、気に入らない、という理由だけで人を殺すような連中だろう。

そのとき、永久が髪を振り乱して、二人のいる裏庭に駆けこんできた。

「あ! やっぱり二人ともここにいた! また授業をサボって、飛行術の羽村先生がご立腹だったわよ」
永久はそう言うと、優と流和と一緒のテーブルに座り込み、グッタリと項垂れた。

「永久ったら、髪がぐちゃぐちゃじゃないの、一体どうしたの?」
優が、まるで台風にでもあったような永久の頭を撫でた。
永久の亜麻色の長い髪が、優の手で少しずつ整えられていく。

 それを見ていた流和が、口をはさむ。
「優、人のこと言えないでしょ? あなたの髪だって、まるで炎を絵に描いたように逆立ってボサボサよ。さては今朝、髪を梳かしてないでしょ」
「違うよ、これはクセ毛なの。梳かしたって意味ないの、この髪はね」
「ほらやっぱり、梳かしてないんじゃないの」

「二人はいいわね、お気楽で。私なんか、もう絶望的よ」
「だから、一体どうしたのよ永久?」
「どうにもこうにも、飛べなかったのよ。また、飛べなかった・・・・・・先生が、明日の補修で飛べなかったら落第させるって言うの」
「ああ、飛行術ね」
「簡単に言うけど、クラスで1ミリだって宙に浮けないのは、私だけなの! とても恥ずかしいわ」
永久は涙ぐみ、両手で顔を覆って、本当にオイオイと泣き始めた。


「ちょっとちょっと永久、泣くことないわよ」
「そうよ永久、きっと飛べるはずだわ」
優と流和が励ます。だが、永久は嗚咽を漏らしながら激しく頭を振った。

「飛べないわ! 今日、言われたの。お前はデキソコナイだから、飛べるはずない、って、人間だから無理だって・・・・・・」

永久の言葉に、流和が顔を強張らせた。
「誰がそんなことを言ったの?」

「今朝やって来た、留学生たちよ。飛行術の授業で、笑われたわ、私が飛べないのに飛ぼうとしてぴょんぴょん跳ねるのが、馬鹿みたいだって!」
「なんて酷い! 最低の奴ら!」
流和がテーブルを拳で叩いた。

「でも、おかしいね。永久が飛べないはずないんだけどな」
と、優が紅茶をすすりながら言った。その鼻の下にクリームがついている。

「今日の放課後、練習する? コツさえ掴めばきっとすぐ、飛べるようになるよ」
優の言葉に、永久が、涙目の顔を上げた。
「いいの? 優」
「クリームついてるわよ」
「いいよ」

カラスが、カーと、1回鳴いた。


優、流和、永久が話の途中で同時に楓の木を見上げた。

「何なの、あのカラス、こっちを見てるみたい」
「あれは山烏だわ。都会には普通、あまりいないはずだけど・・・・・・」
「ふーん、流和がカラスのことに詳しかったなんて、意外」
「別に詳しいわけじゃないわよ、ちょっと、知ってるだけ」

そう言って流和は、警戒するように辺りを見回した。

「どうしたの?」
「何でもない」
「そうだ、言い忘れてたけど、飛行術の羽村先生が、流和と優に伝えておけって。二人とも、明日は私と一緒に補習授業でテストだって。」
「テスト? 何の」
「天井から吊り下げられてるリンゴを、杖を使わないで取るのよ。できなかったら落第だって」
「そのリンゴはもらえるわけ?」
「さあ、知らないわよ優、午後の授業は出るんでしょ?」
「出ないよ。生理なの」
「はあ!? ダメよそんなの」
「だって、午後は天文学と占星術でしょ、退屈すぎてサブイボが出ちゃうよ。それに私、占いは信じない主義なの」

「それ前にも聞いた。もう、優は・・・・・・」
「放っておきなさいよ永久、優にはいくら言ってもダメなんだから」
「うん、でも、もったいないと思うな。才能があるのに、魔法を使わないなんて。じゃ、後でね」
「うん、後で」
永久だけが、次の授業に行くため、足早に薔薇園を出て行った。



優には才能がある。
永久だけじゃなく、確かに、流和もそう感じていた。

流和がダイナモン魔法学校を退学して、聖ベラドンナ女学園にやって来た時、優には今よりももっと魔力があった。
だから、優が魔力封じのゴーグルをかけていても、流和には優がシュコロボビッツであることがすぐに分かった。
伝説のシュコロボビッツだ。
聖ベラドンナ女学園は、はっきり言ってまともな魔法使いが通う学校ではないと思っていた。
だから流和は優に出会った時、本当に驚いたものだ。
正当な魔法使いになるために、ダイナモン魔法学校に行くべきだと勧めると、優はこんなことを言った。
――どうして人は魔法使いになるの? どうして魔法使いには人とは違う力があるの?
人よりも力があるから、弱い人間を傷つけたり、殺したりするんだよ。
それなら、私には、こんな力はいらないよ。


流和はあのとき、優に何も答えることができなかった。

才能だけじゃダメなんだ。魔法は心で動かすものだから。
どんなに才能や魔力があっても、優の心がそれを拒むなら、魔法は使えない。
そればかりか、今のように魔力封じのゴーグルをかけ続けていれば、優の魔力は完全に消えて無くなってしまうだろう。


カー。

カラスがまた、一声鳴いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

処理中です...