月夜にまたたく魔法の意思

ag_harukawa

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第7章 戦え、生きるために。

7話

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 次の日の早朝。前日と同じようにイチジク寮の一室にやって来た朱雀は、三回ノックをすると返事を待たずに中に入って来た。

「あんたはまた! 性懲りもなく何しに来たわけ? 勝手に入って来ないでって言ってるでしょう! 優なら……」

 朱雀は流和を退けて真っすぐに応接間を横切りながら空中から燃えるマグマの杖を取り出すと、優の部屋のドアを開けて中に入って行った。

「杖なんか出してなんのつもりよ!」
 流和が金切り声を上げる。
 だが、中に優がいないのを知って、朱雀が少し驚いた顔をしながら出て来た。

「あいつはどこだ」
「……わーお、すごい。ごらんなさい、永久」
 朱雀の問いには答えず、流和が一変、面白そうに永久を振りかえる。
「本当、優の言った通りになったね。優の魔力探知防止魔法は成功みたい」
 奥のテーブルに座って優雅にアールグレイティーを飲んでいた永久が言った。

「何のことだ、説明しろ。優はどこだ」
「優ならドラゴンの飼育をするために、今朝早くから西のドラゴン小屋に行ってるわよ。ドラゴン飼育員としての仕事が今日から始まったの」
「でも、あいつの魔力はここに……」
「そう、だからそれが、『魔力探知防止魔法』なわけ。魔力探知能力で居場所を突き止める朱雀を回避するために、昨日の夜、優が部屋にかけたのよ。まるでその部屋に優がいるみたいに感じるでしょう? その魔法を使えば、自分の存在感を相手に悟られないようにすることができ、尚且つ、別の場所にさも自分が存在するかのように能力者に感じさせることが出来る。実際、あんたも今優が部屋にいるって思って来たんでしょう、朱雀」

「……なるほどな」
 朱雀は手の中で杖を回転させて、それを宙にしまった。
「早朝訓練のためにせっかく起こしに来てやったのに、肩すかしを喰らわせるとは……」
「起こしに来た、って、さっきの杖で? まるで戦闘でもするような勢いだったじゃないの」
 と、流和が朱雀をねめつける。

「それはアイツの寝起きが極端に悪いからだ。こちらも身を守らないといけないからな。実際、俺は昨日、噛まれたんだぞ?」
 朱雀は古傷をかばうような仕草で自分の腕に反対の手をあてがうと、心底嫌気がさしたと言わんばかりに溜め息を吐いた。

「で、あいつはまたなんで、魔力探知防止魔法なんてものを思いついたんだ。そんなことをされると困る」
「あのねえ朱雀、誰かにずっと自分の居場所を知られていて、いつも付きまとわれている感じがするのは、嫌なものなのよ」
「人をストーカーみたいに言うな。付きまとってないぞ。だいたい、居場所が分かるのはお互い様だろうが。アイツだって炎の魔法使いなんだから、俺の居場所をいつも無意識に感じ取っているはずだ」
「ああ、そう。それはお互いに大変ね。とにかく、優は飼育係の仕事で今朝は戻らないわ。八時に食堂で待ち合わせているから、用があるならその時に直接、優に言うといいわよ朱雀」
 流和に言われ、朱雀は不機嫌に応接室の出口に向かって歩いて行った。
「まったく、ただでさえ手に余るのに、ブックを手に入れた途端にコレだ。なんて嫌味な女なんだ」
「あ、ちょっと待って朱雀」
「なんだ!」
 ドアノブに手をかけたところで流和に引きとめられ、朱雀が苛立ちを隠さずに立ち止まる。

「優にダンスのパートナーを申し込むつもりよね?」
「何だよ唐突に。だったら何だ。空と同じことを聞くな」
「もしも優に申し込むつもりなら、少し待ってあげて」
「はあ?」
 待ってあげて、と言われ、朱雀は首をかしげて流和を振りかえった。普通はなるべく早く意中の相手に申し込み、他の生徒に取られないようにするからだ。
「……意味が分からない」
「優は、ダンスのパートナーを申し込んでもらうために、手作りのお菓子を作る気なのよ。今日中に図書館に行って、お菓子作りの本を借りるって言ってたから、結構張り切っていると思うのね。だから、」
 流和が最後まで言う前に、朱雀が遮って言った。
「何でそんなことをする必要があるんだ? アイツがそんなことのためにお菓子を作るなんて、『可笑し』な話だ。フン」
「笑いごとじゃないのよ」
「だから、そんな物を作る必要はないって言えよ。だいたいアイツは料理が苦手だろう」
 朱雀は薬草学の授業で優がヘルニアの薬を上手く調合できなかった様を間近で見ていたので、優の料理の腕にも大方の察しがついていた。薬を上手く調合できない女子はだいたい料理も下手くそだと相場は決まっている。
 流和は溜め息混じりに栗色の髪をかき上げると、片手を腰に当てて朱雀を見上げて言った。
「優はね、自分から何もしなければ朱雀からダンスのパートナーを申し込んでもらえない、って思ってるのよ。だからあの子なりにダンスに誘ってもらえるように努力しよう、って思ったみたい」
「それというのも、朱雀くんが優に意地悪ばかりするからよ」
 と、遠くの方から永久が口を挟んでくる。

「だから優の気持ちをくんで、優がお菓子を作って、それをアンタに届けるまでは、ダンスの申し込みをしないで待ってあげて欲しいの」
「いやだ……お菓子なんて食いたくない」
「優がアンタのために作るのよ?! 邪険にして突き返したら、承知しないから!」
「この際、毒でも盛るつもりなんじゃないのか」
「ねえ朱雀、お願いだから真面目に聞いて。優はとっても舞踏会に行きたがってる。優が誰かのためにお菓子を作るなんて言い出したのは、今回が初めてのことなのよ。その乙女心をわかってあげてちょうだい」

 にわかには信じがたい話だったが、あの優がお菓子を作る? しかも自分のために。
 そんな物を作ってもらわなくたって、朱雀は最初から優にダンスのパートナーを申し込むつもりでいたので、心境は複雑だ。
 だがしかし、流和に説得されて、朱雀はしぶしぶ承諾した。
 優がお菓子を届けるまでダンスの申し込みを待つ。そして朱雀は優が作ったお菓子を「ありがとう」と言って受け取り、美味しそうに食べる。それから優にダンスの申し込みをする。それが流和からキツク指示されたシナリオだ。

「面倒な話だな」

 女子寮からの道を男子寮に向かって帰りながら、朱雀はそう呟いたのだが、それでもその口角は嬉しそうに上がっていた。
 優がお菓子を作るなんて……。可笑しな話だ。
 朱雀はそんな優をちょっと、可愛いと思った。
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