双子西遊記 ~愛と教えの物語~

猩々

文字の大きさ
15 / 26

第15話 三蔵の道徳教育

しおりを挟む
 十四歳になった三蔵は、一人で村を散策していたところ、燃え盛る家屋を見つけた。
 中に取り残された子供の泣き声が聞こえる。

「誰か助けて!」

 瞬間、三蔵は躊躇なく炎の中に飛び込んだ。

 煙で視界が悪く、熱で息が苦しい。

 それでも三蔵は、必死に子供を探した。

 ようやく子供を見つけ、抱きかかえて外に出た時、三蔵の手は火傷を負い、煙で咳き込んでいた。

「三蔵!」

 孫悟空が駆け寄ってきた。

 子供は無事だったが、三蔵の怪我を見て孫悟空の顔は青ざめた。

「馬鹿野郎!何を考えているんだっ!」

 孫悟空は珍しく三蔵に怒鳴った。

「なぜ俺たちに声をかけなかった!」

 三蔵は、うつむいた。

「子供が危険だったので……急いで」

「急いでも、一人で突っ込む必要はない!」

 孫悟空の声は、怒りと心配が入り混じっていた。

「お前が死んだら、その子供はどうなる?誰が天竺への旅を続ける?お前一人の命じゃないんだぞ!」

 三蔵は孫悟空に背負われて宿に戻った。自分で歩けるからと断ろうとすると、また怒られた。

 猪八戒が手当てをする。

「三蔵様、痛みの具合はいかがですか」

「八戒先生……すみません、心配をおかけして」

 猪八戒は、優しく微笑んだ。

「実は、僕にも似たような経験があります。昔、幼い主人を守ろうとして、無謀な行動を取ったことが」

 猪八戒は、思い出を語り始めた。

「彼女が川で溺れかけた時、僕は泳げないのに飛び込みました。結果として、彼女と僕、両方とも危険な目に遭いました。悟浄に助けられて、二人とも無事でしたが……」

 それ以来、猪八戒は川遊びに慎重になったのだった。

「もし悟浄がいなかったら、僕の無謀さで彼女を道連れにしていたかもしれません」

「その時、主人に言われました」

 猪八戒は続けた。

「『八戒の命も、儂にとって大切なのじゃ』と」

「僕は、彼女を助けたい一心でしたが、自分の命を軽んじることで、彼女を悲しませていたのです」

 三蔵は、孫悟空が怒った顔を思い出した。

「本当の思いやりとは、相手のために自分を犠牲にすることではありません」

 猪八戒は、穏やかに説明した。

「自分も相手も、共に幸せになる方法を考えることです。今日の件も、悟空殿に声をかけて一緒に助けに行けば、子供も助かり、あなたも怪我をしなかった。…それが、本当の思いやりではないでしょうか」

 沙悟浄が三蔵に話しかけた。

「三蔵、お前の行動パターンが分かってきた」

「パターン……ですか?」

「ああ。お前は、他人のためなら自分がどうなってもいいと考える傾向がある」

 沙悟浄は、率直に指摘した。

「それは一見美しい行為に見えるが、実は問題がある」

「どんな問題ですか?」

「自己犠牲的な行動は、時として相手のためにならない」

「どういうことですか?」

「例えば、今回の件」

 沙悟浄は具体例を挙げた。

「お前が重傷を負っていたら、その子供はどう感じる?『自分のせいで法師様が』と、一生罪悪感を抱くかもしれない。それは、その子にとって幸せなことか?」

 三蔵は、考え込んだ。

「……そうか。僕の行動が、逆に相手を苦しめることもあるんですね」

 夜、孫悟空が三蔵のもとにやってきた。

「三蔵、怒鳴ってすまなかった」

「いえ、悟空が怒るのも当然です」

 三蔵は、素直に謝った。

 孫悟空は、重い口調で語り始めた。

「昔、俺の部下にお前のように優しい奴がいた。いつも他の者のために、自分を犠牲にしていた。ある日、そいつは仲間を助けようとして……命を落とした」

 孫悟空の拳が、わずかに震えた。

「お前の無謀な行動を見ていると、あの時の記憶が蘇る」

 三蔵は、涙を浮かべた。

「ごめんなさい、悟空」

「僕は、自分のことばかり考えていました」

「みんなの気持ちを、全然考えていなかった」

 猪八戒が三蔵を慰めた。

「あなたの優しさは、決して間違っていません。他人を思いやる心は、とても大切です。ただ、バランスが必要なのです」

 沙悟浄が付け加えた。

「自分も大切にしながら、他人も大切にする。それが、健全な関係というものだ。一方的な犠牲は、長続きしないし、相手も負担に感じる」

「まず、冷静に状況を判断すること」

 孫悟空が話した。

「緊急事態でも、一呼吸置いて考える。一人で解決しようとせず、仲間に相談する」

 猪八戒が続けた。

「自分にできること、できないことを見極める。無理をしないで、適切な方法を選ぶことです」

 沙悟浄が締めくくった。

「そして、自分の安全も確保した上で、他人を助ける。それが、本当に相手のためになる助け方だ」

 三蔵は、深く頷いた。

 数日後、三蔵たちは別の村で困っている人に出会った。

 老人が重い荷物を運ぼうとして、倒れそうになっている。

「悟空、八戒先生、悟浄先生」

 三蔵は、まず仲間に声をかけた。

「あの老人を助けたいのですが、どうしましょう」

 孫悟空が頷いた。

「まず、老人の状態を確認しよう。そして、荷物の中身と重さを把握する。それから、適切な手伝い方を考える」

 四人で協力して、老人を安全に助けることができた。

「三蔵様、素晴らしい成長ですね」

 猪八戒が感心した。

「はい。一人で抱え込まず、みんなで解決できました」

 孫悟空は、三蔵の頭を撫でた。

「お前は、本当の思いやりを学んだな」

 その夜、三蔵は日記に書いた。

『今日、大切なことを学んだ』

『自己犠牲は、美しく見えるけれど、時として相手を傷つける』

『本当の思いやりは、自分も相手も大切にすること』

『一人で抱え込まず、みんなで協力すること』

『自分の命は、自分だけのものではない』

『みんなを悲しませないためにも、自分を大切にしよう』

 三蔵は、筆を置いた。

 窓の向こうで、三人が談笑している。

 彼らが自分を心配してくれる気持ち。

 その重さを、三蔵は深く理解していた。

「みんな、ありがとう」

 三蔵は、小さく呟いた。

 自分を大切にしながら、他人も大切にする。

 それこそが、真の慈悲の心なのだと、三蔵は学んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

処理中です...