16 / 26
第16話 三蔵 十六歳
しおりを挟む
十六歳になった三蔵は、孫悟空と同じくらいの背丈に成長していた。
細身だがひきしまった体型、凛々しい顔立ちは、どこから見ても美青年にしか見えない。
町を歩けば、娘たちがちやほやと声をかけてくる。
「まあ、美しいお坊様」
「お名前は何とおっしゃるの?」
三蔵は困ったように微笑みながら丁寧に応対していた。
「ありがとうございます。でも、僕は修行中の身ですので...」
その美しさは男性の目を引くこともあった。たまに三蔵の美貌に惹かれた男がアプローチをかけることもあるのだが、孫悟空が決して許さない。
「おい、そこのお前」
孫悟空が威圧的に男に近づく。
「こいつにちょっかいを出すなら、俺を通してからにしてもらう。俺は、俺より強いやつしか認めない」
そんな者がいるはずもなく、男たちは皆逃げ出していく。三蔵は苦笑いしながら、孫悟空の過保護ぶりを見ていた。
そんなある日、都で一行に重要な来訪者があった。
「玄奘」
声をかけてきたのは、立派な法衣を身にまとった僧侶だった。国師となった弥龍である。
「弥龍お兄様!」
三蔵の顔が輝いた。幼い頃から慕ってきた人物との再会に、心から喜んでいる。
「立派になったな、玄奘。いや、今は三蔵法師と呼ぶべきか」
弥龍は優しく微笑みながら、三蔵の成長を見つめていた。
「実は、君を探していた。頼みがあって来たのだ」
弥龍の表情が真剣になる。
「私と一緒に都に来てほしい。私の妻になってくれないか」
妻という言葉に、沙悟浄と猪八戒は目を見開いた。
ーーやはり、三蔵は男装の女性だったのだ。
以前から疑ってはいたが、ここで確信を得ることになった。
一方、孫悟空は深刻な表情を浮かべていた。
ーーこの男は「俺より強いやつ」なのではないか?
国師という地位、教養、社会的影響力。三蔵の慕っている様子。その全てが、孫悟空を動揺させた。
かつて斉天大聖と名乗った傲慢な己を、等身大の存在として見つめ直しはじめた瞬間だった。
三蔵を手放したくない気持ちと、三蔵の幸せを願う気持ちの間で激しく揺れていた。そして同時に、自分が三蔵を異性としても意識していることに気づいてしまう。
「弥龍お兄様...」
三蔵は困った表情を浮かべた。弥龍への尊敬と感謝はあったが、恋愛感情とは違うものだった。
「申し訳ございません。僕は...お受けできません」
三蔵は申し訳なさそうに、しかしはっきりと断った。
弥龍は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに理解のある笑顔を浮かべた。
「そうか...君にはもう大切な人がいるのだな」
その視線は、自然と孫悟空に向けられた。
「しかし、玄奘。困ったことがあればなんでも言いなさい。力になろう」
弥龍が去った後、一行は宿で休んでいた。
孫悟空は一人で考え込んでいた。
三蔵の美しさは日に日に際立っていき、いずれ隠し通すことは難しくなるだろう。
そして何より、自分の三蔵への気持ちが、単なる保護欲を超えたものになっていることを認めざるを得なかった。
しかし、自分が三蔵にふさわしい相手であるとは、とても思えなかった。
「悟空」
三蔵が孫悟空の隣に座った。
「弥龍お兄様のこと、お怒りになっていませんか?」
「...怒ってはいない」
孫悟空は正直に答えた。
「あの男は立派な僧侶だ。お前が幸せになれるなら、それでいいとも思ったが…お前が断った時、俺はほっとした」
「僕は...」
三蔵は言いかけて、頬を染めた。自分の気持ちを言葉にするのは、まだ難しかった。
夜空に月が瞬いていた。二人の間に流れる、まだ言葉にならない想いと共に。
細身だがひきしまった体型、凛々しい顔立ちは、どこから見ても美青年にしか見えない。
町を歩けば、娘たちがちやほやと声をかけてくる。
「まあ、美しいお坊様」
「お名前は何とおっしゃるの?」
三蔵は困ったように微笑みながら丁寧に応対していた。
「ありがとうございます。でも、僕は修行中の身ですので...」
その美しさは男性の目を引くこともあった。たまに三蔵の美貌に惹かれた男がアプローチをかけることもあるのだが、孫悟空が決して許さない。
「おい、そこのお前」
孫悟空が威圧的に男に近づく。
「こいつにちょっかいを出すなら、俺を通してからにしてもらう。俺は、俺より強いやつしか認めない」
そんな者がいるはずもなく、男たちは皆逃げ出していく。三蔵は苦笑いしながら、孫悟空の過保護ぶりを見ていた。
そんなある日、都で一行に重要な来訪者があった。
「玄奘」
声をかけてきたのは、立派な法衣を身にまとった僧侶だった。国師となった弥龍である。
「弥龍お兄様!」
三蔵の顔が輝いた。幼い頃から慕ってきた人物との再会に、心から喜んでいる。
「立派になったな、玄奘。いや、今は三蔵法師と呼ぶべきか」
弥龍は優しく微笑みながら、三蔵の成長を見つめていた。
「実は、君を探していた。頼みがあって来たのだ」
弥龍の表情が真剣になる。
「私と一緒に都に来てほしい。私の妻になってくれないか」
妻という言葉に、沙悟浄と猪八戒は目を見開いた。
ーーやはり、三蔵は男装の女性だったのだ。
以前から疑ってはいたが、ここで確信を得ることになった。
一方、孫悟空は深刻な表情を浮かべていた。
ーーこの男は「俺より強いやつ」なのではないか?
国師という地位、教養、社会的影響力。三蔵の慕っている様子。その全てが、孫悟空を動揺させた。
かつて斉天大聖と名乗った傲慢な己を、等身大の存在として見つめ直しはじめた瞬間だった。
三蔵を手放したくない気持ちと、三蔵の幸せを願う気持ちの間で激しく揺れていた。そして同時に、自分が三蔵を異性としても意識していることに気づいてしまう。
「弥龍お兄様...」
三蔵は困った表情を浮かべた。弥龍への尊敬と感謝はあったが、恋愛感情とは違うものだった。
「申し訳ございません。僕は...お受けできません」
三蔵は申し訳なさそうに、しかしはっきりと断った。
弥龍は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに理解のある笑顔を浮かべた。
「そうか...君にはもう大切な人がいるのだな」
その視線は、自然と孫悟空に向けられた。
「しかし、玄奘。困ったことがあればなんでも言いなさい。力になろう」
弥龍が去った後、一行は宿で休んでいた。
孫悟空は一人で考え込んでいた。
三蔵の美しさは日に日に際立っていき、いずれ隠し通すことは難しくなるだろう。
そして何より、自分の三蔵への気持ちが、単なる保護欲を超えたものになっていることを認めざるを得なかった。
しかし、自分が三蔵にふさわしい相手であるとは、とても思えなかった。
「悟空」
三蔵が孫悟空の隣に座った。
「弥龍お兄様のこと、お怒りになっていませんか?」
「...怒ってはいない」
孫悟空は正直に答えた。
「あの男は立派な僧侶だ。お前が幸せになれるなら、それでいいとも思ったが…お前が断った時、俺はほっとした」
「僕は...」
三蔵は言いかけて、頬を染めた。自分の気持ちを言葉にするのは、まだ難しかった。
夜空に月が瞬いていた。二人の間に流れる、まだ言葉にならない想いと共に。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる