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第26話 安仁の防災教育
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四人を見送った後、安仁は再び、里の政務に追われていた。
多忙であることには変わりないものの、安仁をはじめとする純血の鬼達の回復により、以前よりずっと負担は減っていた。
ある日、安仁が古文書の整理をしていると、気になる記録が見つかった。
「大地震…?」
どうやら、この里では、約三百年周期で大地震が起こっている。
そして、直近の大地震から、すでに二百八十年が過ぎている。
「つまり……あと二十年以内に、大地震が来る可能性が高いというのか?」
安仁は、さらに古い記録を追った。
「三百年前の地震では、百名以上が亡くなった……」
「六百年前は、さらに被害が大きかった」
記録を読むほど、地震の恐ろしさが伝わった。
だが、興味深いことも発見した。
九百年前の記録だけ、被害が軽微であった。
「なぜじゃ?」
疑問を解くため、安仁は様々な者に話を聞いた。
「長様、私の故郷でも大地震がありました」
猪族の移民が、貴重な情報を教えてくれた。
「そこで学んだのは、建物の作り方です」
「どのような?」
「柱と柱を、しっかりと固定する技術。それから、建物を軽くする工夫。重い瓦屋根より、軽い茅葺きの方が安全です」
別の移民も、経験を語った。
「私の村では、地面の揺れを和らげる技術がありました。建物の下に、柔軟な材料を敷くのです」
安仁は、目を輝かせた。
「なるほど。耐震構造じゃな!さすれば、九百年前の住居は、かえって安全だったというわけか」
安仁は、里の職人たちと協力して、建物の改修を始めた。
「まず、古い建物の点検から始めましょう」
移民の技術者が、一軒一軒調べて回った。
「この柱は、腐食が進んでいます」
「この壁は、ひび割れがありますね」
「この屋根は、重すぎます」
問題のある建物を特定し、優先順位をつけて改修していく。
特に重要な建物――長の屋敷、病院、学校――は最優先で強化した。
「これで、多少の揺れには耐えられるはずです」
建物の強化と並行して、移民の指導のもと、避難訓練も行った。
「地震が起きたら、まず身を守ることが大切です。机の下に隠れる、柱にしがみつく、壁から離れる。揺れが止まったら、慌てずに避難する」
最初の訓練では、混乱が起きた。
「みんな、一度に出口に向かってはいけません。順番に、落ち着いて」
移民の老人が重要な指摘をした。
「外に逃げるのが常に正解ではありません」
「建物が頑丈で、外に危険がある場合は、屋内に留まる方が安全です」
「瓦や看板が落ちてくる可能性がある時。人が殺到して圧死する危険がある時。そういう場合は、頑丈な建物の中で身を守る方が良いのです」
安仁は、新しい避難方針を決めた。
「状況に応じて、屋内避難も選択肢とする。建物の安全性と外の危険度を総合的に判断する」
「地震の後は、しばらく外部からの支援が受けられぬじゃろうな」
安仁は、備蓄の重要性を説いた。
「食料、水、薬、燃料――最低でも一週間分は必要じゃろう」
里の各家庭に、備蓄を呼びかけた。
「米、味噌、干し肉、干し野菜。水は、大きな甕に貯めておく。薬草も、乾燥させて保存しておく」
共同の備蓄庫も作った。
「個人では用意できない大きな物資は、里全体で備蓄するのじゃ」
「地震の時は、多くの怪我人が出ます」
里の医師と協力して、応急手当の訓練を行った。
「まず、出血を止める方法」
「包帯の巻き方、添え木の当て方」
「意識を失った人への対処法」
多くの里の民が、基本的な手当てを覚えた。
安仁は医師から、さらに高度な概念を教わった。
「トリアージ、という考え方があります」
「トリアージ?」
「多数の負傷者が出た時、誰から治療するかを決める方法です」
医師は、厳しい現実を説明した。
「すぐに治療すれば助かる人を最優先にします。軽傷の人は後回し。そして、残念ながら、手遅れの人も後回しにせざるを得ません。限られた医療資源で、最大数の命を救うための判断です」
安仁は、その重さに胸が痛んだ。
「辛い判断じゃが、必要なことじゃな」
さらに安仁は、情報伝達の仕組みを整えた。
太鼓を使った合図。
「一回:地震発生」
「二回:火災発生」
「三回:避難指示」
「連続:緊急事態」
各地区に連絡係を配置し、情報が素早く伝わるようにした。
子供たちには、学校で分かりやすく教える。
「地震が来たら、『ダンゴムシ』になろう」
「頭を守って、小さく丸くなる」
「『お・か・し・も』を覚えよう」
「『お』さない、『か』けない、『し』ゃべらない、『も』どらない」
子供たちは、楽しみながら覚えた。
「ダンゴムシ!」
みんなで一斉に身を守る姿勢を取る。
ある日、小さな地震が起きた。
訓練通りに、民たちは適切に避難した。
だが、課題も見つかった。
「高齢者の避難に時間がかかりました」
「情報伝達に遅れがありました」
改善点を話し合い、さらに備えを強化した。
地震対策は、一度やれば終わりではない。
「定期的に見直し、改善していく必要があります」
安仁は、長期的な視点で取り組んだ。
「建物の点検は年に一度」
「避難訓練は季節ごと」
「備蓄の確認は月に一度」
「新しい技術や知識があれば、積極的に取り入れる」
里の防災力は着実に向上した。
安仁は満足そうに微笑む。新たな取り組みが、面白くて仕方ないのだった。
「ふふ、八戒が見たら、さぞ驚くじゃろうのう!」
安仁は、里に昇る月を眺めながら、愛しい人に思いを馳せた。
多忙であることには変わりないものの、安仁をはじめとする純血の鬼達の回復により、以前よりずっと負担は減っていた。
ある日、安仁が古文書の整理をしていると、気になる記録が見つかった。
「大地震…?」
どうやら、この里では、約三百年周期で大地震が起こっている。
そして、直近の大地震から、すでに二百八十年が過ぎている。
「つまり……あと二十年以内に、大地震が来る可能性が高いというのか?」
安仁は、さらに古い記録を追った。
「三百年前の地震では、百名以上が亡くなった……」
「六百年前は、さらに被害が大きかった」
記録を読むほど、地震の恐ろしさが伝わった。
だが、興味深いことも発見した。
九百年前の記録だけ、被害が軽微であった。
「なぜじゃ?」
疑問を解くため、安仁は様々な者に話を聞いた。
「長様、私の故郷でも大地震がありました」
猪族の移民が、貴重な情報を教えてくれた。
「そこで学んだのは、建物の作り方です」
「どのような?」
「柱と柱を、しっかりと固定する技術。それから、建物を軽くする工夫。重い瓦屋根より、軽い茅葺きの方が安全です」
別の移民も、経験を語った。
「私の村では、地面の揺れを和らげる技術がありました。建物の下に、柔軟な材料を敷くのです」
安仁は、目を輝かせた。
「なるほど。耐震構造じゃな!さすれば、九百年前の住居は、かえって安全だったというわけか」
安仁は、里の職人たちと協力して、建物の改修を始めた。
「まず、古い建物の点検から始めましょう」
移民の技術者が、一軒一軒調べて回った。
「この柱は、腐食が進んでいます」
「この壁は、ひび割れがありますね」
「この屋根は、重すぎます」
問題のある建物を特定し、優先順位をつけて改修していく。
特に重要な建物――長の屋敷、病院、学校――は最優先で強化した。
「これで、多少の揺れには耐えられるはずです」
建物の強化と並行して、移民の指導のもと、避難訓練も行った。
「地震が起きたら、まず身を守ることが大切です。机の下に隠れる、柱にしがみつく、壁から離れる。揺れが止まったら、慌てずに避難する」
最初の訓練では、混乱が起きた。
「みんな、一度に出口に向かってはいけません。順番に、落ち着いて」
移民の老人が重要な指摘をした。
「外に逃げるのが常に正解ではありません」
「建物が頑丈で、外に危険がある場合は、屋内に留まる方が安全です」
「瓦や看板が落ちてくる可能性がある時。人が殺到して圧死する危険がある時。そういう場合は、頑丈な建物の中で身を守る方が良いのです」
安仁は、新しい避難方針を決めた。
「状況に応じて、屋内避難も選択肢とする。建物の安全性と外の危険度を総合的に判断する」
「地震の後は、しばらく外部からの支援が受けられぬじゃろうな」
安仁は、備蓄の重要性を説いた。
「食料、水、薬、燃料――最低でも一週間分は必要じゃろう」
里の各家庭に、備蓄を呼びかけた。
「米、味噌、干し肉、干し野菜。水は、大きな甕に貯めておく。薬草も、乾燥させて保存しておく」
共同の備蓄庫も作った。
「個人では用意できない大きな物資は、里全体で備蓄するのじゃ」
「地震の時は、多くの怪我人が出ます」
里の医師と協力して、応急手当の訓練を行った。
「まず、出血を止める方法」
「包帯の巻き方、添え木の当て方」
「意識を失った人への対処法」
多くの里の民が、基本的な手当てを覚えた。
安仁は医師から、さらに高度な概念を教わった。
「トリアージ、という考え方があります」
「トリアージ?」
「多数の負傷者が出た時、誰から治療するかを決める方法です」
医師は、厳しい現実を説明した。
「すぐに治療すれば助かる人を最優先にします。軽傷の人は後回し。そして、残念ながら、手遅れの人も後回しにせざるを得ません。限られた医療資源で、最大数の命を救うための判断です」
安仁は、その重さに胸が痛んだ。
「辛い判断じゃが、必要なことじゃな」
さらに安仁は、情報伝達の仕組みを整えた。
太鼓を使った合図。
「一回:地震発生」
「二回:火災発生」
「三回:避難指示」
「連続:緊急事態」
各地区に連絡係を配置し、情報が素早く伝わるようにした。
子供たちには、学校で分かりやすく教える。
「地震が来たら、『ダンゴムシ』になろう」
「頭を守って、小さく丸くなる」
「『お・か・し・も』を覚えよう」
「『お』さない、『か』けない、『し』ゃべらない、『も』どらない」
子供たちは、楽しみながら覚えた。
「ダンゴムシ!」
みんなで一斉に身を守る姿勢を取る。
ある日、小さな地震が起きた。
訓練通りに、民たちは適切に避難した。
だが、課題も見つかった。
「高齢者の避難に時間がかかりました」
「情報伝達に遅れがありました」
改善点を話し合い、さらに備えを強化した。
地震対策は、一度やれば終わりではない。
「定期的に見直し、改善していく必要があります」
安仁は、長期的な視点で取り組んだ。
「建物の点検は年に一度」
「避難訓練は季節ごと」
「備蓄の確認は月に一度」
「新しい技術や知識があれば、積極的に取り入れる」
里の防災力は着実に向上した。
安仁は満足そうに微笑む。新たな取り組みが、面白くて仕方ないのだった。
「ふふ、八戒が見たら、さぞ驚くじゃろうのう!」
安仁は、里に昇る月を眺めながら、愛しい人に思いを馳せた。
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