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15 多分、いいお兄ちゃんでは無かったです
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「あ、とものりくん。危ないよ」
出入り口に増えた泣き声に振り向くと、松島が覚束ない手つきで抱いている男の子が、腕のなかで身を捩っていた。とものりくん、と言うらしい。泣いて暴れる小さな体を何とか押さえつけて、松島が一太の近くに寄ってくる。
「松島、あ、いや晃先生。ともくん抱っこ嫌なのかも。おろしてあげて」
見ていると、落としそうで恐ろしい。一度、本人のやりたいようにさせてあげたらどうかな、と一太は思う。
「え、でも……」
「代わるよ。俺がともくん見てるから、けいとくんとうみちゃんお願い。けいとくんは、お座りまだ苦手だから、倒れても大丈夫なように後ろに座ってて」
「……分かった」
松島に少し逡巡する様子が見られたのは、泣く子の相手を上手くできなかったからか。厄介な子を渡すのが申し訳ないからか。
気にしなくていいのに。一太は松島を安心させようと、殊更ににこにこと笑顔を見せる。
松島が下ろすと、とものりくんはすぐに出入り口に向かってはいはいを始めた。部屋にはとものりくんとしゅんくん、昌江先生の腕の中に加わった女の子の泣き声が響いてとても賑やかだ。みうちゃんは優子先生と絵本を見始めて、いつの間にか泣き止んでいる。
「おお、速い速い」
一太は立ち上がってとものりくんを追いかけながら、松島をちらりと見た。先程まで一太が座っていたけいとくんの後ろに座り込むのが見えた。
座っても大きいな。
羨ましく思いながら、出入り口付近のガラス戸に手をついて立ち上がり切なく泣くとものりくんの背中をさする。
「寂しいなあ。大丈夫。お母さんすぐに帰ってくるよ」
いやいやとするように体を揺すられて、その背中から手を離した。
「そうかあ。嫌かあ」
返事は切ない泣き声だ。
「一太先生、慣れてるのね」
同じように出入り口付近で、自分の荷物に埋もれるしゅんくんを見守りながら、しがみついて泣く女の子をあやす昌江先生が声を掛けてくる。
「あ、はい。小さい頃児童養護施設に居て、赤ちゃんも何人かいたので」
「そう。いいお兄ちゃんだね」
「いえ。母や弟はいつも、お前がいなければ良かったんだって言ってました。多分、いいお兄ちゃんでは無かったです」
「あら。私にはいいお兄ちゃんにしか見えないわ」
「ありがとうございます」
やっぱり先生は優しい。生まれてから六歳まで育った児童養護施設での幸せな日々を思い出して、一太は笑みを深めた。
出入り口付近のガラス戸前をはいはいでさ迷いながら泣いているとものりくんを、膝立ちで追いかける。とものりくんが、ちらちらと一太の方を気にし始めているのが微笑ましかった。
昌江先生の腕の中のひよりちゃんが泣き疲れてうとうとし始め、しゅんくんが荷物に埋もれたまま、持参の、ボタンを押すと歌が流れる絵本で遊び始めた頃、こちらも泣き止んだとものりくんがはいはいを止め、ぺたんと座って一太に向かって両手を上げた。
抱っこのおねだり!
「よし、ともくん。おいで」
一太はとものりくんをぎゅっと抱き締めながら、何て幸せな仕事だろう、と思った。
出入り口に増えた泣き声に振り向くと、松島が覚束ない手つきで抱いている男の子が、腕のなかで身を捩っていた。とものりくん、と言うらしい。泣いて暴れる小さな体を何とか押さえつけて、松島が一太の近くに寄ってくる。
「松島、あ、いや晃先生。ともくん抱っこ嫌なのかも。おろしてあげて」
見ていると、落としそうで恐ろしい。一度、本人のやりたいようにさせてあげたらどうかな、と一太は思う。
「え、でも……」
「代わるよ。俺がともくん見てるから、けいとくんとうみちゃんお願い。けいとくんは、お座りまだ苦手だから、倒れても大丈夫なように後ろに座ってて」
「……分かった」
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気にしなくていいのに。一太は松島を安心させようと、殊更ににこにこと笑顔を見せる。
松島が下ろすと、とものりくんはすぐに出入り口に向かってはいはいを始めた。部屋にはとものりくんとしゅんくん、昌江先生の腕の中に加わった女の子の泣き声が響いてとても賑やかだ。みうちゃんは優子先生と絵本を見始めて、いつの間にか泣き止んでいる。
「おお、速い速い」
一太は立ち上がってとものりくんを追いかけながら、松島をちらりと見た。先程まで一太が座っていたけいとくんの後ろに座り込むのが見えた。
座っても大きいな。
羨ましく思いながら、出入り口付近のガラス戸に手をついて立ち上がり切なく泣くとものりくんの背中をさする。
「寂しいなあ。大丈夫。お母さんすぐに帰ってくるよ」
いやいやとするように体を揺すられて、その背中から手を離した。
「そうかあ。嫌かあ」
返事は切ない泣き声だ。
「一太先生、慣れてるのね」
同じように出入り口付近で、自分の荷物に埋もれるしゅんくんを見守りながら、しがみついて泣く女の子をあやす昌江先生が声を掛けてくる。
「あ、はい。小さい頃児童養護施設に居て、赤ちゃんも何人かいたので」
「そう。いいお兄ちゃんだね」
「いえ。母や弟はいつも、お前がいなければ良かったんだって言ってました。多分、いいお兄ちゃんでは無かったです」
「あら。私にはいいお兄ちゃんにしか見えないわ」
「ありがとうございます」
やっぱり先生は優しい。生まれてから六歳まで育った児童養護施設での幸せな日々を思い出して、一太は笑みを深めた。
出入り口付近のガラス戸前をはいはいでさ迷いながら泣いているとものりくんを、膝立ちで追いかける。とものりくんが、ちらちらと一太の方を気にし始めているのが微笑ましかった。
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抱っこのおねだり!
「よし、ともくん。おいで」
一太はとものりくんをぎゅっと抱き締めながら、何て幸せな仕事だろう、と思った。
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