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81 ばいばい
「そうか。うん。血縁である以上、完全に縁を切るのは難しいけれど、こうして怪我の診断書もあるし、彼が、簡単には君に辿り着けないように守る様々な措置は、考えることができると思う。幸い、君には知り合いの弁護士さんがいらっしゃるから、その辺りは詳しいだろう。暴力行為があったことは、目撃者もいて証明されている」
笹井は優しく頷いてくれた。
そして、誠も。
「任せてください。一太くん、できれば一人には戻らないでほしいな。晃には君が必要だ」
「え……?」
「いっちゃん。一緒に家に帰ろ。一人には、してあげられそうにない。いっちゃんと離れたら、僕が寂しい」
すっと冷え始めていた一太の胸に、温かいものが流れる。これは、何? 何だろう。胸が詰まる。喉を通って、目から、何かが……。
「俺は」
「うん」
「俺は、また」
「うん」
「あの家に、帰っていいの?」
「当たり前じゃん。僕たちのうちなんだから」
涙が溢れそうで、少しずつしか話せない。言葉が止まる度に、晃が相槌を打ってくれた。その度に、涙がせり上ってくるようで、一太は堪えるのが大変だった。
「め、迷惑かけたのに? いいの……?」
「いっちゃんには、迷惑なんてかけられてない。いっちゃんは被害者で、大変な目にあった人なんだ。怪我が治るまで、僕が家事を頑張るからさ。いっちゃんは、しばらくのんびりしてて。ね?」
もう、駄目だった。
一太の目からは、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が溢れて止まらくなってしまった。
「帰る。晃くんの家に帰る」
「違うでしょ。僕といっちゃんの家でしょ」
しゃくりあげながら伝える一太に、晃が訂正する。
「では、椛田さんと村瀬望さんには様々な書類を書いて頂きたいので、このままこちらで、もう少しいてもらいます。その後は、椛田さんは、保護責任者として責任を持って、村瀬望さんを所属の児童養護施設へ送り届けるように」
「はい……。この度は、申し訳、ありませんでした……」
椛田は深く頭を下げたようだ。涙で霞む一太の目には、はっきりとは見えなかったけれど。
「え? まじで? まじでこれで終わり?」
望が呆然と呟く。
「村瀬望くん。まだ暴れるようなら、児童養護施設じゃない施設への収容を検討しなくてはならなくなる。大人しく、うちへ帰れるね?」
「うち? 俺の……家?」
「ああ。今暮らしている場所だよ。温かい食事が出て、毎日風呂に入れて、洗濯も掃除もしてもらえている場所が、君にはあるんだろう?」
笹井の言葉に、望がぎり、と奥歯を鳴らす。
「家、なんて。家なんてもう、なくなった」
「新しく準備してもらえた家がある。子どもで良かったな、君は。あと二年、一人で暮らす準備の期間をもらえたじゃないか。幸運に感謝して、そちらに早く馴染むことだ。お兄さんのように、立派に自立できることを祈っているよ」
「嘘だ! 嘘だろ。お前は、俺のこと……」
ぐす、と鼻を啜りながら、一太は最後にもう一度、望を見た。すっかり男らしくなった顔に、お兄ちゃんと笑った面影はあまり見当たらない。ただ、悔しいのか悲しいのか分からない顔で、それでも一太を睨んでいる。
最後まで、ここまで来ても望は……。
そう思ったら一太は、涙を目に溜めたまま少し笑ってしまった。
「ありがとう、望。望が俺のこと、一度も名前で呼ばなかったから、俺、望が俺のことを呼んでるんだって思わずにすんだ。もう戻りたくないって、強く思えたよ。……ばいばい」
笹井は優しく頷いてくれた。
そして、誠も。
「任せてください。一太くん、できれば一人には戻らないでほしいな。晃には君が必要だ」
「え……?」
「いっちゃん。一緒に家に帰ろ。一人には、してあげられそうにない。いっちゃんと離れたら、僕が寂しい」
すっと冷え始めていた一太の胸に、温かいものが流れる。これは、何? 何だろう。胸が詰まる。喉を通って、目から、何かが……。
「俺は」
「うん」
「俺は、また」
「うん」
「あの家に、帰っていいの?」
「当たり前じゃん。僕たちのうちなんだから」
涙が溢れそうで、少しずつしか話せない。言葉が止まる度に、晃が相槌を打ってくれた。その度に、涙がせり上ってくるようで、一太は堪えるのが大変だった。
「め、迷惑かけたのに? いいの……?」
「いっちゃんには、迷惑なんてかけられてない。いっちゃんは被害者で、大変な目にあった人なんだ。怪我が治るまで、僕が家事を頑張るからさ。いっちゃんは、しばらくのんびりしてて。ね?」
もう、駄目だった。
一太の目からは、ぽろぽろ、ぽろぽろと涙が溢れて止まらくなってしまった。
「帰る。晃くんの家に帰る」
「違うでしょ。僕といっちゃんの家でしょ」
しゃくりあげながら伝える一太に、晃が訂正する。
「では、椛田さんと村瀬望さんには様々な書類を書いて頂きたいので、このままこちらで、もう少しいてもらいます。その後は、椛田さんは、保護責任者として責任を持って、村瀬望さんを所属の児童養護施設へ送り届けるように」
「はい……。この度は、申し訳、ありませんでした……」
椛田は深く頭を下げたようだ。涙で霞む一太の目には、はっきりとは見えなかったけれど。
「え? まじで? まじでこれで終わり?」
望が呆然と呟く。
「村瀬望くん。まだ暴れるようなら、児童養護施設じゃない施設への収容を検討しなくてはならなくなる。大人しく、うちへ帰れるね?」
「うち? 俺の……家?」
「ああ。今暮らしている場所だよ。温かい食事が出て、毎日風呂に入れて、洗濯も掃除もしてもらえている場所が、君にはあるんだろう?」
笹井の言葉に、望がぎり、と奥歯を鳴らす。
「家、なんて。家なんてもう、なくなった」
「新しく準備してもらえた家がある。子どもで良かったな、君は。あと二年、一人で暮らす準備の期間をもらえたじゃないか。幸運に感謝して、そちらに早く馴染むことだ。お兄さんのように、立派に自立できることを祈っているよ」
「嘘だ! 嘘だろ。お前は、俺のこと……」
ぐす、と鼻を啜りながら、一太は最後にもう一度、望を見た。すっかり男らしくなった顔に、お兄ちゃんと笑った面影はあまり見当たらない。ただ、悔しいのか悲しいのか分からない顔で、それでも一太を睨んでいる。
最後まで、ここまで来ても望は……。
そう思ったら一太は、涙を目に溜めたまま少し笑ってしまった。
「ありがとう、望。望が俺のこと、一度も名前で呼ばなかったから、俺、望が俺のことを呼んでるんだって思わずにすんだ。もう戻りたくないって、強く思えたよ。……ばいばい」
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