【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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205 ◇その手が僕を選んでくれた

 お風呂の後、一太は早々に船を漕ぎ始めた。ゲームをしたり、おやつの時間に誕生日パーティをしたりしている間に晃から離れていた手が、またぎゅうっと晃の一部を掴んでいる。ほとんど無意識であるらしかった。そうでなければ、の前で一太がこんなことをする筈がない。、誰かの服の裾を不安げに握ったりしないものだから。

「いっちゃん。布団で寝ようか」

 晃が、一太の髪の毛を乾かし終えて聞くと、一太は、はっと顔を上げた。

「まだ九時……」

 普通である事へのこだわりだろうか。それとも、溜まっていく仕事への不安だろうか。一太は、早い時間に寝ることも嫌がる。昼寝もそうだ。絶対に昼寝などしたくないようで、座り仕事で眠気が来たら、歩き回ってできる仕事に切り替える。本を読んでいても、立ち上がってうろうろしながら読んでいたりする。
 晃は、漫画を読んでいる途中にうっかり昼寝してしまうなんて、よくある事なのだが。
 うっかり昼寝したり、眠たい時は、時間が早くても寝てしまうのが普通だと教えたら、そうするようになるのだろうか。
 それも、何だか違う気がする、と晃は思う。
 自然にそうなるというのは、いっちゃんには難しいのかな。
 それでも、今日はかなりたくさんのを体験できたのじゃないだろうか。自分の家で今までにしてきたあれこれが、本当に普通かどうかなんて晃にも分かっちゃいないのだが。
 とりあえず、家でボードゲームというのは一太には初めてだっただろう。姉や義兄は、色々分かった上で付き合ってくれたのだと思う。遊ぶことが何でも好きで、晃が幼い頃にも色んなゲームに付き合ってくれていた姉の明里は、ただ楽しくてやっていた可能性も高いけれど。
 いっちゃんがあんなにはしゃぐのなら、もっと早くにゲームを二人の家に持って行っていれば良かったな。今日やったボードゲームなら、いつものメンバーでやっても楽しそうだ。
 そこまで考えて、晃は、自分で自分に驚いた。友だちと遊ぶ計画を、自分が立てていることに! 
 いつだって、誘われて付いていった。楽しかったこともあったし、あまり乗り気でないこともあったけれど、どんな遊びの計画も全て、誰かが立ててそれに参加するものだった。
 毎月のように集まって、一緒にご飯を食べたり遊んだりする。それがこんなに楽しいなんて知らなかった。家族でやっていたボードゲームも、一人年齢の離れていた晃に対して、家族が手加減してくれていることに気付いてからは全く面白くなくなってしまい、やらなくなった。成長してからやってみれば、手加減してもらわなければ、それはそれでとてもつまらなかっただろう、と分かるのだけれど。
 一太の髪を櫛で整えながら考えていた晃は、本格的に眠たそうな一太に気付いて慌てた。寝られてしまうと、晃では二階の部屋に運べない。いつか運べるように鍛える決心はしたが、今はまだ無理だ。父に頼むのは、何となくモヤッとする。

「僕の部屋で、カードゲームしない? 二人でできるボードゲームも持っていこうよ」

 一太が、うんうんと頷いたので、晃はほっとして立ち上がった。服の裾を握ったままの一太の手を見る。子どもの心理学を習った晃は、きっとこの手には何か深い意味がある、という事には気付いていた。けれど、急いでどうこうすることもないな、とそのままにしている。幸い今、父や母に甘えることができて時間があるのだから、しばらくは一太のしたいようにさせてあげよう、と思う。
 生活に支障がないなら、ずっと掴んでいてくれても構わない。
 晃は、一太が晃を選んで掴んでくれている事が、何より嬉しかった。
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