【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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206 幸せな朝

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 とても良い夢を見た。一太は目を閉じたまま、ふわふわと笑う。どんな、と言われると思い出せないのが夢というものだが、良い夢だった。なぜ、良い夢と分かるかというと、目を覚ましかけている今もまだ、何だか幸せな気持ちでいっぱいだからだ。
 まず、とても暖かい。
 晃と過ごすようになってからは寒い日なんてなかったけれど、それにしても今日は、いつもの倍くらい暖かいのだ。まるで何かに包まれているような……。
 うっすらと目を開けた一太は、頭まですっぽり布団を被っていて驚く。暖かいはずだ。布団に頭まで潜り込んでいるのだから。昔はよく、とにかく暖まりたくて小さく小さく丸まって寝ていたが、ここ最近は無かった。それはそうだ。だって、陽子にもらった毛布やパジャマはとても暖かくて、そんな事しなくてもよく眠れたから。
 ただ、良い夢だとこうして自覚するような夢を見たことは無かった。良くない夢なら、無数に見て飛び起きていたけれど。大体いつも、何かに追われていた気がする。夢は、心のうちの何かを現すのだとしたら、一太はいつも、何かに追われていたのだろう。時間? お金? 家族?
 なら、この良い夢は、一太の幸せな気持ちの現れ? 確かに、昨日は幸せだった。色々。色々な全てが楽しくて、嬉しくて。そして美味しかった。
 その前の日には、心が、息をできないくらいの嫌な言葉を取り込んで、体ごと動けなくなっていたのに。
 人は、楽な方楽な方に流される生き物なんだなあ、と一太は思う。あの人のあんな言葉はしょっちゅう聞いていたはずだ。いつもいつも、あの人は言っていた。お前さえ居なければ。お前が私の不幸だ。お前なんか私の子じゃない。すべて、そうすべてお前が悪い。追い出せないんだから、せめて、何らかの役に立て。
 何故か心の奥に染み込んで、辛い。今更。今更だ。忘れていた訳じゃない。あの人はずっとそうだった。何も変わらない。いっそ、潔いくらいに何も変わらないのだ。一太が、幸せな日々に流されて弱くなっただけ。
 このままでは、あの人の次の攻撃に耐えられないな、と一太はぼんやり思う。こんな幸せな日々を送っていては……。
 良い夢の余韻が冷めてきた一太は、布団から顔を出そうとして自由に動けないことに気付いた。動けない?
 もぞもぞしていたら、背中をぽん、ぽん、と優しく叩かれた。一太の体に回った晃の手が、無意識に動いているらしい。
 一太の手は、起きていた時と同じように晃のパジャマの一部を掴んでいた。そして一太の体は、晃にすっぽり包まれていたのだ。
 暖かいはずだ。
 良い夢が見られるはずだ。
 晃に、ぎゅって抱っこしてもらって寝ていたのだから。
 ああ、幸せだなあ、と涙が滲む。一太の願いをたくさん、たくさん叶えてくれる晃は、一太にとっての神様でサンタクロースで……好きな人だ。
 この幸せな日々が自分を弱くしてしまって、あの人の攻撃に耐えられなくなったとしても、それでいいような気がしてくる。そう思ってしまうくらい、その腕の中は幸せで。
 一太は、いつものように勢いよく起き上がることもできず、大好きな人の腕の中で幸せを噛み締めていた。
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