【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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番外編

◇キーホルダー

 卒業式を終え、アルバイトも、仕事が始まる数日前にやめた晃と一太。つかの間の休みを二人で満喫しようと考えていた晃だったが、午前中に、御用達の百円均一ショップへ一人で出かけて戻ってきた一太が、昼ごはんを作って食べた後で寝室へこもってしまった。

「いっちゃん?」

 晃が声をかけると、はい、と返事をして慌てて出てくるが、寝室へは入れてくれない。

「何やってるの?」
「え? あー、うーん。ちょっと」

 こんな風に隠されるなんて初めてで、晃は少しもやっとする。

「え? 僕に言えないようなこと? 悲しいな」
「ええ? あ、いや。別に悲しいほどのことじゃ……」
「せっかくの休みなのに一緒にいられないのは寂しい」
「ああ、いや。ええっと、じゃあ、そっちに行くね」

 一太は、困った顔をしているが、まだ寝室の戸は押さえたままだ。そんなに見せたくないのなら諦めるか、と晃が思った時、あのさ、と一太の声がした。

「写真の、大きさを変えて現像したいんだけど教えてくれる?」
「写真? うん、もちろん」

 プリンターは、ついこの間購入したばかりだ。大学を卒業して資料などを気軽にプリントアウトできる場所がなくなってしまったので、家にあった方が便利だな、と思った晃がバイト代で購入した。一太が、半分お金を出すと言ってきたが、晃が欲しいものだからと断った。そんなに上等な機能がついているのでなければ、本体は一万円もせずにあって、こんなに安いのかと驚いたものだ。もちろん、無線でデータを送れる優れもの。最初のインクセットを一太に購入してもらい、無くなったら順番に買うことで話は落ち着いた。これで、一太の大好きな写真も家で現像し放題だ。写真用紙は、一太が百円均一ショップで購入してきた。そんな安い品で大丈夫かな、と晃は思ったが、現像してみたら、ちゃんと綺麗だった。今どきの百円均一ショップはすごいな、とすっかり感心したものだ。あと、本当に何でも置いてある。一太が心酔するのも分かる気がした。

「この大きさにちょうどよく入る写真がなくて」

 一太が見せたのは、大きめの透明なプラスチックが付いたキーホルダー。透明なプラスチックの中に、好きな絵や写真を挟める仕様になっていた。

「ああ」

 思い浮かんだのは、卒業旅行での遊園地の一場面。友人の岸田と安倍が、二人同時に笑顔の写真が撮れるまで、何度もジェットコースターに乗っていた姿だ。何度目かの挑戦で、岸田がやっと笑顔になった写真を選び、キーホルダーの形で購入していた。いいなあ、と一太は何度も言っていたが、ジェットコースターのような乗り物が得意ではない一太が、写真撮影のポイントで顔を上げて笑顔になるのは無理だ、と諦めたのだった。
 百円で写真入りのキーホルダーを作れる方法を見つけたのか。

「ふふ」
「え、何?」

 思わず笑った晃に、一太が驚いた顔を向ける。

「ん、何でもない」

 自分たちの顔を入れたキーホルダーを持ち歩きたいなんて、すごく恋人同士っぽい。
 けれど、喜んだ晃の前に差し出されたのは、晃一人が笑顔で写っている写真だった。

「え? これ?」
「うん」
「ええー」

 晃の不満の声に、一太は首を傾げるばかり。本当に分かっていない様子だったので、晃は仕方なく説明をする。少し格好悪いが、きちんと言わなければ一太には伝わらないことは学習済みだ。

「いっちゃん。どうせなら二人で写っている写真で作ってほしい。僕の分も」
「あ……」

 ぽかんと口を開けた一太が、ああ、ともう一度言うまでの時間は早かった。

「そ、そっか。そうだよね。そっかあ……」

 分かってもらえて何よりだ、と晃は息を吐いた。
 ぽり、と頭を書いた一太は、考えてから、でも、と小さな声で呟く。

「晃くんだけのものも欲しいんだけど」

 まあ、その気持ちも、晃にも分からなくはない。一太の写真だけのキーホルダーの方が、自分も共に写っているものより眺めやすい気がする。

「じゃあさ、どっちも作っちゃおうよ」
「え?」
「百円なんでしょ、これ」

 晃はキーホルダーを指さした。相変わらず、百円均一ショップはすごい。

「うん」
「四つ買っても四百円だ。二人で写った写真のキーホルダーと、それぞれだけが写っている写真のキーホルダーを全部作っちゃおう」

 おお、と一太が感心した声を出す。

「そ、そっか。そうだね。遊園地のキーホルダーは、二つで千円したって岸田さんが言ってた。四つ作っても半額以下だ」
「でしょ」
「うん」

 そうして二人は、二人で仲良くもう一度百円均一ショップへ出かけ、仲良く四つのキーホルダーを完成させた。
 
 目につくところにぶら下げるのは恥ずかしいのでと、二人とも鞄の内側にぶら下げていたが、帰省して、鞄もたまには洗いなさいと言われて鞄を差し出すときに陽子に見つかって、もう一つどころか二つ三つと作らされることになるのは、また後々のお話。
 
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