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14 はい、喜んで
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客間のソファで、母はただ、きゅうっとリュシルを抱き締めていた。特に抵抗することもなく、自分から何かをすることもなく、気持ち良さそうに抱き締められている小さな女の子を見つめる。
「母上。」
声を掛けると、仕方なさそうにリュシルを離す。
「ブラン子爵令嬢、お願いしたいことがあります。」
改めて向き直り、しっかりと目を見る。
「シリル殿下の侍従として、学園で過ごして頂きたい。……バジル殿がいない寮の食事が、殿下の食べられるものであるとは、思えない……。」
震えそうになる声を絞り出す。この願いは、シリルを守ることはできる。だが、リュシルは?
「はい、喜んで。」
何のためらいもなく、リュシルは答えた。潤む大きな目は、しっかりとアルベリクを見ている。
「侍女として雇うことはできないんだ。だから、リュシル・ブラン子爵令嬢は学園に通えなくなる。病気療養で休学という措置を取ろうかと考えている。いつ、そちらの身分で復学できるかも分からない。見習い侍従という形で、殿下と共に学園の授業を受けられるようにはするつもりだが、ダンスやマナーの女性の授業は受けられない。貴女の貴重な学園の時間を奪ってしまうことになる。」
「はい。」
アルベリクが、何を悩んでいるのか分からない、といった様子で小気味良い返事が返ってくる。
「病気療養となると、ご家族や知人が心配されるだろうか?お父上に事情をお話ししておいた方が良いか?」
「いえ、たぶん誰も気付きません。仕送りもありませんし、働きたいと思っていたので。働きながら授業も受けられるなんて、嬉しいです。お給料は、見習いでも少しはもらえますか?昼食は、食べなくてもいいのですけれど、エマに、仕送りできますか?」
「そうか……。」
胸につまるものを感じるアルベリクとセリーヌを他所に、リュシルは嬉しそうに話す。
「先ほどお借りしたこれらの服の代金なども、お返しできますよね。筆記用具も、欲しいのです。授業に使うと聞いたのですけど、買えなくて。ああ、私、頑張ります。」
大きく表情が動くことはないが、気持ちが高揚しているらしい。
「もちろん、侍従なのだからお給料は出る。昼食は、殿下と共に食べるのだから、お金の心配は要らない。しっかりと食べなさい。男の子の振りをするには、もう少し大きくなってもらいたいからな。筆記用具は、ついこの間学園を卒業した弟のものをあげよう。エマは、治療院を退院したらうちで住み込みで働いてもらう。どうだろうか。」
ああ、とリュシルは息を吐いた。こんなに自分に都合の良いことばかりでいいのだろうか。一生分の運を使っている気がする。
「私はもう、本当に幸せ者です。昨日から、良いことばかりです。」
アルベリクとセリーヌは、困ったように顔を見合わせて首を横に振った。とんでもないお願い事をしているのに、幸せだという子どもに、なんと言葉を返せば良いのだろう。
その時、ノックの音がして、仕立て屋が参りました、との声がした。入ってもらって、リュシルのサイズを計らせる。
「女の子の服を、作りたかったのよ……。可愛い、女の子の服を。」
セリーヌの呟く声を聞きながら。
「この子のサイズで、見習い侍従の服を作って欲しい。女の子とばれないように頼む。そして、このことは内密に。」
と、注文する。リュシルは、ただされるがままにおとなしくしていた。
「かしこまりました。襟の立ったデザインにしておきましょう。首があまり見えないように。男の方には首にこぶがありますが、女の方には無いのです。隠しましょう。」
「あとは、任せる。なるべく早く一つ作り上げてくれ。すぐに欲しい。かなり、急いでいる。料金は上乗せする。」
かしこまりました、と大急ぎで出ていく仕立て屋を見送る。
「では、私はバジル殿の所へ。」
「ええ、お疲れ様。気をつけて。」
ソファの方を向くと、すっかり疲れたリュシルがくらくらと頭を揺らしていた。セリーヌがそっと抱きとめて膝枕をし、ぽんぽんと背中を擦るのを見ながら、アルベリクは奥歯を噛みしめて出ていった。
「母上。」
声を掛けると、仕方なさそうにリュシルを離す。
「ブラン子爵令嬢、お願いしたいことがあります。」
改めて向き直り、しっかりと目を見る。
「シリル殿下の侍従として、学園で過ごして頂きたい。……バジル殿がいない寮の食事が、殿下の食べられるものであるとは、思えない……。」
震えそうになる声を絞り出す。この願いは、シリルを守ることはできる。だが、リュシルは?
「はい、喜んで。」
何のためらいもなく、リュシルは答えた。潤む大きな目は、しっかりとアルベリクを見ている。
「侍女として雇うことはできないんだ。だから、リュシル・ブラン子爵令嬢は学園に通えなくなる。病気療養で休学という措置を取ろうかと考えている。いつ、そちらの身分で復学できるかも分からない。見習い侍従という形で、殿下と共に学園の授業を受けられるようにはするつもりだが、ダンスやマナーの女性の授業は受けられない。貴女の貴重な学園の時間を奪ってしまうことになる。」
「はい。」
アルベリクが、何を悩んでいるのか分からない、といった様子で小気味良い返事が返ってくる。
「病気療養となると、ご家族や知人が心配されるだろうか?お父上に事情をお話ししておいた方が良いか?」
「いえ、たぶん誰も気付きません。仕送りもありませんし、働きたいと思っていたので。働きながら授業も受けられるなんて、嬉しいです。お給料は、見習いでも少しはもらえますか?昼食は、食べなくてもいいのですけれど、エマに、仕送りできますか?」
「そうか……。」
胸につまるものを感じるアルベリクとセリーヌを他所に、リュシルは嬉しそうに話す。
「先ほどお借りしたこれらの服の代金なども、お返しできますよね。筆記用具も、欲しいのです。授業に使うと聞いたのですけど、買えなくて。ああ、私、頑張ります。」
大きく表情が動くことはないが、気持ちが高揚しているらしい。
「もちろん、侍従なのだからお給料は出る。昼食は、殿下と共に食べるのだから、お金の心配は要らない。しっかりと食べなさい。男の子の振りをするには、もう少し大きくなってもらいたいからな。筆記用具は、ついこの間学園を卒業した弟のものをあげよう。エマは、治療院を退院したらうちで住み込みで働いてもらう。どうだろうか。」
ああ、とリュシルは息を吐いた。こんなに自分に都合の良いことばかりでいいのだろうか。一生分の運を使っている気がする。
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アルベリクとセリーヌは、困ったように顔を見合わせて首を横に振った。とんでもないお願い事をしているのに、幸せだという子どもに、なんと言葉を返せば良いのだろう。
その時、ノックの音がして、仕立て屋が参りました、との声がした。入ってもらって、リュシルのサイズを計らせる。
「女の子の服を、作りたかったのよ……。可愛い、女の子の服を。」
セリーヌの呟く声を聞きながら。
「この子のサイズで、見習い侍従の服を作って欲しい。女の子とばれないように頼む。そして、このことは内密に。」
と、注文する。リュシルは、ただされるがままにおとなしくしていた。
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「あとは、任せる。なるべく早く一つ作り上げてくれ。すぐに欲しい。かなり、急いでいる。料金は上乗せする。」
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「ええ、お疲れ様。気をつけて。」
ソファの方を向くと、すっかり疲れたリュシルがくらくらと頭を揺らしていた。セリーヌがそっと抱きとめて膝枕をし、ぽんぽんと背中を擦るのを見ながら、アルベリクは奥歯を噛みしめて出ていった。
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