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まだ、出勤前から連れてこられた保険医は、すこぶる不機嫌だった。朝食前、顔も洗わないうちからの騒ぎである。
倒れている四人を見て、無表情に突っ立っているリュシルを睨み付けた。
「何の毒を使ったんだ!」
苛々とした声が響き渡る。
その様子を見て、駆けつけた学園の警備騎士がリュシルの腕を掴んだ。
「聞くなら、こちらだ!」
トマが、拘束していた料理長と下働きの青年を警備騎士に引き渡しながら、声を張り上げる。素早くリュシルを取り戻すと、腕のなかに抱き込み、ほっとした。
「早く毒の種類を特定して解毒しないと。学園では無理だ。治療院へ応援の要請を。」
苛々としたまま、保険医が言うと、騎士が一人駆け出して行った。
騒ぎを聞いて出てきた学生や、主人が部屋で食べる朝食を取りに来た王族、高位貴族の侍従たちが集まりだしている。
「毒入りの食事を食べさせたのは、そこの第一王子の侍従だ。そいつが、私たちに食べさせたんだ!」
料理長が喚いた。たくさんの視線が、リュシルを射抜く。
「俺は、俺は、知らなかった……。知らなかったんだ……。」
腰を抜かしていた下働きの青年がぶつぶつと呟いている。トマは、リュシルの肩を抱いたまま移動して、青年のエプロンのポケットを探った。空の小瓶が入っている。取り出して、押さえていた警備騎士に見せる。
「こいつが、毒の瓶ではないか?」
「あ、あ、確かに。お前、お前が毒を入れたのか?」
「毒だなんて、知らなかった。この瓶の中味を、第一王子の食事に振りかけたら、金をくれるって、頼まれたんだ。母の治療費を払ってくれるって……。」
「毒入りの食事を食べさせたのは、第一王子の侍従だ。あの小さな侍従は死神だ!」
青年の呟くような声をかき消すように、料理長が声を張り上げる。
野次馬の視線は、リュシルに集まるばかりだ。
警備騎士が青年のポケットから出てきた瓶を保険医に渡すと、保険医は厳しい顔で、治療院の専門医に見せないと分からない、と言った。
やがて、担架がきて、ようやく四人が運び出される。体の小さいアンリはすでに虫の息だった。
「騎士団の詰め所で事情を聞かねばならない。ご同行頂けますね。」
腰を抜かしていた青年を引き摺るように連れ出し、第一王子の侍従が毒入りの食事を食べさせた、と声を張り上げ続ける料理長を引っ張って行った後、残った騎士団員はリュシルに声をかけた。
ひと言も声を発していないリュシルを不審に思ってもいる。これだけの騒ぎを引き起こしておきながら、無表情に成り行きを見守っているだけだ。落ち着きすぎている……。
「何事か?」
あまりに帰りが遅いのを不審に思ったシリルがマクシムと共に食堂へとやって来た。
騎士は、慌てて礼を取る。
「は。食堂の職員が毒に倒れたため、ただいま治療と調査を行っております。殿下の侍従が、毒を食べさせたと料理長が証言しておりますので、事情をお訊きしたいとお願いしている所でございます。」
シリルは、リュシルを見た。リュシルがそんなことをするわけがない。リュシルは、毒の入った食事を誰かに食べさせたりしない。
「あの侍従が……。」
「毒入りの食事を……。」
「毒を食べさせた……。」
廊下で広がっていくさわめき。
シリルは、トマが、守るように抱き込んでいるリュシルを引き寄せて、抱きしめた。強張った体。
「少しだけ、休ませても良いだろうか。分かりにくいかもしれないが、どうやら立っているだけで精一杯だ。私の部屋で、話をしたい。」
その体勢のまま、警備騎士に声をかける。
「は、は。では、このまま殿下のお部屋まで同行させて頂きます。」
リュシルは、きっと私を守ったのだ。シリルは万感の思いでひと言、リュシルの耳に囁いた。
「リュカ、ありがとう。」
倒れている四人を見て、無表情に突っ立っているリュシルを睨み付けた。
「何の毒を使ったんだ!」
苛々とした声が響き渡る。
その様子を見て、駆けつけた学園の警備騎士がリュシルの腕を掴んだ。
「聞くなら、こちらだ!」
トマが、拘束していた料理長と下働きの青年を警備騎士に引き渡しながら、声を張り上げる。素早くリュシルを取り戻すと、腕のなかに抱き込み、ほっとした。
「早く毒の種類を特定して解毒しないと。学園では無理だ。治療院へ応援の要請を。」
苛々としたまま、保険医が言うと、騎士が一人駆け出して行った。
騒ぎを聞いて出てきた学生や、主人が部屋で食べる朝食を取りに来た王族、高位貴族の侍従たちが集まりだしている。
「毒入りの食事を食べさせたのは、そこの第一王子の侍従だ。そいつが、私たちに食べさせたんだ!」
料理長が喚いた。たくさんの視線が、リュシルを射抜く。
「俺は、俺は、知らなかった……。知らなかったんだ……。」
腰を抜かしていた下働きの青年がぶつぶつと呟いている。トマは、リュシルの肩を抱いたまま移動して、青年のエプロンのポケットを探った。空の小瓶が入っている。取り出して、押さえていた警備騎士に見せる。
「こいつが、毒の瓶ではないか?」
「あ、あ、確かに。お前、お前が毒を入れたのか?」
「毒だなんて、知らなかった。この瓶の中味を、第一王子の食事に振りかけたら、金をくれるって、頼まれたんだ。母の治療費を払ってくれるって……。」
「毒入りの食事を食べさせたのは、第一王子の侍従だ。あの小さな侍従は死神だ!」
青年の呟くような声をかき消すように、料理長が声を張り上げる。
野次馬の視線は、リュシルに集まるばかりだ。
警備騎士が青年のポケットから出てきた瓶を保険医に渡すと、保険医は厳しい顔で、治療院の専門医に見せないと分からない、と言った。
やがて、担架がきて、ようやく四人が運び出される。体の小さいアンリはすでに虫の息だった。
「騎士団の詰め所で事情を聞かねばならない。ご同行頂けますね。」
腰を抜かしていた青年を引き摺るように連れ出し、第一王子の侍従が毒入りの食事を食べさせた、と声を張り上げ続ける料理長を引っ張って行った後、残った騎士団員はリュシルに声をかけた。
ひと言も声を発していないリュシルを不審に思ってもいる。これだけの騒ぎを引き起こしておきながら、無表情に成り行きを見守っているだけだ。落ち着きすぎている……。
「何事か?」
あまりに帰りが遅いのを不審に思ったシリルがマクシムと共に食堂へとやって来た。
騎士は、慌てて礼を取る。
「は。食堂の職員が毒に倒れたため、ただいま治療と調査を行っております。殿下の侍従が、毒を食べさせたと料理長が証言しておりますので、事情をお訊きしたいとお願いしている所でございます。」
シリルは、リュシルを見た。リュシルがそんなことをするわけがない。リュシルは、毒の入った食事を誰かに食べさせたりしない。
「あの侍従が……。」
「毒入りの食事を……。」
「毒を食べさせた……。」
廊下で広がっていくさわめき。
シリルは、トマが、守るように抱き込んでいるリュシルを引き寄せて、抱きしめた。強張った体。
「少しだけ、休ませても良いだろうか。分かりにくいかもしれないが、どうやら立っているだけで精一杯だ。私の部屋で、話をしたい。」
その体勢のまま、警備騎士に声をかける。
「は、は。では、このまま殿下のお部屋まで同行させて頂きます。」
リュシルは、きっと私を守ったのだ。シリルは万感の思いでひと言、リュシルの耳に囁いた。
「リュカ、ありがとう。」
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