【完結】第一王子と侍従令嬢の将来の夢

かずえ

文字の大きさ
20 / 61

20 ふりだしに戻る

 トマがリュシルを抱き上げて、警備騎士二人も連れ、寮のシリルの部屋に戻る。
 シリルとリュシルが並んでソファに腰を下ろし、対面に警備騎士二人が腰を下ろした。

「侍従どのに、食堂での出来事の説明をして頂きたい。」

「……。」

 リュシルは、声を出そうとしてできず、喉をひきつらせる。はっ、はっ、と呼吸が乱れ始めた。 
 隣に座っていたシリルが、慌てて背中をさする。トマの声がした。

「リュカ。落ち着け。息を吸え。ゆっくり、ゆっくり。」

 ソファの後ろに立っていたトマがリュシルの横にしゃがんで、目を合わせる。リュシルの膝を、一定のリズムでぽん、ぽん、と叩いた。

「ほら、これに合わせて、息を吐いてー、吸ってー。」

 警備騎士は、無表情で騒ぎもせずに食堂の惨状を眺めていた侍従を怪しんでいたのだが、この様子を見て少し、警戒を解いた。目の前にいつの間にか置かれていた紅茶を飲む。トリスタンは、紅茶を出した後は静かにドア前に控えていた。

「申し訳ないが、どうしても事情を聞かねばなりません。」

 つい先程までは、犯人を問い詰めるつもりで話をする予定だったが、小さな子どもが過呼吸を起こして話もできずにいるのだと思うと、いつしか優しい口調になっていた。

「私は……。」

 荒い息をようやく整えて、リュシルは説明する。

「殿下の食事を受け取りに行きました。けれど、準備されていた食事は、とても食べられるものではありませんでした。だから、替えてほしいとお願いしたのです。しかし、替えてもらえないばかりか、食べられることを証明すると言って、食堂の方々は、スープを飲んでしまわれた……。」

「食べられるものではない、というのは、どういう意味でしょう?」

 警備騎士の疑問はもっともである。しかし、リュシルにはそうとしか言いようがなく、シリル達は、リュシルの能力が明るみに出て、リュシルが危険に晒されることを恐れた。
 少しの沈黙。やがて、意を決してシリルが話し始める。

「リュカには、それが分かる。だから、私の侍従をしてもらっている。」

「それ、とは?」

「食べられるものか食べられないものかを知ることができる。」
 
「……。」

「詳しく説明することはできない。このことが知られてしまえば、リュカの身に危険が及ぶ。たまたまいつもと違う匂いがしたとか、色味がおかしかったので気付いたということにしてはもらえないだろうか?」

「それは……。」

「すべてのことは、私を守るためである。」

「だいたい、おかしいだろう?リュカが、厨房の人達に毒を食べさせて、何をどうしたいんだ?殿下に何かするのなら、毒を入れてから替えてくれというのも意味が分からない。」

 トマの言葉に、警備騎士たちは、はっとする。確かに。この侍従が犯人だとしたら、行動のつじつまが合わない。

「確かに。下働きの青年が自分がやったというようなことも言っておりましたし。では、料理長は何故あんなことを言っていたのか
……。」

 彼は、ずっと声を張り上げていた。第一王子の侍従が毒を食べさせた、と。

「怪しいのは、その料理長だ。毒入りの食事を口にしなかったのは、知ってたからだろう?」

「……とりあえず、我々は一度戻ります。ご協力頂き、ありがとうございました。」

 トマの言葉に考え込みながら、警備騎士二人は立ち上がった。侍従の仕事を思い出して立ち上がろうとしたリュシルは、盛大にふらつく。

「リュカ、よい。座っていろ。目も、閉じよ。」

 シリルが素早く抱き止めてソファへと戻す。

「何かまた聞きたいことがあれば、私を通せ。」

 警備騎士たちは、丁寧に頭を下げて出ていった。

「しばらく寮の食堂は使えまい。また、食事の心配をしなければならぬな。」

 シリルは、抱きしめたリュシルの背中をさすりながら、深く深くため息をついた。
感想 6

あなたにおすすめの小説

必要とされなくても、私はここにいます

あう
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスのもとへ嫁ぐことになったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、理想の妻になろうとも、誰かの上に立とうともしなかった。 口出ししない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 ただ静かに、そこにいるだけ。 そんな彼女の在り方は、少しずつ屋敷の空気を変えていく。 張りつめていた人々の距離はやわらぎ、日々の営みは穏やかに整いはじめる。 何かを勝ち取る物語ではない。 誰かを打ち負かす物語でもない。 それでも確かに、彼女がいることで守られていくものがある。 これは、 声高に愛を叫ばなくても伝わる想いと、 何も奪わないからこそ育っていく信頼を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。

朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

お妃候補に興味はないのですが…なぜか辞退する事が出来ません

Karamimi
恋愛
13歳の侯爵令嬢、ヴィクトリアは体が弱く、空気の綺麗な領地で静かに暮らしていた…というのは表向きの顔。実は彼女、領地の自由な生活がすっかり気に入り、両親を騙してずっと体の弱いふりをしていたのだ。 乗馬や剣の腕は一流、体も鍛えている為今では風邪一つひかない。その上非常に頭の回転が速くずる賢いヴィクトリア。 そんな彼女の元に、両親がお妃候補内定の話を持ってきたのだ。聞けば今年13歳になられたディーノ王太子殿下のお妃候補者として、ヴィクトリアが選ばれたとの事。どのお妃候補者が最も殿下の妃にふさわしいかを見極めるため、半年間王宮で生活をしなければいけないことが告げられた。 最初は抵抗していたヴィクトリアだったが、来年入学予定の面倒な貴族学院に通わなくてもいいという条件で、お妃候補者の話を受け入れたのだった。 “既にお妃には公爵令嬢のマーリン様が決まっているし、王宮では好き勝手しよう” そう決め、軽い気持ちで王宮へと向かったのだが、なぜかディーノ殿下に気に入られてしまい… 何でもありのご都合主義の、ラブコメディです。 よろしくお願いいたします。

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。