【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百七十八

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 そして。
 数日悩んだ良時は、ついに伊良に向かって口を開いた。膝枕から見上げるという、何とも甘えた体勢で。

「いの。共に城へ行ってくれるか」
「はい、殿」

 するり、と返せば、え……と驚かれる。
 何を驚いているのか、と今度は伊良が驚く番だった。

「私も、城へ上がり、話に加わらなくてはならないという所までお話は進んでしまった。けれど殿は、私に負担をかけたくないからと、何とか城へ連れて行かずに済む方策を探して悩んでいらっしゃったのでしょう?」

 でも、そんな方策は見当たらなかった。どうしても、伊良は良時と共に城へ上がらねばならぬ、と良時の答えは出たのだ。ならば伊良は、その判断に従うまで。
 もちろん伊良とて、盲目的に良時に従おうと思っている訳ではない。良時がここまで考え抜いた末での決断なれば、全面的に協力しようと考えているだけだ。
 良時は、どちらかといえば即断即決の人である。自分の手の内で何とかなる、と判断した事柄については特に、そんなに思い悩むなど有り得ない。私が責任を取る、と言って全てを引き受け、すぐに話をまとめてしまうのだから。できないと判断すれば、すっぱりと断る。その判断で救えない者が大勢出たとしても、長く思い悩み立ち止まったりはしなかった。伊良の愛しい伴侶は、そういった全てを飲み込み、それでも表に立つことができる人なのだ。救えなかった沢山の命を、決して忘れずに背負ったまま。
 少しだけ落ち込み、伊良の膝の上で反省した後は、後ろを向いていたって何かが解決するわけじゃない、としっかり顔を上げて前を向ける、そんな人。
 それは、これまでに担ってきた役割の影響もあるのかもしれない。良時は常に現場を駆け回り、すぐに決断しなくてはならない場所で、多くの務めを果たしてきた人であるから。
 それに良時は、時行ほどではなくとも、どちらかといえばせっかちなたちだった。その良時がこれほどまでに思い悩み、悶々としている……。それはつまり、伊良に関する事で悩んでいる違いない、と自惚れではなく気付くことくらいはできる。それだけの情を伊良は良時に、毎日疑いようもなくもらっていた。

「ん。まあ、そういう事だな……」

 少々不貞腐れたように良時は頷く。そうしてみると、今はもう人前ではすっかりなりを潜めた小さな四郎さまが顔を出すようで、伊良は嬉しかった。
 伊良の前では遠慮なく、四郎さまのままであって欲しい。我儘も言って欲しい。それを受け止められるくらいには、伊良の情は深く重く育っている。今更、誰に何を言われたとて、お側を離れたりしない。誰にも渡しはしない。

「参りましょう、殿。私は、決してお側を離れは致しませぬ」
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