【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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六十六

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「二の若様は、もう二年ほど前から、あまりお加減がよろしくなかったんです」

 草庵は、器用に良庵の世話を焼きながら、自分の食事もしっかりと腹に収めて口を開いた。

「そういえば……。先生たちの帰りが遅いと伊良これよしが気をもんでいる時は、大抵、二の若様のお加減がよろしくないときであった気がするな」
「そうっす。むぐ。うちの若様たちは元気いっぱいですし、夕刻にはうちの屋敷にいらっしゃることが多いんだから、先生は、何もわざわざ城にいなくても良かったんすよ、本当は。けどまあ、仕事してないって陰口叩かれるのも癪なんで、城で勉強したり研究したりしてたんす。まあ、それで、二の若様のお加減がよろしくないってのは、以前から知ってて。急にお悪くなったわけではなくて、なんとなく不調、が続いているうちに寝込む日が増えていったらしいってのも、皆言ってました。二の若様の担当の医者が、うちの先生に相談を持ちかけた頃には、布団から離れている日の方が少ないような状態になっていたとやらで」
「そうか」 

 行成が、冷静に聞き取りを進めていく。

「んぐんぐ。ぷはっ。ほら、先生も茶も飲んで。……あ、それでも、ですね。頼まれたうちの先生が、口を出し手を出ししていくうちに、ちいとは持ち直してきてるってえ話だったんですよ? でも、ちいと良くなったら、また呼ばれなくなって。それで、また悪くなってどうしようもなくなってから呼ぶんだからさ……。はあ。まあ、そんな事で、ここのところまた、何度か呼ばれて行っては遅くまで離してもらえず。昨日は、急に容体が変わったと連れていかれて夜通し戻らず。わたしゃもう、生きた心地がしませんでしたよ……」
「……良庵先生だけが呼ばれていたのか?」
「そうっす。ほら、私は、市井しせいの育ちでしょ? 城に入るだけでも毎度毎度一苦労というか。いやまあ、貴いお方のお側に近寄るなんてとんでもないってんで、先生が連れていかれた後は、先生用の研究室で待ちぼうけっす。先生用の部屋は、うちの若様方の居住区の中なんで、その辺りをうろつくことは許されてるんですけど。それでも、一人でうろうろしてたら睨まれますからね。厠は行かせてもらえるんで、まあまあ、ましです」

 そうだったのか。伊良は、驚いて草庵の話を聞いていた。良庵と草庵は、いつも共に仕事をしているとばかり思っていた。立ち入れる場所に制限がかかっていたなんて、知らなかった。
 ああ、だからか、と思い当たる。良庵は伊良に、頑なに飯原の姓を名乗らせていた。家と縁を切ることをさせなかった。それは、余四郎の側にずっといたい、と言った伊良の願いをかなえるために必要だったからなのだ。

「なるほど……。では、時行さまや四郎さまが今、どうしておられるかは……」
「行成さま。申し訳ねえです。私一人では、それも知ることができねえままでした。すぐに様子を伺いに行きたかったんですが、先生がこの通りなんで、いったん帰ってきちまった。本当に、申し訳ねえ」

 見ると、良庵はもう頭をぐらぐらと揺らして、草庵にすっかり体を預けてしまっている。草庵は、申し訳ない、と繰り返した。

「いや、仕方ない。ご苦労だった。一度しっかり休んでくれ」
「すんません。そうします」

 使用人たちの手で、素早く膳が片付けられ、布団が準備されるのを横目に、行成と伊良は伊良の部屋へと戻った。
 日が高くなってきてもなお、ずいぶんと冷え込んでいる。空は青くて澄んでいた。二の若様が亡くなったのはそんな日だった。
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