【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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九十六

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 城での、時行と行成の婚姻の披露目は、大安吉日を選んで大々的に執り行われた。男同士で婚姻などとおかしなことだ、と陰で言うのが馬鹿馬鹿しくなるほど、それはもうおおっぴらに、あっけらかんと執り行われた。領民にも立札で知らされ、町の人々は、ただ、目出度い目出度いと大騒ぎした。男同士だということは、たみの間で大した話題にもならなかったらしい。たみさんからの情報だ。まあ、そういう人もいるさね、で終いだったようだ。
 跡継ぎはどうするんだなどと小難しい話を始めた者も、婚姻を発表した若様が三男坊だったことを思い出して、何だ、目出度いじゃないかとすぐに宗旨替えしたらしい。現金なもんさね、とたみさんは笑った。

「あたしもね。先生と草庵先生も早く言ってくれりゃよかったのに、なんて思ったりしてね。ほら、もともと、四郎さまと伊良ちゃんが婚約者だってのは当たり前のことだって思ってたんだからさ。先生たちも早く言ってくれりゃ、なんて考えたけど、まあ、あの時の先生たちの真剣な様子を見ていなかったら、何言ってんだい、嫁を迎えるのが面倒くさいからっていい加減なこと言って誤魔化して、って思ったかもしれないやね。あたしも現金なもんだよ」
「うん。そっか」
「伊良ちゃんは知ってたのかい?」
「ん?」
「先生たちの仲だよ。ああ、いや、伊良ちゃんは知らないか。意地の悪い大人たちと違って、知っていたらきっとあたしに教えてくれてるはずだものねえ」
「ん? んん?」
「いいんだよ、いいんだよ、伊良ちゃん。伊良ちゃんは先生たちの息子としてこのまま立派な医者になって……あれ? でも、やっぱりこのままじゃこの家に子どもは増えないんだねえ。ちょっとだけ、つまらないねえ」
「たみ」

 相変わらずたみは滔々としゃべるので、伊良には、口を挟む間も、何ならたみが話していることについて深く考える間もない。代わりというように、伊良の側にいつも付いてくれている護衛の藤兵衛が口を挟んだ。

「人聞きの悪いことを言うものじゃない。良庵先生と草庵が言わずにいることを軽々しく口にできるわけないだろう」
「そりゃあまあそうですけどね、藤兵衛さま。やんわりと教えて下すったって罰は当たらないでしょうよ」
「うちの先生に良い嫁をと意気込んでいるそなたに、滅多なことは言えん。それに、後々の心配などそなたには不要だ。四郎さまが婚姻できる歳になる頃には、そなたは草葉の陰だ」

 藤兵衛が笑い含みに言う。そんなこと、本当は思っちゃいない時の言い方だ。

「まああ! 失礼なお方だ。あたしゃ、伊良ちゃんの晴れ姿を見るまでは、草葉の陰になぞ隠れやしませんからね」
「おお、おお、その意気その意気。その時は、きっとまた、この屋敷で宴をするんだろうからな」
「お任せなさい。このたみが、立派に取り仕切ってあげますからね」
「頼もしい」
「藤兵衛さまもですよ」
「ん?」
「藤兵衛さまの宴も、あたしが立派に取り仕切りますからとっとと良い娘を捕まえて……あ、いや、これを言っちゃあ、またよろしくないんでござんした」
「はは。成長したな、たみ」
「ふん。左近さまとうめの婚儀は早々に準備しますからね」
「ん?」
「んん?」

 何だか今、また伊良の知らなかった話が出てきたような……。
 藤兵衛も驚いた顔をしているから、知らなかったのは伊良だけではなかったらしい。
 とりあえず、目出度いことが続くのは嬉しいことだ。 
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