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九十七
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「まあ、なんだ。言ったところで……という気がせんでもないですけど」
「だな。子どもの戯れ言と言われて終いかと」
藤兵衛と正平が揃って言った。
「子どもではない。元服ができていないだけだ」
「それを子どもと……ああ、いや、何でもないです」
ぎろりと余四郎に睨まれた藤兵衛が言葉を途中で止めた。別に、恐れた訳ではないだろう。伊良に抱きついたまま凄んでいる余四郎が、恐ろしい訳がない。
藤兵衛は、四郎さまは拗ねると後がめんどくさい、と考えているに違いなかった。そういう顔をしている。
四郎さまのそういう所が子どもらしくて可愛い、と考えている伊良も、もちろん言わない。心の中で呟いてにこにこと笑うだけだ。四郎を子ども扱いするのはご法度である。
「急ぎ元服をしてから言えば、子どもの戯れ言ではなくなるか?」
「元服前に婚姻したことで、無効にされそうな気もいたします」
「元服と同時に婚姻もした事にする」
「それなら、まあ、前例がないこともない……」
藤兵衛が、うーんと考えながら呟く。
今のような太平の世になる前は、本当に小さな頃に婚姻を結ばされていた例もあったと聞く。まだ十にもならぬ頃に、急ぎ元服、そして婚姻となる事が多々あったとか。相手がひどく歳上であったり歳下であったりする事も珍しいことではなかった。それは、婚姻が、心と体を結びつけるものではなく、家と家を結びつけるためのものだったからだ。
今も、そのような意味合いを持った婚姻は多々見かけるが、流石に、年端もいかぬ者が婚姻した事例は藩内では聞いていないように思う。
「それでいく」
名案だと四郎は頷いたが、伊良には気になることがあった。
「でも、喪中……」
時道さまがお亡くなりになったのだから、しばらくは目出度い行事はできないのではないか。
時実さまが亡くなった頃に元服の予定だった行成の弟、俊行の元服の儀がしばらく控えられた事を、伊良は覚えている。その頃に予定されていた様々な祝い事も、少しだけ後ろにずらされていた。
「子どもの私は、まだこの話を知らない事になっている。更に、城でも、重臣たちしかまだ知らん」
「なるほど……」
「つまり、良庵も知らん。烏帽子親をやっても知らなかったで済む」
「済みますかね……」
「済む」
「いや……」
「済む」
「四郎さま。先生が困った事になるようなことだけは、どうか……」
伊良が眉を下げて言えば、むむう、と四郎は口を尖らせた。なお、未だ離れる気はないらしい。
滅多にお願い事をしない伊良のお願いに四郎は弱かった。
「もう少し、考えてみる」
「ありがとうございます」
「だな。子どもの戯れ言と言われて終いかと」
藤兵衛と正平が揃って言った。
「子どもではない。元服ができていないだけだ」
「それを子どもと……ああ、いや、何でもないです」
ぎろりと余四郎に睨まれた藤兵衛が言葉を途中で止めた。別に、恐れた訳ではないだろう。伊良に抱きついたまま凄んでいる余四郎が、恐ろしい訳がない。
藤兵衛は、四郎さまは拗ねると後がめんどくさい、と考えているに違いなかった。そういう顔をしている。
四郎さまのそういう所が子どもらしくて可愛い、と考えている伊良も、もちろん言わない。心の中で呟いてにこにこと笑うだけだ。四郎を子ども扱いするのはご法度である。
「急ぎ元服をしてから言えば、子どもの戯れ言ではなくなるか?」
「元服前に婚姻したことで、無効にされそうな気もいたします」
「元服と同時に婚姻もした事にする」
「それなら、まあ、前例がないこともない……」
藤兵衛が、うーんと考えながら呟く。
今のような太平の世になる前は、本当に小さな頃に婚姻を結ばされていた例もあったと聞く。まだ十にもならぬ頃に、急ぎ元服、そして婚姻となる事が多々あったとか。相手がひどく歳上であったり歳下であったりする事も珍しいことではなかった。それは、婚姻が、心と体を結びつけるものではなく、家と家を結びつけるためのものだったからだ。
今も、そのような意味合いを持った婚姻は多々見かけるが、流石に、年端もいかぬ者が婚姻した事例は藩内では聞いていないように思う。
「それでいく」
名案だと四郎は頷いたが、伊良には気になることがあった。
「でも、喪中……」
時道さまがお亡くなりになったのだから、しばらくは目出度い行事はできないのではないか。
時実さまが亡くなった頃に元服の予定だった行成の弟、俊行の元服の儀がしばらく控えられた事を、伊良は覚えている。その頃に予定されていた様々な祝い事も、少しだけ後ろにずらされていた。
「子どもの私は、まだこの話を知らない事になっている。更に、城でも、重臣たちしかまだ知らん」
「なるほど……」
「つまり、良庵も知らん。烏帽子親をやっても知らなかったで済む」
「済みますかね……」
「済む」
「いや……」
「済む」
「四郎さま。先生が困った事になるようなことだけは、どうか……」
伊良が眉を下げて言えば、むむう、と四郎は口を尖らせた。なお、未だ離れる気はないらしい。
滅多にお願い事をしない伊良のお願いに四郎は弱かった。
「もう少し、考えてみる」
「ありがとうございます」
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