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百
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誰何されたりはしつつも、伊良は無事にその場へたどり着いた。ここまで、迷いなく急ぎ足で進んできた吉之助が、流石に、部屋の前でふうと深呼吸をする。草庵とは城へ着いてすぐに別れ、藤兵衛は護衛の待機部屋だという場所にとどめられたので、今は吉之助と二人だ。二人で廊下に膝をつき息を整えると、吉之助が、失礼いたします、と声を上げた。
吉之助は、中からの返事を待たずに静かに戸を開ける。
開いた戸の向こう側、余四郎はすでに髪を切って整えた後であった。開いた戸の方へ顔を向けた余四郎と目が合い、伊良はほうと見惚れる。それは見事な若武者であった。
なんと、立派な……!
伊良に気付いた余四郎が、にこりといつもの顔で笑った。伊良は、はた、と我に返る。いけない。挨拶が遅れてしまった。
「……伊良、参りました」
青池と名乗るか、それとも、すでに三々九度をしているのだから玉乃川と名乗るべきかを迷って、咄嗟に名だけを述べる。伊良は、頭を下げつつ焦った。ざわ、と揺れる人の気配に気付いたからだ。伊良の目には、凛々しい余四郎しか映っていなかったが、立ち合いの人間が他にもたくさんいるのであった。
けれど。
「良く来た。どうだ?」
屈託のない、余四郎の声がする。伊良は、ふっと息を吐いて顔を上げた。どうしても頬が緩むのを止められない。きっと自分は締まりのない顔をしていることだろう。
「ご立派です。素敵です!」
なにも遠慮することはない。なにせ伊良は、この立派な方の伴侶なので。
「そうか」
余四郎も、益々にこにこと頬を緩めている。
「伊良。こちらへ来い」
二人でにこにこと見つめ合っていると、行成の声がした。見ると、笑いを堪えたような顔で伊良を手招きしていた。しまった。儀式を中断させてしまったか。けれど、行成の隣に座る時行も笑っていたので、伊良は気にしないことにした。四郎さまが喜んでくれた。それでいい。
伊良は、招かれるまま行成の隣に腰を下ろす。それは、玉乃川家の親族席だ。様々な思惑の入り混じったたくさんの視線を受けて、しかし伊良は、もうそこに座ることに迷いはなかった。
ざわざわと揺れる人々に気後れすることなく前を向けるのは、自分たちも三々九度をしたいとねだってくれた四郎のおかげだ。
「揃ったようだ。続けよう」
時行が立ち上がり、余四郎の元へ歩く。時行は、余四郎に烏帽子を丁寧にかぶせると、厳かに言った。
「本日より良時と名乗るがよい」
「はっ。名に恥じぬよう努めます」
その立派な姿に、伊良は胸がいっぱいであった。
吉之助は、中からの返事を待たずに静かに戸を開ける。
開いた戸の向こう側、余四郎はすでに髪を切って整えた後であった。開いた戸の方へ顔を向けた余四郎と目が合い、伊良はほうと見惚れる。それは見事な若武者であった。
なんと、立派な……!
伊良に気付いた余四郎が、にこりといつもの顔で笑った。伊良は、はた、と我に返る。いけない。挨拶が遅れてしまった。
「……伊良、参りました」
青池と名乗るか、それとも、すでに三々九度をしているのだから玉乃川と名乗るべきかを迷って、咄嗟に名だけを述べる。伊良は、頭を下げつつ焦った。ざわ、と揺れる人の気配に気付いたからだ。伊良の目には、凛々しい余四郎しか映っていなかったが、立ち合いの人間が他にもたくさんいるのであった。
けれど。
「良く来た。どうだ?」
屈託のない、余四郎の声がする。伊良は、ふっと息を吐いて顔を上げた。どうしても頬が緩むのを止められない。きっと自分は締まりのない顔をしていることだろう。
「ご立派です。素敵です!」
なにも遠慮することはない。なにせ伊良は、この立派な方の伴侶なので。
「そうか」
余四郎も、益々にこにこと頬を緩めている。
「伊良。こちらへ来い」
二人でにこにこと見つめ合っていると、行成の声がした。見ると、笑いを堪えたような顔で伊良を手招きしていた。しまった。儀式を中断させてしまったか。けれど、行成の隣に座る時行も笑っていたので、伊良は気にしないことにした。四郎さまが喜んでくれた。それでいい。
伊良は、招かれるまま行成の隣に腰を下ろす。それは、玉乃川家の親族席だ。様々な思惑の入り混じったたくさんの視線を受けて、しかし伊良は、もうそこに座ることに迷いはなかった。
ざわざわと揺れる人々に気後れすることなく前を向けるのは、自分たちも三々九度をしたいとねだってくれた四郎のおかげだ。
「揃ったようだ。続けよう」
時行が立ち上がり、余四郎の元へ歩く。時行は、余四郎に烏帽子を丁寧にかぶせると、厳かに言った。
「本日より良時と名乗るがよい」
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