【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百一

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 伊良これよしは、立派な姿の余四郎改め良時よしときと並んで宴会場へ入った。儀式のへは入れずに待機していた家臣たちが、良時の姿を認めて、おおとどよめく。立派な若武者ぶりに感じ入ったのだろう。隣の伊良まで誇らしい気分だった。
 しかし、その後のざわめきに身を固くする。

「なぜ……」
「いつ……」
「誰が……」

 ぽつぽつと聞こえてくるのは、伊良を意図的にこの場から外そうとしたことを示す言葉ばかりだったのだ。
 だが、だからといって伊良が歩みを止めることはもう無かった。

「伊良」

 良時が差し出した手も迷わず取って、時行ときゆき行成ゆきなり、良時の隣に迷わず並び立つ。座布団は上座に三つしか準備されていなかったが、すました顔の吉之助きちのすけがすぐに座布団を抱えてやってきた。吉之助は行成と目配せをして頭を下げ、座布団を置くと下がっていった。
 急なことであったのに、行成さまはここまで手を回してくださったのか、と伊良は感激した。
 四人が何食わぬ顔で腰を下ろすと、部屋には膳が運び込まれてきた。上座に膳を運んできたのは、ずいぶんと幼い、良時と同じくらいかそれより少し下かと見られるくらいの娘たちである。膳を持った三人の娘は、城の女中のお仕着せではなく、ずいぶんと質の良い着物を着ていた。髪は綺麗に結い上げられ、豪奢なかんざしが頭を彩っている。慣れない様子でしずしずと膳を運んできた娘たちは、上座に座る四人の前ではたと動きを止め、困った顔を見合わせた。
 膳は三つ。上座に座るのは四人。誰の前に膳を置けばよいのか困ってしまったのであろう。武家では、成長した男女はあまり顔を合わせることなく育つ。顔を合わせる機会がないので、若様がどの方か咄嗟に判断がつかなかったに違いない。
 伊良が、どう助け舟を出そうかと思案していると、一人の家臣がずいと前へ出てきた。

奈美なみ。こちらが、若君である。若様、これなるは我が娘、奈美でございます」

 一人の娘が、良時の前に膳を置いて手をついた。

川野かわの奈美にございます」

 他にも二人、家臣が前に出てくる。

三津みつ。お前もご挨拶なさい」
佐登さと。お前も」

 残り二人の娘も、慌てて膳を良時の前に置いて手をついた。
 だが、二人が声を上げる前に良時が声を上げる。

「女中の挨拶など不要」
「え? あ……」
「あ、いえ。これらは女中ではなく」
「黙れ。今は女中の仕事をしておるのだから女中であろう? 一人の前に膳を三つも置くような役立たずを、よくも三人も揃えたものだ。不快な。私のせっかくの祝いの席を台無しにする気か」
「いえ、まさか。そんな訳では……」
「下がれ。無礼者ども」

 少し手厳しい物言いだが、良時が正しい。良時の、一生一度の祝いの席だ。台無しにされてなるものか。これはどうにも助けようがなさそうだと、伊良は黙って見守ることにした。若様が下がれと言ったのだから下がるだろう。その後で、膳の位置を直すくらいは私がやろう。

「若様」

 だが、家臣たちも娘たちも下がらないまま一人が声を上げた。娘が川野奈美と名乗っていた者だ。

「この度は、元服おめでとうございます」
「……」

 良時の不快そうな様子に気付かないのか気付かないふりなのか、川野はとうとうと口上を述べ始める。頭を下げているから、気付かないのだろうか。是非、気付いてほしいものだ。時行さまと良時さまは不快そうに顔をしかめただけだけれど、行成さまが、人を凍らせそうな目付きで見下ろしている。

「つきましては、元服の祝いに嫁候補の娘たちとの顔合わせの場を設けようと家臣一同話し合い、こうして膳を運ばせた次第にございます。不慣れは平にご容赦を」

 は? 嫁候補?
 
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