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百三十二
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「いいか、こた」
時行は、一つだけ見えている目をしっかりと行成に合わせながら言う。
「私は、二人ともに生き残れる選択をしたのだ。何も間違えてはおらぬ」
「……」
「あそこでもし私が私の命を大事にして引いておれば、こたの命はなかった」
「……ご迷惑、を」
「迷惑をかけてきたのは、襲撃してきた賊だ。そして、その賊を裏で操っておる奸物どもだ。我らには何の非もない。よいな」
「は、い……」
共に話を聞いていた伊良も深く頷く。本当に、その通りだ。大事な主を害しようとするなど、訳が分からぬ。
「こた。こたは私がいなくなったらなんとする?」
ひっと行成の喉が鳴った。取り繕う余裕などないのだろう。止まりかけた涙がまた、ぶわりと目元に盛り上がった。何か言おうとして言葉にならなかった行成は、ふるふると必死に首を横に振りながら時行にとりすがった。
「うん。そうか、そうか。痛たたた」
深く笑み過ぎたのだろう。また、傷を動かしてしまった時行が右頬を押さえてため息をつく。
「ふう、こりゃ参った。いや、まあ、上手くかわせなかった私の失態だ。甘んじて受けよう」
「か、軽口を……。一両日も目覚めず、私が……私たちがどれほど心配したか」
「全くです」
思わず口を挟んだ伊良を、時行はちらりと見る。
「それは……うん。まあ、すまなかった」
大いに反省してほしい。もう数日目覚めなければ、行成さまの命も危うかったのだ。心労のあまり食事ものどを通らず、寝ることもできずに緩やかにその身を削っていたのだから。
知らず、伊良の目にも涙が浮かぶ。本当に、ご無事でよかった。本当に……。
「ああ。ああ、伊良。泣くな。お前を泣かせたなどと四郎に知れたら、どんなに叱られることか」
「し、叱られたら、よ、よいのです。こんな、こんな無茶を」
「ああ、うん。そうだな……。私は……甘かったな。……甘かった」
怪しい動きを見せる輩に、それでも決定的な何かをしたわけではないのだから、と厳しい態度を取ることができなかったのは、時行だけの責任ではない。行成と良時、伊良も時には加わり話し合いを重ねて決めたことだ。けれど、意見が割れた際に最終的な判断を下していたのは時行であった。
「四郎なら」
時行は、にっと笑う。傷が痛むのか控えめな笑みであったが、その言葉は力強かった。
「四郎なら、上手くやるさ。私などより、余程な」
何度も、あちらこちらで聞いたことのある言葉が伊良の脳裏に浮かぶ。良時さまこそが将の器だ、と。
良時さまはそれを厭うて、外に飛び出していたけれど、でも。
評判は高まるばかりだった。
「まあ、表に立つのが四郎になるだけだ。私たちとしては何も変わらぬ」
結局は、今までのように四人で相談して領地を治めることに変わりはない。
表に立つ者が苛烈になった分、大きく動いた者達は相応の報いを受けるのだろう。
「伊良、すまない」
そういえば、良時さまにも謝られた気がする。何故みんな、伊良に謝るのか。
首を傾げる伊良の頭に時行の大きな手が乗り、ぽんぽんと動いた。
「四郎を頼む」
そんなの、当たり前のことだ。
伊良は、四郎さまの、良時さまの唯一の伴侶であるのだから。
時行は、一つだけ見えている目をしっかりと行成に合わせながら言う。
「私は、二人ともに生き残れる選択をしたのだ。何も間違えてはおらぬ」
「……」
「あそこでもし私が私の命を大事にして引いておれば、こたの命はなかった」
「……ご迷惑、を」
「迷惑をかけてきたのは、襲撃してきた賊だ。そして、その賊を裏で操っておる奸物どもだ。我らには何の非もない。よいな」
「は、い……」
共に話を聞いていた伊良も深く頷く。本当に、その通りだ。大事な主を害しようとするなど、訳が分からぬ。
「こた。こたは私がいなくなったらなんとする?」
ひっと行成の喉が鳴った。取り繕う余裕などないのだろう。止まりかけた涙がまた、ぶわりと目元に盛り上がった。何か言おうとして言葉にならなかった行成は、ふるふると必死に首を横に振りながら時行にとりすがった。
「うん。そうか、そうか。痛たたた」
深く笑み過ぎたのだろう。また、傷を動かしてしまった時行が右頬を押さえてため息をつく。
「ふう、こりゃ参った。いや、まあ、上手くかわせなかった私の失態だ。甘んじて受けよう」
「か、軽口を……。一両日も目覚めず、私が……私たちがどれほど心配したか」
「全くです」
思わず口を挟んだ伊良を、時行はちらりと見る。
「それは……うん。まあ、すまなかった」
大いに反省してほしい。もう数日目覚めなければ、行成さまの命も危うかったのだ。心労のあまり食事ものどを通らず、寝ることもできずに緩やかにその身を削っていたのだから。
知らず、伊良の目にも涙が浮かぶ。本当に、ご無事でよかった。本当に……。
「ああ。ああ、伊良。泣くな。お前を泣かせたなどと四郎に知れたら、どんなに叱られることか」
「し、叱られたら、よ、よいのです。こんな、こんな無茶を」
「ああ、うん。そうだな……。私は……甘かったな。……甘かった」
怪しい動きを見せる輩に、それでも決定的な何かをしたわけではないのだから、と厳しい態度を取ることができなかったのは、時行だけの責任ではない。行成と良時、伊良も時には加わり話し合いを重ねて決めたことだ。けれど、意見が割れた際に最終的な判断を下していたのは時行であった。
「四郎なら」
時行は、にっと笑う。傷が痛むのか控えめな笑みであったが、その言葉は力強かった。
「四郎なら、上手くやるさ。私などより、余程な」
何度も、あちらこちらで聞いたことのある言葉が伊良の脳裏に浮かぶ。良時さまこそが将の器だ、と。
良時さまはそれを厭うて、外に飛び出していたけれど、でも。
評判は高まるばかりだった。
「まあ、表に立つのが四郎になるだけだ。私たちとしては何も変わらぬ」
結局は、今までのように四人で相談して領地を治めることに変わりはない。
表に立つ者が苛烈になった分、大きく動いた者達は相応の報いを受けるのだろう。
「伊良、すまない」
そういえば、良時さまにも謝られた気がする。何故みんな、伊良に謝るのか。
首を傾げる伊良の頭に時行の大きな手が乗り、ぽんぽんと動いた。
「四郎を頼む」
そんなの、当たり前のことだ。
伊良は、四郎さまの、良時さまの唯一の伴侶であるのだから。
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