【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百三十五

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「そんなにたくさんの謹慎者を出しては、御用が滞ります」
「む?」

 やんわりと言えば、良時はむっと口を尖らせて思案顔になる。
 そうしていると、先ほど容赦のない様子で室内の皆の口を閉じさせた方だとは思えない。……可愛らしい。
 不謹慎なことを伊良が考えていると、いや? と良時の声がした。
 はっ、いけない。つい、良時さまに見惚れていた。話に集中しなくては。

「いや……? ですか?」
「ああ。いや、だ。特に滞ってはおらん」
「ん? んん? んー?」

 髷を切った二人を謹慎させてから三日が経ったのであったか。確かに、どこからも苦情は届いておらぬ。
 ……では、良いのか? 
 いや、そんな訳がない。どこかに、その者達の肩代わりをしてくれている者がいないとおかしい。そうでないなら、その者達は何をしに登城していたというのだ?

「あれ?」
「はは」

 首を傾げる伊良を優しい目で見て、良時は軽い笑い声を上げた。

「まあよい。たまたま用向きが立て込んでおらなんだのであろ、多分。そういう事にしておこう。だが、うん、そうだな。これだけの人数を一度に謹慎とすれば、流石に多少の支障は出そうじゃ。ふむ。なれば交代で謹慎とせい。どうじゃ?」
「はい。それが良いかと」

 伊良は良時の笑顔につられ笑顔で答える。それから、妙に静かな室内を見渡した。

「あの」

 随分と緊迫した空気に面食らって、おずおずと声を上げる。
 髷を切る羽目になる者が減るように取りなしたつもりだったのだが、何故皆、このように息を詰めているのか。

「そんな訳だ。先ほど声を上げた者達は別室で謹慎する順番を話し合って決めてきなさい。もちろん、扶持は減額とする」
「ふ、扶持を減額……?」
「はい。謹慎中の扶持は出しません」

 当たり前だ。働かぬ者食うべからず。

「そ、そんな……」
「そのような権限が……」

 伊良の言葉に、ぶつぶつと呟きが返ってきた。
 やはり、私の言葉には動かぬか、と伊良は眉を下げる。先ほど良時が正平に、無礼者をつまみ出せと言っていたけれど、この大勢の前でつまみ出されるのはあまりにも見栄えが悪かろうと思い、自ら出て行けるように提案したつもりであったのだが。

「聞こえぬか。早うせい」

 また、厳しい態度に戻った良時が言った。
 正平が、襟首をつかんでは一人、また一人と立たせていく。
 あーあ。やはりそうなってしまった。

「よいか。伊良の申すは私の申すのと同じと心得よ。伊良は、私の唯一無二の伴侶である。無礼を働くこと、決して許さぬ」
「ははぁ」

 立たされ、部屋を出される者達以外のすべての頭が、揃った返事と共に下がる。
 こうして、香山藩で新しい藩主の治世がはじまった。
 
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