【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百五十五

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 伊良は、一人づつ丁寧に話を聞いた。

「伊良さまがやるような仕事では……」

 と、眉をしかめた藤兵衛も、結局は伊良に協力して人々を並ばせ、徳丸は筆と紙を持って記録を取ってくれた。
 待つ間に炊き出しの鍋が届き、人々は温かい食べ物に舌鼓をうった。腹が膨れて、うとうとと眠ってしまう者もいた。伊良は、飢えた後の温かい食べ物のありがたみをよく知っていたので、そんな人々を、良かったなと笑顔で見守った。
 年端の行かぬ者には、もう少し大きくなって、よく勉強してから協力してほしい、と優しく諭し、親のいない子どもの世話をしてくれている神社に預けた。神社には、世話になる礼だとして、定期的に食べ物や着物を届けるよう手配した。着物はもちろん、新しいものを仕立てるような余裕はないので、古着屋からの調達である。それでも充分だと、神社の者は子どもたちを喜んで預かってくれた。
 そういった場がいくつかあるのだと聞いた伊良は、届けを出してくれたら食べ物や古着を融通しよう、とのお触れを出す。そこには、いくらでも渡せるほどの余裕はないということも正直に書いてあった。すでに、城には金がない、と伊良が浪人たちに話していたことは町に広まっていたので、嘘を吐いて食べ物をかすめ取ろうとたくらむような者は、伊良たちが気付く間もなく町の人々の手で裁かれる事となる。うちらのことを考えて、自分らの食べ物や着るものを節約してくれている殿様とご伴侶様をこれ以上困らせちゃいけねえ、というのが、町の人々の合言葉となっていたのだ。
 力仕事のできそうな者達は、そのまま採用となった。現地で採用するより移動の費用などは掛かるが、確実に人手があって作業できるので作業の日数が少なくて済み、その分費用は抑えられる。修繕の役に就いていた職人や役人は、人手が増えることを大いに喜んだ。元々、訴えの数に対して修繕ができる人手が足りず、休む間もなく危険も大きいと敬遠されていた勤めだったのだ。人手が増えれば交代で休むことができ、専門でやっていれば次第に技術も上がって手早くなってくる。危険な場に足を運び修繕をしてくれる職人たちは、次第に男児たちの憧れの職業の一つとなった。
 少しだけ混じっていた女たちと力仕事に向かぬような体格の者には、この仕事はあちらこちらへ赴かねばならぬ、かなり力もいるのでそなたらには無理があろうと言って聞かせた。それでも、もうこれしか食っていく道はないのだと泣く人々の為に伊良は、口入屋に声を掛け、どうか仕事を探してやってはくれぬか、と頭を下げる。伊良の心根にいたく感動した口入屋が東奔西走し、それぞれに仕事を斡旋してくれた。
 評判は広がり、門の前には毎日人が集まるようになった。伊良は、自分の給金が続く限りは、と炊き出しを行い、話を丁寧に聞いた。
 いつまで続けられるか、との伊良の不安をよそに、訪ねてくる人数は次第に減ってくる。町の者が伊良を見習い、互いに手を差し伸べ合うようになったのである。
 そうして、伊良と、伊良のやりたい事を後押しし支える殿様、良時の評判が上がるにつれ、謹慎を言い渡されている者の屋敷へ足を運ぶ商人や職人たちはほとんどいなくなってしまったようであった。
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