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百五十七
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四人でのんびりと朝餉を取り、いつも通りの少々質素な仕事用の着物のまま謁見室に赴く。すでに部屋にいた相馬が、低く頭を垂れていた。髷を落とされた後、何故か髪結いがつかまらぬ為ざんばら髪のままである、と聞いていた頭は、頭巾で覆われている。そういえば、いつぞや、様子を見に行ってくれた庭番の弥助が笑いながら言っていた。頭巾をかぶって屋敷の奥に引っ込んでいるのだと。どうやら、髪結いたちは今も、町の者達の協力を得て逃げ回っているようである。
相馬の隣には、伊良たちより年が上かと見える者が一人、同じく頭を下げていた。謁見の届けにあった名によれば、相馬成典。相馬典膳の嫡男である。父親の典膳がいつまでも引退せぬので、三十近くなってもまだ、相馬家の跡取りという身分の男だ。こちらの髷は、何とか結われていた。どうやってか、髪結いを都合したのであろうか。それとも、見よう見まねで誰か家の者が形を作ったのであろうか。どうでも良いことであるが、少々気になってしまう。髪結いがつかまらぬとは大事だな、と伊良はしみじみ思った。
その後ろには、華美な着物と髪飾りを付けた娘二人の姿もあった。謁見の届けに他二名とあったのは、娘たちのことであったようだ。
「面を上げよ」
「は。……は? と、ときゆき、さま?」
良時の声に躊躇わず頭を上げた相馬典膳は、前を向くなり驚きの声を上げる。
「久しいな、相馬。息災であったか」
良時は、驚く典膳に気付かぬふりで話を続けた。
「あ、は。はは」
典膳は、また軽く頭を下げた。
「風聞を聞き及んでおるぞ。芸者遊びに浪人集め、はては刀の収集にも余念がないとか? そなた、謹慎、という言葉の意味をはき違えてはおらぬか。屋敷から出ずば何をしてもよい、という意味ではないぞ?」
「は。いえ、私めはそのような……」
「黙れ。調べはついておる」
「……町雀どものさえずりを真に受けるとは、嘆かわしい。殿は、生まれ育ちから仕方ないこととは申せ、どうにも市井に寄りすぎるきらいがあると存ずる。……益体もない風聞に惑わされることなく領地を安堵されますよう進言申し上げます」
一瞬、言葉に詰まった典膳は、それでもその後の言葉を続けた。
口の減らない事だ。伊良は、いっそ感心してその様子を見ていた。
良時に動揺はない。
「私も我が伴侶も、ついでに申せば、先代藩主とその伴侶も、益体もない風聞に惑わされたことなど一度もない。なあ、兄上」
「ああ、もちろん」
良時と伊良の一段下に控えた時行も、朗らかに答える。
「私たちがそんな愚行を犯したことがあったと言うなら、具体的に申せ。聞こう」
「……わ、私は。……賊、そう、賊が出たと殿が申された件を憂い、国境の守りを固めるべく、う、腕の立つ浪人を集め……わ、私は、藩のためを思えばこそ、謹慎中も藩のためにできることを」
「見上げた忠誠心だな」
「ははっ」
どこか呆れたように良時は言ったが、相馬典膳は額面通りに受け取ったらしい。声に力が戻って、また頭を深く下げた。
相馬の隣には、伊良たちより年が上かと見える者が一人、同じく頭を下げていた。謁見の届けにあった名によれば、相馬成典。相馬典膳の嫡男である。父親の典膳がいつまでも引退せぬので、三十近くなってもまだ、相馬家の跡取りという身分の男だ。こちらの髷は、何とか結われていた。どうやってか、髪結いを都合したのであろうか。それとも、見よう見まねで誰か家の者が形を作ったのであろうか。どうでも良いことであるが、少々気になってしまう。髪結いがつかまらぬとは大事だな、と伊良はしみじみ思った。
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良時は、驚く典膳に気付かぬふりで話を続けた。
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典膳は、また軽く頭を下げた。
「風聞を聞き及んでおるぞ。芸者遊びに浪人集め、はては刀の収集にも余念がないとか? そなた、謹慎、という言葉の意味をはき違えてはおらぬか。屋敷から出ずば何をしてもよい、という意味ではないぞ?」
「は。いえ、私めはそのような……」
「黙れ。調べはついておる」
「……町雀どものさえずりを真に受けるとは、嘆かわしい。殿は、生まれ育ちから仕方ないこととは申せ、どうにも市井に寄りすぎるきらいがあると存ずる。……益体もない風聞に惑わされることなく領地を安堵されますよう進言申し上げます」
一瞬、言葉に詰まった典膳は、それでもその後の言葉を続けた。
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良時に動揺はない。
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