【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
15 / 1,325
第一章 初めての幸せ

15 成人 3

しおりを挟む
 殺せ、殺せ、と声がする。途切れ途切れに、映像がうつる。
 緋色ひいろの写真。
 大好き。
 殺せ、殺せ。

 頭が痛くて、目が開けられない。戦争は終わったのに、指令が届き始めた。強制力はない程度? それとも、俺が壊れたから大丈夫なのか?
 ああ、地獄からお迎えが。

成人なるひと。大丈夫か? そろそろご飯を食べないと、元気になれないぞ」

 緋色ひいろの声がする。
 頭の中の声が、小さくなる。
 成人なるひと。そう、そう呼んでくれたら、頭の中の、声が……。
 目を開けられないでいると、口に柔らかいものが押し当てられ、水が入ってきた。
 おいしい。
 こくり、と飲むともう一回。
 おいしい。
 唇が気持ちいい。
 頭痛が止んで、目を開ける。
 心配そうな緋色ひいろの顔が、すぐ側にあった。
 ひいろ。
 ほっとしたように、緋色ひいろが少し笑う。

「ずいぶん苦しそうだったからな。水はもう少し飲めるか? 俺は、今から出掛けなくちゃならない」

 みず。
 緋色ひいろが口に水を含んで、俺の唇に唇を押し付けた。水が流れてくる。
 何これ。おいしい。気持ちいい。

「……」

 何かを言わなくてはならない。おいしい? 気持ちいい? 出かけないで? もっと、欲しい?
 違う。
 何だろう。

「では、行ってくる。生松いくまつ、後は頼んだ」
「はい、お気をつけください。常陸丸ひたちまるさまも」
成人なるひと。飴、持ってろ。お前、元気無さすぎだ。帰ってきたら、口に入れてやるからな」

 常陸丸ひたちまるが、右手に飴を握らせてくれた。
 ああ、飴だ。食べたいな。早く、帰ってきて。
 ……違う。

 緋色ひいろ常陸丸ひたちまるが出ていった。窓の外が騒がしい。たくさんの人の気配。そこから。その辺りから、何か。

 殺せ!
 間違いようのない指令。
 体が跳ね上がる。窓へ勢いを付けて突っ込む。三階? 指令を出しているのは、誰だ。マイクの前に立つ緋色ひいろと、その横に帝国軍の軍服を着た男。
 いた!
 群衆の中から、小さな体が素早く飛び出してくる。緋色ひいろの前へ。2体の戦闘人形ドール緋色ひいろの後ろに控えていた常陸丸ひたちまるの銃が、的確に2体を撃ち抜く。

成人なるひと!」

 生松いくまつの声。俺は、窓を蹴破り、狙い通りに、緋色ひいろの横にいた帝国軍人を蹴りつけながら落ちた。

常陸丸ひたちまる、撃つな!」
 
 緋色ひいろの声。ああ、指令の声が小さくなる。右手を握りしめて、血を吐いて倒れている帝国軍人を殴る。指令違反。頭がねじきれそうだ。胃液が上がってきて盛大に吐く。

「なぜ、なぜだ……。戦闘人形ドールが私を?」

成人なるひと!」

 そう、俺は、成人なるひとだから。だから。

成人なるひと成人なるひと、しっかりしろ」
「……成人なるひと、こいつが、何かしてるんだな」

 常陸丸ひたちまるの言葉に頷く。すぐに、銃声が響いて、頭痛が消えた。
 握りしめていた右手を開く。ああ、飴が……。

成人なるひと……」

 はい。
 緋色ひいろが名前を呼んでくれる。緋色ひいろが無事で良かったな……。
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

処理中です...