【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

28 成人 17

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 色んな手が伸びてきて、注射しようとする。大きなぶっとい針の注射を一斉に刺す。
 痛い、熱い。やめて。

成人なるひと成人なるひと

 声がしてふっと目を開けると、緋色ひいろが見えた。緋色ひいろが、ほー、と深い息を吐く。

「起こしてすまん。うなされていた」

 自分のベッドの上? 緋色ひいろもベッドの上にいる。汗を拭いてくれた。

「水、飲むか」

 うん。
 唇と唇が触れ合うと、気持ちいい。流し込まれる水を飲んで、手を伸ばす。

「くっつきたいか。待ってろ」

 ベッドで一緒に横になり、ぎゅう、と抱いてくれた。

「……成人なるひと。偉かったな」

 囁くような緋色ひいろの声が聞こえる。

「誓いを、ちゃんと覚えていたんだろ。死なないように、頑張ったな……」

 うん。
 寄り添う体が温かくて幸せだった。
 
 俺は、ものすごく弱くなったんだろうか。足が痛くて目を覚ましたのか、目を覚ましたら足が痛かったのか。とにかく痛くて、声が出てしまう。

「う……うぅ」

 口に右手を突っ込んでみる。心配をかけるから、静かにベッドにいたいのに。
 戦場では、傷の手当てなんてしなくても、とりあえず血を流しすぎないように止血して、我慢すれば何とかなってた筈なんだけど。止血して、地面に転がっていた。少しでもやわらかい土の上を探して。人に見つからない場所を探して。
 あの時も、声は出てたりしたのだろうか。気付いてなかっただけで。
 贅沢なベッドの上で、手当てしてもらって唸ってるなんて、情けない。
 目をつぶって必死に声を殺していると、ぐいと右手が口から出された。

「噛むな。どうした。辛いのか」

 緋色ひいろに気付かれてしまった。くっついているから、体が震えてしまっているのも分かるのだろう。情けない。寝てたのを起こしてしまったのかも。

「う……う……」

 大丈夫、と言いたいのに。せめて、首を横に振ってみる。
 こんなに弱かったら、すぐに死んでしまう。

生松いくまつを呼んでくる。辛い時は、どう辛いのか言え。声も出せ。伝えてくれたら助けるからな」

 優しい声。最初から優しい声だった。もう俺は充分幸せで……。

成人なるひと、忘れるな。死んだら駄目だぞ」

 ああ、とんでもない誓いを立ててしまったのかも。
 
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