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第二章 人として生きる
26 緋色 16
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「緋色さま、着きました。何やら騒ぎが」
帰りの車でうたた寝していたらしい。腕の中の成人を抱え直す。
運転していた常陸丸が、車を駐車場に置いてから声を掛けてきたようだ。
「門の外に、立派な車一台と護衛らしき車が三台ありました。じいさまが様子を見に行きましたが、どうされますか」
「とっとと休みたい。手術の付き添いが堪えた。自分が何かなる方が余程ましだ」
「それは、分かります。あれはもう二度と見たくない」
玄関に近付くと、利胤の大きな声が聞こえてきた。討ち入りか、というほどの護衛が玄関前に溢れかえっている。
「二条のお坊ちゃん。主人のいない屋敷に無理矢理上がり込もうとするのは、戴けませぬな。しかも、このように大勢で詰めかけて」
「黙れ、そこの見知らぬ九条といい、のらりくらりと言い訳しおって。泉門院乙羽を出せ」
「どのような御用で?」
「幾度も手紙を出しておる筈だが、未だこちらに寄越さぬのは何の意図あってのことか」
「緋色さま宛の手紙であれば、使用人ごときが内容を知るはずもございません」
「今、言うたであろう。乙羽を出せ」
「出せぬと返事をした筈だが?」
声を上げると、二条家の護衛がざっと脇に避けた。二条朱空が、軽く頭を下げる。
「緋色さま。姉の命がかかっております。僕が直々に受け取りに参りました。早くお渡しください」
「渡せん。帰れ」
「何故です。何故、泉門院乙羽の身を預かるのに緋色さまの許可がいるのか」
「俺の大切な友人の妻だからだ」
「手紙でも申しましたが、姉の病気が再発したのです。治療に乙羽が必要です。緋色さまの我が儘に付き合っていたら、姉が死んでしまう」
「乙羽も姉であろう。他家へ嫁いだとはいえ敬意を払え。そしてお前たちは一度、乙羽に命を救ってもらっている。その事で、乙羽の体は負担を強いられ、これ以上は耐えられぬ。よって、渡すことも、この屋敷から出すこともできん。とっとと帰れ。俺は今、疲れている」
「乙羽は贄姫。僕たちの命を救うために存在するのに、その命惜しさに姉を見捨てると言うのか」
もう本当に疲れたので、ご飯食べて寝よう。腕の中の成人の頬に頬を寄せて、一息つく。そのまま振り向きもせずに靴を脱いで玄関を上がった。
「客人がお帰りだ。常陸丸、利胤、追い出せ」
「人殺し。緋色さまは、貴い二条の姫を見殺しにされるのだ。乙羽を渡さないというのはそういうことだ」
何とでも言えばいい。俺は、俺の守りたい人を守る。
帰りの車でうたた寝していたらしい。腕の中の成人を抱え直す。
運転していた常陸丸が、車を駐車場に置いてから声を掛けてきたようだ。
「門の外に、立派な車一台と護衛らしき車が三台ありました。じいさまが様子を見に行きましたが、どうされますか」
「とっとと休みたい。手術の付き添いが堪えた。自分が何かなる方が余程ましだ」
「それは、分かります。あれはもう二度と見たくない」
玄関に近付くと、利胤の大きな声が聞こえてきた。討ち入りか、というほどの護衛が玄関前に溢れかえっている。
「二条のお坊ちゃん。主人のいない屋敷に無理矢理上がり込もうとするのは、戴けませぬな。しかも、このように大勢で詰めかけて」
「黙れ、そこの見知らぬ九条といい、のらりくらりと言い訳しおって。泉門院乙羽を出せ」
「どのような御用で?」
「幾度も手紙を出しておる筈だが、未だこちらに寄越さぬのは何の意図あってのことか」
「緋色さま宛の手紙であれば、使用人ごときが内容を知るはずもございません」
「今、言うたであろう。乙羽を出せ」
「出せぬと返事をした筈だが?」
声を上げると、二条家の護衛がざっと脇に避けた。二条朱空が、軽く頭を下げる。
「緋色さま。姉の命がかかっております。僕が直々に受け取りに参りました。早くお渡しください」
「渡せん。帰れ」
「何故です。何故、泉門院乙羽の身を預かるのに緋色さまの許可がいるのか」
「俺の大切な友人の妻だからだ」
「手紙でも申しましたが、姉の病気が再発したのです。治療に乙羽が必要です。緋色さまの我が儘に付き合っていたら、姉が死んでしまう」
「乙羽も姉であろう。他家へ嫁いだとはいえ敬意を払え。そしてお前たちは一度、乙羽に命を救ってもらっている。その事で、乙羽の体は負担を強いられ、これ以上は耐えられぬ。よって、渡すことも、この屋敷から出すこともできん。とっとと帰れ。俺は今、疲れている」
「乙羽は贄姫。僕たちの命を救うために存在するのに、その命惜しさに姉を見捨てると言うのか」
もう本当に疲れたので、ご飯食べて寝よう。腕の中の成人の頬に頬を寄せて、一息つく。そのまま振り向きもせずに靴を脱いで玄関を上がった。
「客人がお帰りだ。常陸丸、利胤、追い出せ」
「人殺し。緋色さまは、貴い二条の姫を見殺しにされるのだ。乙羽を渡さないというのはそういうことだ」
何とでも言えばいい。俺は、俺の守りたい人を守る。
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